2-6中 着ぐるみと四つ足――黒い神の狩猟
ガチでカワイイ。
「うわぁ……絵本みたい……猫の国みたい……っていうか、結構大勢だね」
そこに集まっていたのは、これまで目にした野性味溢れる猫人達と違い、毛艶の良いフサフサした毛皮に包まれた、着ぐるみのような愛らしさを感じる者達であった。
「昔は、猫の掟を作っちょった賢い子らやけぇ。前は、獲り過ぎはマズイっちゅうて狩りを制限しちょったけぇが、元気な子らが増え過ぎて、引き下がっちょったみてぇやなぁ」
どうやら、見た目の可愛らしさや大人しさだけでなく、理性も高いタイプの猫人らしい。
「今回の成功を機に、元の立場に戻ってもらえば、鼠人も安心できるはずにゃ」
「んだなぁ。代表の子らも、そう思って揃えたんやなぁ」
かつての友好関係を取り戻したい気持ちは、確かなようだ。
「これだけカワイイなら、トラウマだって癒されるよ。きっと」
「んだなぁ。小さい子らも、賢そうやけぇ。こんなら鼠の子らも……分からねぇけぇが……ちぃと……多少、違うけぇなぁ」
よほど、その心の傷が深いのか、懸念を払拭しきれなかったようだが、多少引き合わせやすくはなったようだ。
「小さい子がハイハイしてたら、もう完全に猫だねー」
これまで話した猫人には硬さが見られたが、この着ぐるみ猫人はおおらかな様子で、皆、寛いだように手で顔を擦ったり、あくびしたりしている。
見たところ、背丈が1メートルにも満たない者が多い。
最も小さな者は、少し大きめの家猫サイズである。
「泥の四つ足というのは、こやつの事かにゃ?」
ニャマコが指し示したのは、日本語では一言で言い表せない生物。
確かに四つ足を持つが、歩行するタイプではなく、ヘビの腹板のようなキャタピラに近い仕組みで移動するようだ。
超大型のヘビに、脚パーツとして、さらにヘビを付けたような見た目である。
ヘビと意訳変換されるものの、爬虫類と呼ぶのは憚られる。
地中にウナギやチンアナゴのような生物が居る辺り、地球的な生物の分類は難しい。
「んだなぁ。昔は鼠の子らも、餌の実を濾した油で引き付けて、家造る粘土運びに連れちょったけぇ」
猫人も同様の手段で操るのか、御者らしき猫人が持ったトゲ付きの小さな壺に、鼻先を寄せている。
「壺を運ぶ箱と言っておったが、見た目はソリだにゃ」
沼の四つ足の後ろには、粘土を固めて大きな皿にしたようなモノが見える。
外側に丸みのある縁を持ち、幅は広く底は深くない。
『ばんじゅう』という食品産業で使われる薄型容器が、丸みを持って大型化した、と言ったら良いのであろうか。
その中にイモの入った壺が、寝かせた状態で並んでいる。
間を埋めている緩衝材も、粘土であろうか。
「硬い粘土に、骨やら貝殻やら混ぜて、かまくら焼きしたもんやけぇ。あんまり渇いたとこには使い難いけぇが、沼四つ足が引くなら、これで十分やけぇなぁ」
『硬い粘土』というのは、非可塑性原料入りの粘土という事であろうか。
骨や貝のリン酸カルシウムを、融剤原料にして焼いてあるのかもしれない。
沼の四つ足の尻尾から伸びる、ヒラヒラとした、非常に長いヒレのようなものを結び付けて引くようだ。
「足がウネウネしてるね。この見た目は結構好きかも」
新しいモンスターデザインに、使うつもりであろうか。
「んだば、皆、そろそろ出発するけぇ。ウチらが前で、大きい衆が後ろ頼むなぁ」
チンアナゴ警戒のため、『ユニサス』二機が先導するようだ。
「んにゃー!」
「あ、掛け声は変換されないんだね……」
猫人はやはり、猫そのものであるという疑惑が、再浮上したようだ。
「速過ぎるかなって思ったけど、余裕みたいだね……」
「こん子らには、ちぃと遅過ぎるくらいやけぇが、沼四つ足はこんくらいがちょうど良いけぇなぁ」
黒い神は、少し引き離しながら先導するつもりであったようだが、全員が悠々とついてくる。
沼四つ足の運搬速度も意外と速く、一行の速度は時速40キロメートルは超えており、地球のマラソン選手の二倍ほどであろうか。
