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2-13 耳無しの集落――偽装

ありがとうございます。


 日暮れ間近に目的地についたものの、しばらく再起不能に陥った黒い神は放置され、交渉へは不参加となっていた。

 そのため、交渉相手との交流がこれまで少なかった猫人達も一旦待機させつつ、ライとニャマコの二人で集落の様子見に向かう事に。


「誰もおらんにゃ……」


 集落の中、及び集落付近には誰も居ないようだ。


 移動家屋を降りた二人が集落に向かう途中、妙な静けさに違和感を覚えた事から、生体感知を試みたらしい。


「んだなぁ。珍しいけぇが、狩りが遅れちょるみてぇやなぁ」


 この集落にも多少の縁があったライは、ここに住まう人々について事前にいくらかニャマコに伝えていたものの、このような状況は可能性が低いため省いていたらしい。


「つまり、この集落の狩りは、集落総出で行うのかにゃ?」


「んだなぁ。小せぇ子も病人も、まとめて皆でやるけぇ」


「ふむ、集落を守らずに済む、という事かにゃ……いや、他にも事情がありそうだにゃ」


「んだなぁ……んだけぇがせっかくやけぇ、アレ見してもらいてぇでなぁ」


 何か言いかけていたが、ためらうような事柄なのか、意図的に話を切り替えたようだ。


「構わんにゃ。まぁ、ワシが許可する事ではないがにゃ」


 二人が向かったのは、通称『インテリアマスコット神社』であった。


「キノコのヤツは見ちょったけぇが……なんや、エライでけぇなぁ」


 集落から少し離れたそこには、巨木が立っていた。

 もちろん真っ当な木ではなく、あらゆる色を散りばめたような透き通った神聖な輝きを放つ何かである。

 正確に表現するなら、様々な金属系の分子が能力により無理矢理並びを揃えられて、ひたすら強固に結合されたクリスタルのような見た目の何かである。

 枝は一本のみ地面と平行に伸びており、ちょうど狙ったかのように幹の長さと同じ程度で、先端はすっぱりと切られたように断面を晒している。


「祭壇は、盛り土だけかにゃ?」


「ニャマコ兄さんの像、石の耳ついちょるけぇ、カワイイなぁ」


「ふむ、造り込みが甘いにゃ。これでは雨が降ったら崩れてしまうのにゃ」


 ホーム空間に抽象化されていた神社の景観とはだいぶ異なってはいるものの、というか社すら建っていないものの、祀る心意気はそれなりに伝わる造りとなっていた。

 特に祭壇の盛り土は高く、クリスタル大木の先に届くかどうか、10メートル弱。

 麓にあたる外周は積み石により土留めされており、土山の頂上は直径数メートルほど平らに均されている。

 山頂中央部には、鳥の巣のように藁と木片を絡め合わせたようなクッションが敷かれ、その上に虹色の輝きをたたえる球体――スノードームが鎮座している。


「これは、礼拝用の舞台かにゃ?」


「ちぃと荒いけぇが、頑張って均したんやなぁ」


 土山祭壇の手前には、5メートル四方に木を並べて、その上面をできるだけ平らにして高さを合わせようと、石か何かで削り込んだ痕跡が見られる。


「もうじき日も落ちるけぇが……なんや、マズイ事でもあったんかなぁ?」


「いや、探知距離伸ばしたら見つけたにゃ。こちらに集団が向かって来ておるが……何か大きな物も……これは、運んでおるのかにゃ?」


 集落とはちょうど反対側の森の中から、鳥の群れが何かを避けるように一斉に飛び立って行く。


「……獲物担いで走っちょるけぇ。森向こうまで行っちょったみてぇやなぁ……獲物はエライでけぇ大青虫やけぇ」


「あのサイズは珍しいのかにゃ?」


「んだなぁ。でけぇ大青虫は数が少ねぇでなぁ。祝い事にしか食わねぇ特別な飯やけぇ」


 話しながらもライは、何をするつもりか、自らの頭上と足元をゆっくり旋回する白い球体を、多数生成してゆく。

 纏う純白のローブや頭髪も、徐々に形を変えながら黒く変色してゆく。


「黒いのに似せて、代役を務めるのかにゃ?」


「んだなぁ。ついでに聞いた話やと、雨降らしの神様になっちょるけぇ、こうして……」


 ライの上下を旋回する白い球体が、徐々に透き通ってゆく。

 そして、人間の可視域における反射が消えると、ライを取り囲んで雨が降り出す。


「……器用だにゃ。循環経路が見えないにゃ」


「細ぇヤツで繋げちょるけぇ」


 要は、ライがイメージした『雨降らしの神様』を演じてみる事にしたらしい。


「そろそろ来るにゃ。獲物をこの祭壇に納めるつもりだにゃ」


 しばらくして、森の木々に何かを擦り付けるような音と共に、巨大な青い甲虫が現れる。

 その下には、背は低いが筋骨隆々としたヒト種――耳無し達が群れを成している。


 先頭の一人が、偽りの黒い神を目にするなり声を上げる。


「よう! 貝のヤツじゃねーか! 確か……ライだったか、何してんだこんなとこで?」


「……バレておるにゃ」


「んだなぁ」


 ライの認知度が、想定より高過ぎたのであろう。



 耳無しの色彩感覚は、かなりアバウト。

 赤外線や紫外線もある程度知覚できるものの、その知覚の強度は漠然としたもの。

 比較対象を示すのは難しいが、常態では濃淡が僅かに分かるモノトーンのようなイメージ。

 但し、強く色彩を意識する事で、ある程度波長の判別も可能。

 目を凝らすと色が分かるニュアンス。

 

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