2-14 雨降らし様――ゾウリムシ復活
ありがとうございます。
現れた耳無しの者達にも、地球の人間に近い耳は存在する。
もちろん鼠人や猫人のような、主張の激しい形ではないが、顔の両サイドにこじんまりとした、その厳つい風貌に見合わない小さな耳が付いている。
「久しぶりだな!」
「獣衆はどうした?」
「こちらに住むなら歓迎しよう!」
力強く大地を蹴って、猫人達に劣らない勢いで駆け寄ってきた数人が、友好を示す挨拶なのか、腕を上げて手首を回すジェスチャーをし、ライもそれに応えて同じように返す。
「久しぶりやけぇ」
結局、全く意味が無かった雨の障壁は解除される。
「変わった色だな。殻の色を変えたのか?」
「んだなぁ。こんな色しちょった神様、覚えちょるけぇ? あっちで光っちょる玉作った神様やけぇが」
「あぁ、良く見りゃ雨降らしの神様も、そんなんだったか?」
一応、ライの読み通り『雨降らしの神』という認識で合っていたようだ。
「んだなぁ。今は雨降らしの神様と一緒におるけぇ。ここに、神様の守り役もおるけぇ」
「これは……雨降らし様……」
ライの足元に居たニャマコを目にして口にした呼び名は、偶然にも海の軟体生物と同じ物であった。
黒い神は雨降らしの神、ニャマコは黒い神の手足――眷属という扱いになり、神を外して意訳された、という事か。
ちなみにアメフラシとは、食べても美味しくないナマコのような生物の名称である。
もっとも、地球の分類上では全く違う生物だが。
「いや、ワシは雨降らしではなく、神の補佐……と言うと意訳は雨降らしになるにゃ。まぁ、とにかく、海の生物ではない別の名をつけてもらえんかにゃ?」
「……ウミ?」
海というモノを知らない種族なのであろう。
「いや、すまんにゃ。アメフラシで良いにゃ……それは、ここに納めるのかにゃ?」
「あぁ、大青虫だ。俺達の感謝を受け取ってくれ」
「…………」
ニャマコの視線の先には、巨大で青い、それも雨水を象徴するようなアクアマリン色の甲虫、というか目がクリッとして妙に愛嬌のあるゾウリムシ。
それが体液を滴らせながらマッチョ達に担がれている。
個人的には大変好ましい姿だが、ヒトのような自己認識が強いニャマコには、受け入れ難い贈答品かもしれない。
「……ダメか?」
「いや、問題無いにゃ。ありがたく頂くにゃ」
交易の交渉に来て、出された物を拒否するわけにもいくまい、という事か。
「ニャマコ兄さん、食えるんかなぁ?」
「無理だにゃ」
ライからしてみれば大青虫は食べ物という認識のため、単に食事をする機能自体を持っているか、という意味で尋ねたようだが、ニャマコの返答は心理的に不可能というニュアンスであった。
「ウチが運ぶけぇ?」
「いや……」
直接掴むわけでも、黒い神の能力を借りるわけでもなく、マイコンを出す時のように震え出す。
しかし、見た目には何も変わらず、震えが止まり次第大青虫に向かうと、脚の関節付近に触れて周る。
「そのまま下ろしてくれんかにゃ?」
「お? おう」
全長5メートル以上はある大青虫が、ゆっくりと地面に降ろされると、内に曲がり閉じていた脚が開きだす。
「大したもんやけぇ」
「これなら、神の遣いに相応しいかにゃ?」
立ち上がった大青虫が、呆然と見つめるマッチョ達を残して、滑らかな動きで歩いて行く。
どうやら、目視できないサイズの端末を生成して、稼働に支障がない脚部に埋め込んでいたらしい。
マイコンに生の筋肉をつけた、とも言える。
「ライ。大青虫は、雨降らし様の一族なのか?」
「いんやぁ。違うけぇ」
「あぁ、神様の仲間を狩っちまったのかと思ってな。でも、そうか……生き返らせちまうなんて、雨降らし様はすげぇんだな」
ここはこれまで、黒い神への崇拝が突出した地域であったが、その崇拝のベクトルは雨降らし様――ニャマコに傾きつつあるようだ。
大青虫は、カニのような食感、風味を持つらしい。
ちなみにこの時点で、食用に安全な防腐処理がニャマコにより施されている。
元は形だけ奉納してから、耳無し達が食べる予定であったとの事。




