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2-6下 猫キャンプ――能力調理


「……さっさと行くにゃ。行きと違って速さは無いからにゃ」


 再び進み始めた一行は、途中で極太ウナギや、地中に隠れたアカニシのような見た目の食用陸貝を獲りつつ、日暮れを迎えた。


 その頃には進行を止めて、なにやら猫人達が集まって、地表の粘土を後ろ脚で掻き出していた。

 その掻き出した粘土を集めて台にした上に、猫人二人分くらいの小さなドームを、連ねるように作っている。


「これは、何に使うの? テントかな?」


 出来上がったドームの中には、石板のような物が重ねられ、間に油と思われる液体が流し込まれる。

 その上に足を乗せて、何度か踏みずらしているうちに、火が点いて広がり出す。


「飯のついでに、乾かして寝床に使うドームやけぇ」


「なんかカッコいいね。見た目着ぐるみだけど」


「今日は初日やけぇ、旅の景気付けの祭りっちゅう意味もあるけぇがなぁ。明日からは、ウチらが簡単な家造るけぇ。ウチと黒姐さんで、どっちが上手く造るか勝負やけぇ」


「うん。イイね。楽しそうかも」


「ウチは何度か、前に造っちょるけぇ。黒姐さんは、暇な時に試しちょってイイけぇなぁ」


「そうだね。少し練習してみるよ」


 既に手元では、何か良く分からない物が断続的に生成されている。

 たまに現れるドリル状の何かについては、誰も尋ねないようだ。


「途中で獲ったウナギと貝は食うのかにゃ? 簡単な調味料なら、ワシが生成してやるにゃ」


「ありがと……って言っても私、料理はできるけど、食べるのがキツイからね。どうしよ……バター炒めは、生き地獄の記憶しか無いし……ゴマ油も、ちょっと苦しいから……」


 誰かに食べさせるのであれば問題無いが、自分が食べるとなると、調味料の選択が難しいのであろう。


「まぁ、今なら問題無いはずだがにゃ……ふむ、鶏の出汁とレモンの成分がメインかにゃ? そのイメージなら簡単にゃ」


 黒い神の記憶にある成分であれば、味覚から再現が可能という事か。

 単純な成分を混ぜた調味料なら、確かにそこまで難しくは無いが、簡単とまでは言えない。


「ありがと。そっか……もう大丈夫なのか。ウナギも余裕だったし。少しずつ、慣らしていけたらいいけど……」


 会話しながらも、炭素を貼った黒いフロアー、テーブルや椅子、それに底の深い鉄のフライパン鍋を生成。

 取っ手の部分はシリコン樹脂製で、先端にはミニニャマコ人形が取り付けられている。


 調理の前に、貝の殻の半分を水に変質。

 殻半分を下に、水に剥き身が浮いたような状態で鍋底に置くと、ニャマコにより生成された粉状の成分を受け取り、味見しつつ水に溶かしてゆく。

 フライパン鍋の温度をニャマコに調整してもらい、シリコン蓋も生成、酒精を元に酒に近づけたらしい何かを軽く振って蒸し焼き。

 そして、硬めのシリコン箸を作り、多少味を見つつ、塩を受け取り調整。


「イイ感じやけぇが、せっかくやけぇ、ウチの身ぃを粉にして練ったヤツ、使わんね?」


 その、いつになく一生懸命な調理風景を、いつも通りに優しい微笑みで見守っていたライが、単品では寂しかろうと提案したのは、文字通り、身を粉にして作った食材らしい。


「あ、うん……え⁉︎ ナニソレ、キニナル」


 概要のインパクトに、思わずカタコトのような口調で、二度見しつつ聞き返す。


「まだ鼠の子らが元気にしちょった頃、祝いの日に血ぃ多めに吸うて、作っちょったヤツやけぇ。茹でて出したら喜んでなぁ。コレやけぇが……」


 どうやら、コストのかかる食材らしく、鼠人には特別なご馳走らしい。


「ちょっと味見するね……あれ? めっちゃ美味しいけど……なんだろう、えっと、うん。何味か分かんないけど、めっちゃ美味しいね!」


 差し出されるままに口に運ぶが、美味しそうに口元を綻ばせつつも、感じた事の無い味覚に首を傾げる。


「体に足りてねぇもん調べて、ちぃと変えちょるけぇなぁ」


 構成成分の分析も、微調整も、ライ種の得意とする能力である。

 なんでも自由に生成できるわけではないが、少なくとも自らの体内にある成分を、選択して混ぜ合わせるだけなら容易であろう。


「そっか。うん。この麺なら……」


 味はともかく、見た目は麺類に見える事から、調理工程に追加してみるようだ。


「ムールっぽい何かの鶏ガラスープパスタ……白姐風で」


 一旦、白い麺を味見しなおしつつ、壺漬けウナギを取り出し、壺の口を傾けて油分だけを加える。

 そして、ライの手元にフライパンを寄せると、そのまま直接投入してもらい、適当に和えながら再び塩を加える。

 見た目は色艶の良い白い麺だが、手から湯気を立てながらニュルニュルと出て来る様は、少しシュールに思える。


「できた! どう?」


 ライに差し出した小皿には、振りかけられたバジルのような粉以外は白一色のパスタに、小さなフォークが添えられている。


「……んだなぁ、貝同士で、よう合わさっちょるけぇ。ウチはヒトの感じる味っちゅうんは分かり難いけぇが、初めての味やけぇ、悪くねぇなぁ」


 一応は口に運ぶものの、食べるというよりは直接吸収しているため、口元は動かず、表情も変わらず、ただいつも通りに微笑むだけである。

 やはり、ライ種のため、血液に勝る食事は無いのかもしれないが、味を楽しむ事はできたらしい。


「そっかー。だよねー……あ、そうだ。ニャマコ味なら――」


「いや、他の食材の味が消えるだけだにゃ」


「あー、うん。そんな気がする。薄めてもブレない味っていうか……」


 ニャマコ汁の味は、単体で完成され過ぎているのか、調味料としては適さないらしい。


 その後、仕方なく一人黙々と食べたパスタの味は、しかし独り身偏食生活の頃よりもずっと美味しく、温もりに癒される気分が楽しめたようだ。


 基本今まで、満腹になるほど食べる経験が無かったようだが、この日は白い麺に箸が止まらず、食べ終わった頃には食後の幼児のように、睡魔に飲まれていた。

 お酒は雑味成分が重要過ぎて難しいらしい。

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