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2-15 交易品サンプルの製造記録データ――神剣創造

ありがとうございます。


 ニャマコとライによる、耳無しとの交易交渉は順調に進んでいた。

 しかし、交易品の加工サンプルとして出された道具、その見た目はあまりに華美な代物であった。

 いつ、どのように、誰が製造したのであろうか。

 私が別件で席を外している時間帯なのであろうが、あまりに興味を惹かれ過ぎて、気づいた時には過去を検索し、該当する記録データを入手していた。


 ――――


「ん……形がイマイチ」


「んだけぇが、こん形で柄と身のとこを一緒にしたら、造りやすくて使いやすいけぇが……ダメなんかなぁ?」


 加工サンプルとして樹木伐採道具をいくつか生成した黒い神は、その出来具合に眉をしかめる。


 ライとしては、手頃な形状であればなんでも良いと思っているようだが、黒い神のファンタジー欲求はここにおいても何かを囁きかけるようで、見た目と機能のファンタジー完成度を諦めきれないらしい。


「……どうでも良いが、コレはどう見ても伐採斧でなく、ただの武器――儀礼剣というヤツだにゃ」


 ニャマコがそこら中に散乱した残骸の中から見つけ出したのは、見るからに実用性の薄い、装飾が華美に過ぎる長剣。

 その柄には色とりどりの幾何学模様を象った宝石細工があしらわれ、その鍔には神々しささえ漂う六枚羽の装飾が、流麗な美しさを放っていた。


「ん、それはエクスカリバーだね。めっちゃ切れるけど、超振動の熱で自壊する呪いがかかってて、資格を持つ勇者にしか扱えないんだよ」


 呪われた伐採道具を扱う資格を持つ勇者とは、どのような存在であろうか。


「それは呪いではなく、ただの不具合だにゃ」


「ん、弱い火でも加工しやすいメリット、熱に弱いデメリット……陰と陽はいつだって隣り合わせ。でも、そこがイイ」


 まるで、素晴らしい知見でも得たかのように語る。


「何を当たり前の事を……そもそも伐採――」


「んだけぇが、失敗するほど賢くなるけぇ。失敗しても諦めねぇ子は、たくさん成長するけぇ。エライなぁ」


 褒めて伸ばす育成方針を、曲げるつもりは無いらしい。


「ん、白姐に褒められると、ちょーやる気でる」


「んだけぇが――」


 ライが光る石をいくつか手に取り、両手に乗せて思案する。

 見本となる何かを、実演するつもりらしい。


「斧にこの軽さは向かねぇでなぁ。真っ直ぐな形でも、こうしたらイケるはずやけぇ……」


 軽くて硬い光る石の特性を活かして、あえて遠心力を用いる斧という形状を捨て、直剣の見た目を残したまま加工してみるという事か。


 両手に乗せて小山になっている光る石に、窄ませた口元から、白い霧の吐息を吹きかける。

 粒状にした分体であろう。

 それが光る石を包み込むように降り注ぐと、その霧の内側に熱が広がってゆき、空気の揺らぎのようなものが現れる。


 しばらくすると、ゆっくり溶け出すように石の山が融合して、じわじわと横長に伸びると、その長辺に該当する両側に鋭くギザギザの形状が現れ、芯の部分には厚みが残る。


「両刃の……ノコギリ?」


「削って切るんも伐採やけぇ」


 その刃は、ノコギリのように交互に反ったりはしていなかったが、刃の一つ一つのサイズが大きく、根本に向かって徐々に厚みを増している。

 最も厚みのある芯の部分が緩やかな曲面となっているのは、食い込んだ場合に力技で抜きやすくするためか。

 また、先端が剣のような尖りを持っており、さらには黒い神の作品と同じ、装飾過多な鍔や柄頭まで付いている。


「ん……これ! これだよ白姐! これがファンタジーと機能美の融合だよ!」


「後は、黒姐のシリコンをちぃと硬めに付けたら、持ちやすいけぇ」


 腕力が必要な構造であるため、そのままでは力が入り難く扱い辛い。

 弾力性の高い素材を工夫して、グリップを調整した方が良いという事か。


「ん、ありがとー白姐! 鞘も一緒に造ってみるよ!」


 大して用途の無いノコギリの鞘など、装飾し放題であろう。


 その様子を眺めていたニャマコが、一度大きく震える。

 急激に膨らんだファンタジーな装飾イメージと共に、興奮の感覚が伝達されたのであろう。


「……研ぎ道具も、必要だにゃ」


 意識に流れ込んだ弾けるような喜びのイメージに、いくらか汚染されてしまったのか、ニャマコが生成した研ぎ道具の見本は、小型の神剣を模した飾りナイフのような形状となっていた。


「ん、ニャマコ……ありがとう。届いたんだね、この想い……」


「…………」


 目を輝かせて、ファンタジー研ぎ道具を掲げながら見つめる黒い神。


「ニャマコ兄さん?」


「……ワシは、壊れたのかもにゃ」


 元から老いを感じさせるニャマコではあったが、さらに老け込んだ気配を滲ませていた。


「ん、完成! でも一本じゃ寂しいから、次は……ダーインスレイヴかな?」


「……一度抜けば、必ず死に追いやる……そうか、ワシ、死ぬのか……」


「ニャマコ兄さん……」


 ニャマコのセイフティ志向が、生き血を啜る魔剣によって吸い殺されたらしい。


 その後、上書きされたファンタジー思想と、ニャマコの持つ知識技術により、様々なバリエーションの神剣が生まれた。


 しかし、その翌日には正気を取り戻し、ほぼ全ての作品を塵に返し、その設計データも抹消。

 残されたのは、安全なオモチャのみであった。


「失われし夢に燻る我が心、解き放て……飛べ! クラウソラス!」


 黒い神の意思に従い、夜空に踊る光の剣は、実に幻想的な虹色の輝きを放っていた。

 実体は水の霧状粒子で構成されるそれは、通称ファントムブレードというらしい。

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