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2-7中 復路の景観――家屋の生成

表現微修正……2019/01/09

 再び進み出した一行は、『沼四つ足』の安定した牽引速度の限界付近まで加速する。

 集団の中で最も遅い、石舟牽引中のこの『沼四つ足』でさえ、時速60キロメートル辺りを維持できる。

 僅かに泥飛沫を上げる程度の滑らかな動きと、的確な経路選択で、積荷や石舟に些かの損壊も無く進んで行く。


 『沼四つ足』は体力に勝るが、速度は猫人達に著しく劣る。

 観測機のデータを見るに、着ぐるみタイプではない健常な猫人の限界速度は時速で360キロ前後。着ぐるみ猫人はそれ以上。

 とはいえ、瞬間的な最高速度である。荷を持たずとも一日中走り通すのなら、平均速度でこの辺りが限界であろう。


 次第に地表の水気は薄らいで、硬さも増していったが、速度が緩むような事は無く順調な旅路となった。


 たまに目にするのは、直径数メートルはあろう巨大で平らな貝。

 枯れたように燻んだ、青や紫のアジュガのような植物の広大な繁茂。

 巨大なポリープのような、滑らかな曲線を持つ風船状の物体。

 とてつもない速度で、水切りのように断続的な泥飛沫を上げながら、瞬く間に追い越して行ったのは、尾が三又のヘビ型生物。


 様々な新鮮な要素に黒い神の気が向かいかけるが、周囲の者は見慣れているのか無反応なため、それに倣ってスルーしていた。

 だが、心には僅かながら、ファンタジー熱が燻り出しているようだ。


 往路では、このように景観を楽しむような事は無かった。

 乗機は今と変わらないが、ニャマコ達のペース配分に任せた移動であったため、最高時速で250キロメートル辺りを叩き出していた。

 そして、その速度もさる事ながら、ニャマコがトレーニング代わりに防護を緩めていた事から、彼女の不安定な恒常性の維持限界を破り、関節痛がオーバーヒートしていたらしい。

 そのため、黒い神の往路を通した感想は、『ヤバかった』の一言に集約されていた。


 そんな往路とは異なり、沸々とファンタジーな想いを沸き立たせつつ、大人しく景観を楽しんだ復路二日目は、正午過ぎほどに短い休憩を挟んだ以外、淡々と移動を続けていた。

 とはいえ、ライの処置により健全な状態にいくらか近づいた黒い神も、元より強靭な着ぐるみ猫人達も、大して疲労を感じる気配は無く、平穏な日暮れを迎えた。


「ん、練習成果の見せ場だね。全力で頑張るよ」


 道中、何かを滾らせていた黒い神が、昨晩ライと約束した、野営施設の造成を始めるようだ。


「ウチは皆の馴染みに合わせるけぇ、黒姐のは楽しみやなぁ」


 二人とも、コンセプトは固まっているのであろう。

 猫人達のためである以上、彼らの評価が優先されるはずだが、必須要件に複雑な物はあるまい。

 そのため、独創性が入り込む余地は大いにある。


「ふむ……間違いなくアレか、もしくはアレだろうにゃ……」


 前者のアレも、後者のアレも、確かに想像がつきやすくはあるが、ニャマコの予想では選択肢がその二つに絞られたようだ。


「んだば、ウチからいくけぇ。良かったら造る流れも見ちょってなぁ」


 ライが伸ばした右腕の先、伸び出した白い紐のような物が地表に着くと、そこから真っ白いプラスチックのような物が円形に広がる。

 その拡張が止まるなり、糸が途切れて中心が盛り上がってゆくと、加速度的に膨張を続け、中心に向かって渦を巻いてゆく。

 そして、見覚えのある白い巻貝、その特大版が完成するなり、その渦巻きの凹凸が消え、いくらか沈み広がるようにドームを形成する。

 入り口と思われる穴が開くと、ひさし付きの窓穴も、点々と開いて行った。


「なるほどにゃ。見た目は予想通りだが、造成の流れは見応えあるかもにゃ」


「ん、カッコ良かった。てっきり貝殻でそのままかと思ったけど……流石白姐」


 泰然自若をその性とする着ぐるみ猫人達も、カタツムリの殻を目にした時は、目に驚きを宿していた。

 しかし、すぐに慣れ親しんだドーム形状が現れた事で、安心と喜びの表情を見せた。


「見たまんまやけぇが、中は周りが部屋分けされちょるけぇ。あと、火ぃは窓際にかまどあるけぇ、使ってみてなぁ」


 外形がシンプルなドーム一軒だけで全てをまかなうのは、合理的でありながら、機能美も感じられる。


 猫人達は中が気になるのか、ぞろぞろと入り口に集まり始める。


「ん……その前に、私が造るのも観てね?」


 手をひらを上に向けると、そこには小さな丸みのある物体が現れる。

 それは、グラファイトのようにも、高分子アクチュエータのようにも見える。


「じゃ、準備できたから、行きますよー……この辺かな?」


 何も無い開けた場所に移動すると、黒い物体を設置して戻って来る。

 その顔には、強い自信が窺える。

 努力した練習成果が受け入れられる事を、待ち遠しく思う気持ちも現れてか、呼吸を整えるように一度大きく深呼吸する。


「……刮目せよ……神技……」


 目を瞑って、腕を横に広げてから前に伸ばす。

 その足元からは、小さな虹色キノコが、魔法陣のような模様を描きながら広がってゆく。




 ライの家は、貝殻ではあるものの、その質感は弾力の強いシリコン樹脂。

 かまどの排気口は無いが、巨大な分体でもあるため、不要な成分は吸収される。

 頼めば、マッサージもしてくれる。

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