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2-21 乱獲――黒林檎の森

ありがとうございます。


「予想通りだにゃ」


 猫人集落へ帰り着くと、黒山のウナギだらけであった。


「んにゃー。彼らの問題の深刻さが良く分かりました」


 同じ集落に住む仲間とは思えない、距離を感じる言い回しで語る着ぐるみ猫人。


「えっと……もう仲間意識とか、無い感じ? や、気持ちは分かるけど……」


「土下座しちょるけぇ」


 通称『愚かな猫人』が、かつてない協調性で綺麗に並んでいる。顔面土下座で。


「神様、私達だけ別の群れに別れたいのですが、不都合はありますか?」


「ごめん……無理にとは言わないけど、出来れば……」


「……これからは、抑え役を常に置く事にします」


 本能的な行動を統制圧力で押さえつけるのはリスクが高いのであろうが、止むを得ないのかもしれない。


「ん、それなんだけどね。ちょっと試してみてもイイ? これなんだけど……」


「相変わらず、構築速度だけは凄まじいにゃ」


 耐久性と機能性を兼ね備えたクランク機構や、そのための効率的なアクチュエータ活用法など、これまで不足していた領域のハードウェア技術をライに教授された後、ニャマコも驚くほどの速度で組み上げたらしい。


 その手元には、黒い林檎のような物が乗っている。


「それは、どのような?」


「えっと……説明が難しいから、とりあえず見てもらいたいんだけど……」


「分かりました。お願いします」


「ありがと。それじゃ、イニシャライズ。レベルゼロから開始」


 シンプルな起動命令により、黒い林檎はその茎を八つに枝分かれさせる。

 その各枝は薄く拡大形成されたアクチュエータ。

 その先端が、丸みを描いた葉のような形状に広がり、茎を軸に回転し始める。


「イイ感じやなぁ」


「白姐の設計、やっぱ凄いよ。ほら、超静かで全然ブレない」


「んだなぁ。猫の子らには聞こえねぇ音やけぇ。良う出来ちょるなぁ」


「うむ。接近しても、ほとんどのヒト種の聴覚には聞こえんだろうにゃ」


 どうやらクランク周りだけでなく、プロペラの形状と制御システムにも工夫があるようで、静音かつ安定性の高い飛行が可能なようだ。


「あ、ターゲットの認識できたっぽい。ミニニャマコのセンサーも超優秀だよ」


「まぁ、本来は観測機だからにゃ」


「ちゃんと元気な子らだけ見つけるんやなぁ。大したもんやけぇ」


 プロペラ黒林檎は、穏やかに状況を眺める着ぐるみ猫人達に一度僅かに近づくものの、すぐに切り返して土下座猫人達に向かい、静かに滑らかな飛行で近づいて行く。

 そして、ユニークな規則的動作を始める。


「あの動きは……彼らを誘っているのですか?」


 土下座猫人達から一定の距離を保ちつつホバリングし、その視線を受けるたびに素早く横移動を繰り返す黒林檎。


「グルゥ……」


 猫人達は、その独特の誘い込み動作を目にするなり抑えきれない本能に抗う暇も無く、揃ってクラウチング状態に移行して飛びつき始める。


「避けた……避けましたよ?」


「ん、レベルゼロだと最初は誘い込み弱いけど、回避性能は高いからね。プロペラで怪我しないように、猫さん達の動きに合わせて学習しながら調整するし、ギリで避け続けるはずだよ」


「すごい……」


 始めは、群がるように飛びかかる猫人達から逃げ回る印象であったが、今は絶妙に紙一重で躱し続ける黒林檎。

 猫人達は、次第に焦れて集団連携を取り始めるが、一向に捕まる気配は無い。


「うん。大丈夫そうだね」


「ふむ、量産はワシがやるが、配置はマングローブ林かにゃ?」


「うん、ありがと。木のある場所なら勝手にぶら下がって待機するはずだから」


 これで本能的欲求を釣り上げる形で、マングローブ林に集まるウナギが必要以上に狩猟されないよう調整するのであろう。


「神様、ありがとうございます。これでなんとかやっていけそうです」


「ふふっ、どういたしまして。初めて私の発案で、ちゃんと喜んでもらえたよ……はぁ、良かったぁ」


「良かったなぁ黒姐」


 ダンジョンモンスターの行動ロジック設計で培った、ゲーム的な戦闘場面を想定した状況判定処理や条件分岐。

 『ユニサス』の乗り手にかかる負荷に関する改善案の考察と、多脚大黒虫の生物らしい運動系を基に編み出した運動性の制御手法。

 移動家屋の製造練習で培った緻密なアクチュエータ構成技術と、それによる軽量小型設計。


 これまでの失敗経験、試行錯誤の中で成長した技量をふんだんに活かし、得られたのはいくらかの安心感と達成感。

 それは黒い神にとって、相応の報酬になったようだ。


「メンテナンスはどうするのにゃ? 観測機置いて、故障不具合確認したらまた来る感じかにゃ」


「ん、そんなに頻繁じゃないだろうし……」


「んだば、それはウチの分体でやるけぇ、心配いらねぇでなぁ」


「いいの?」


「飛ぶ仕組みの基はウチやけぇ、合作っちゅう事でウチにも手伝わしてなぁ」


「……ん、分かった。でも、無理はしないでね?」


「話のネタんなるけぇ、むしろありがてぇでなぁ」


 多数の黒林檎がぶら下がるマングローブ林。飛び交う猫人とウナギ。そこに白色カタツムリが混じる。

 異様な光景ではあるが、平和な光景でもあろう。

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