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3-6 王の勘気――配下の歓喜

ありがとうございます。


 王子と白トカゲの旅立ちから一転、暗い洞窟の中へと場面は切り替わる。

 荒く息を上げた王が、向かい合っていた者を殴り飛ばしている。


「見つからないのなら、どうすれば良いか……余の指よ、考えてみろ」


「はい……王子は、山トカゲと会うために抜け出したのでしょう。この者も、そう思って山トカゲを探したようです。しかし、山トカゲから聞き出そうにも、法により話す事が許されません」


「聞き出せないのなら、ここに連れて来れば良い」


「いえ、棍で打っても起きないのです。大き過ぎて運べもせず……」


 おそらく、既に休眠しているのであろう。

 しかし、ライ種は休眠中でも感覚は変わらない上に、多少は分体にも伝わるはず。

 原因も、意図的かそうでないかも不明だが、感覚が麻痺している、という事か。


「増えた山トカゲは、小さいと聞いた。それを連れて来れば良い」


「いえ、小さな者も探しましたが……元から居た、大きな者しか見つからなかったのです」


「どこかへ移ったのか?」


「……山トカゲは気まぐれな存在です。増える事もあれば、減る事もあるようです」


 おそらく、全ての分体が持つ全ての余力を、王子との同化に費やしただけなのであろう。


「煩わしい。余が問い質す。ここに住む者は、全員ついて来い」


「全員、ですか?」


「……新しい法だ。ここに住む者は、全て余の手足とする。この目の届かぬ場所に離れた者は、追放する」


「…………」


 場面がまた、移り変わる。

 山脈と広大な湖の狭間。王の一団が、巨大巻貝を取り囲んでいる。

 配下に御輿を担がせる事で、文字通り足代わりにしたようだが、御輿に使われているのはただの大岩。

 平たく薄い形状ではあるが、数十人で担いでいる事から相当な重さであろう。

 形状から考えるに、振動を嫌う理由があるのか。

 それとも、単に権威を誇示しているだけなのか。


「殻を破れ」


「……棍で打っても、折れてしまいます。石で打っても、石が割れてしまいます」


「嚙みついてみろ」


「……はい」


 石で無理なら歯で噛み付いても大差無く思えるが、それほど頑丈な歯と顎を持つのであろうか。

 あの猫人のような頑強な肉体を持つのなら理解できるが、御輿の大岩運びに疲れ果てている様子を見るに、地球人と大差無く思える。


「……あぁ!」


「なんだ?」


 巻貝に噛み付いた者達のうち一人が、突然仰向けに倒れる。


「噛んだら痺れて……でも……」


 仰向けに倒れたまま、ふやけたような笑みを浮かべる。


「何を笑っている?」


「お許し下さい……しかし、どうしようもなく……心地良いのです!」


 蕩けたような目を向けられ、睨みつけるように返す王。


「……心地良い?」


「はい! それに、棍を振るった時に痛めた腕も、この通り……痛みが、完全に消えたのです!」


 痛めたと言うその腕を巻貝に叩きつけながら、笑みを深めて答える。


「それほどか……」


 映像を見るだけでは今一つはっきりしないが、これほどの即効性で鎮痛、陶酔が見られるという事は、このヒト種にとってオピオイド的な成分を取り込んだのであろうか。

 ライは別として、ライ種の殻はただ頑強なだけで、アルミナに似た性質を持つ純物質のはずである。

 本来の成分によるものでないとしたら、感覚遮断に起因する何かしらの変質、分泌などであろうか。

 あるいはライと同じように、何かしら根本的な変異が起きている可能性もあるが。


「これなら、王の体も――」


「薬草よりも効くのか?」


 王の声色には、興味――いや、期待するような気配を感じる。


「はい……いえ、薬草とは比べられません! これがあれば、薬草なんか要りませんよ!」


「ならば、余の腕は殻を運び、持ち帰れ。運べぬと言うのなら……削り取って集めろ」


 運ぶ事を強要するのかと思いきや、殻の成分に期待する気持ちが強いのか、別の選択肢も示す。


「はい……はい! できます! 喜んで! この殻さえ……この殻の欠片さえ頂けるなら!」


 勢いのあまり途切れ過ぎた発語をそのまま変換したのか、語順がやや不自然だが、とりあえず、『やみつき』になっている事だけは分かる。


「……許す。余の足は、余を運べ。帰るぞ」


 巻貝を取り囲んでいた者達から、歓声が聴こえる。

 王に付き添う者達は、その賑わいを何度も振り返りながら帰途に着く。

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