3-11 なぜかバレていた――なぜか呼ばれていた
ありがとうございます。
黒い神の儀式により落ち着きを取り戻した赤い神は、静かに語り出した。
「……クロちゃん、雑なやり方で管理者にしちゃって、ごめんなさい」
「ん、大丈夫。もう気にしてないし……たまにアレな事あるけど、ニャマコと白姐にも会えたし」
「うん……あと、マロリー先生から……前にプライベートリサーチの許可貰ったけど、本当に良かったのかって……」
マロリー先生というのは、私の呼称。
赤い神と直接の面識は無いが、端末を介したやり取りにおいて、いつからか先生と呼ばれている。堅苦しさを揶揄っているのか、なんなのか。
「マロリー先生って……先輩の事だよね?」
「うん。説明できなかったのに、なんで承諾してもらえたのか分からないって……」
「ん、別に知られて困る事無いし、ダイコンの酢漬け貰ったし……友達だし……あの時も別に、嫌な感触とか全然無かったし?」
ダイコンの酢漬けと友人関係が同列というのは気になるが。なるほど、『感触』で判断していた、という事か。
「今も、その辺から見てると思うよ?」
その辺、とアバウトに言いつつ、的確にこちらを指差している。なぜ、観測機を通じて構成した三次元映像の視点を特定できるのか。さっぱり分からない。
「ん、知ってるよ。っていうか、最初にお母さんと会った時からずっと感触あったし……白姐も知ってるよね?」
黒い神も、こちらに視線を向ける。
思考には、なぜか私をデフォルメしたテキストアートが浮かんでいた。
「んだなぁ。ウチもニャマコ兄さんから聞いちょるけぇ」
今一つ判然としないが、どうやら盗撮は盗撮として成立していなかったらしい。
今までずっと私を意識せず、ほぼ完全にスルーしていた、と考えると少し切ない気もするが、実際にこの場に居るわけでなく、観測機がここに浮いているわけでもない。
「それで……えっと……先輩の話は分かったけど、なんの話だっけ?」
「……ニャマコ。先生に思考、伝えて無いよねぇ?」
「いや、伝える以前に解析しておらんからにゃ」
やはり、こちらに思考伝達を行なっていたのはニャマコで間違いないようだ。
「んだけぇが、先生に伝えねぇって事は、ここで話さねぇって事になるけぇ」
「えっと……感触のイメージで、教えてくれてもイイんだよ?」
「…………」
チラリと、こちらを横目に見る赤い神。
「ん……先輩、ごめん。ちょっとだけお母さんとお話するね?」
正確に、こちらに気遣わしげな視線を向ける黒い神。
どうやら、お邪魔らしいので一旦接続を切る。
――――
「先輩と直接会うのって、どれくらいぶりかな?」
「黒い神から見て、地球時間で12年と4ヶ月と19日ぶり」
「黒い? あ、私の事か……っていうか、そんなに?」
「今も、計算嫌い?」
「ん、計算嫌い。機械に計算させたくてエンジニアになったし」
「知ってる」
何故、私はここに居るのであろう。端末ではなく、生身の体で。しかも、パジャマ姿にフォークを握っている。
「そのパジャマ、カワイイね。結構似合ってるかも」
「……着替えたい……なんでだろう」
「なんでだろうね?」
「丸投げ……された?」
「えっと……お母さん寝ちゃって、そしたら先輩出てきた感じ?」
「正確には、また泣きながら菓子を馬鹿食いした後、寝たかと思えばさりげなく思考と記憶を隔離しておったのにゃ。要は、引きこもったのにゃ」
「なるほど、把握した」
どうやら、自ら説明するのを諦めて、私に説明させよう、という事らしい。
また、それだけでなく、端末含めて『私の全て』を引き込んだ事から、何かしらこちらで仕事をさせるつもりであろう。
思い当たるところはある。
しかし、予想の範囲内ではあったが、まさかこのタイミング、このままの姿で呼ばれるとは思わなかった。
「食事中だった?」
「そう。お風呂上がりに寛いでて、食べる直前に引きずり込まれた。しかも、一つしか無い1980年代の即席麺。貴重な復刻サンプルを、試食レビュー用に貰った」
「ん……カップ麺か。伸びちゃうね」
「地球のある世界は管轄外だからにゃ。間違いなく時間調整も、時間凍結もされておらんだろうにゃ」
「地球時間で、数分以内に戻れば間に合う」
幸い、相対的な時間の流れはこちらの世界の方がかなり速い。
間に合う可能性は、まだ残されている。
「こやつのアラームは、地球時間で約6時間後に設定されておるのにゃ」
ムリだった。
「自力で持ってくる」
「ん、ノシ」
「ノシ」
「面白ぇ挨拶やなぁ」
不本意ながら、一度呼ばれてしまった以上、私も傍観者ではなく当事者として振る舞わなければならない。
というか、私もこの状況が生まれた原因に関わっている可能性が高いため、個人的な事情で彼女達を待たせるわけにはいかない。
できるだけ迅速に、私物を含め、食卓であるコタツごと一旦まとめて『中継地点』に運び込む。
さらに、こちらに持ち込める形に――無難に干渉し得るであろう構成要素に変質、影響が少ないであろう状態に調整する。
訳あって、こういった作業に関しては慣れている。
「ただ」
「おか」
「面白ぇ挨拶やなぁ」
「急ぎ過ぎた。少し疲れた」
「おつ」
赤い神とは違い、世界を跨いで人や物を取り寄せる――結果的に取り寄せたように見えるほど高度な事はできない。
ただ全力で、正確に変質させ、安全に持ち運んだ。
しかし、疲労するほど急ぐ必要は無かった。
久しぶりに黒い神と直接再会し、浮かれているのかもしれない。