「そろそろ、チンアナゴとやらが群れておった場所に入るにゃ」
「んだなぁ。細ヘビが出るかもしれんけぇ、皆も気ぃつけてなぁ」
しばらくして、チンアナゴ地帯に入るものの、着ぐるみ猫人達は特に緊張した様子も無い。
慣れているのであろうか。
「あ、いたよ! 見つけた!」
なんと珍しい事に、ニャマコの感知よりも先に、黒い神の『感触』が捉えたようだ。
「にゃ? 確かに……数もなかなかにゃ。お主、センサーの方も、かなり成長しておるみたいだにゃ」
どうやら前方遠くに、多数のチンアナゴが群れているようだ。
後方から、いくらか体の大きな着ぐるみ猫人が走って来る。
「失礼します。最近、細ヘビが増え過ぎているので、私がまとめて狩ってきます。神様と守り役様は、皆を連れて先に向かってもらえますか?」
着ぐるみタイプになると意訳変換の口調も変わるのか、静かに落ち着いた声で、この集団の代表らしき女性が申し出る。
「いんやぁ、あんたらがエライ強いんは知っちょるけぇが、今はウチらが先導やけぇなぁ。ここはウチが……」
「あ! 私やる! やります! やりたいです!」
やはり、見た目着ぐるみであっても、強靭なのであろう。
しかし、案内役が請け負うべき仕事として、ライが代わりを申し出るが、何を思ったか黒い神が立候補する。
「んだば、頼むけぇが……」
「うん。任せて」
「だいぶ、近づいて来ておるにゃ」
着ぐるみ猫人達も接近を感じたのか、全員が浅い沼を踏みしめ、腰を落とし始める。
しかし、やはり怖れるような存在ではないのか、彼らの顔に緊張は見られない。
「よし。じゃあ……チンさん! ごめんなさい! いくよ!」
どうやら、前回ライの狩りを見て思うところがあったようだ。
命を持つ対象なのだと自身に実感させるためであろう、陳腐だがチンアナゴに敬称をつけている。
叫びつつ乗機から飛び降りると、足にキタのか少しよろめきながら、チンアナゴ達に向かう。
「これなら、痛くなーい!」
ライが行っていた、両腕を縦回転させ前に突き出すという、狩りの儀式動作からの、締まらない掛け声。
向かって来ていた群れの方角の地面がせり上がり、跳ね上がった群れと土が渦を巻きながら一箇所に集まり、土だけが消える。
そして、一拍の停止の後に光が迸り、周囲に広がる冷気が黒い神の肌を刺す。
どうやら、昨晩の能力講座で学び得た技術を、早速実践してみたようだ。
「……ダメだった?」
『感触』で分かっているはずだが、とりあえず、何か発言しておきたかったのかもしれない。
「……苦痛を消す処置は上手いが、抽出が強過ぎるのにゃ。これでは、可食部が崩れてしまうのにゃ」
どうやら、食材目的としては失敗のようだ。
気流により一箇所に集めてから、並列で中枢神経の機能を抑制、そこまでは上手くいったものの、最後の熱を奪う度合いが強過ぎたらしい。
苦痛を消す処置の成功を『感触』から実感して、気が抜けてしまったのであろう。
「一匹ずつ冷凍すれば良かったね……猫さんも、ごめんね」
冷気を立ち昇らせながら崩れてゆくチンアナゴ達を前に、狩猟終わりの礼をする。
「大丈夫ですよ。丁寧に集めても、少し食材の節約になるくらいですから」
着ぐるみ猫人達は精神的な適応力が高いようで、冷気に目を細めてはいたものの、既に寛ぎモードで警戒態勢を解いている。
「ん……」
「初めてやけぇ、上手くいかねぇで普通やけぇなぁ。またナマに近いもんで練習してみたら、きっと上手くなるけぇ」
「そっか、ナマ……ナマコ……ニャマコでふべっ!」
ナマと聞いてナマコを連想したようだが、そのイメージ伝達に敏感に反応し、軽くネコミミでデコピンを入れるニャマコ。
最近は、黒い神への対応をスルーしがちであったが、自身に関連する事であれば、細やかなレスポンスを大切にするようだ。
中枢神経の抑制は、能力を用いればリスク少なく可逆的なもの。
神経と呼べるモノを持つ生物種に対して、汎用性の高い手法。
一言で言うなら『麻酔の範疇を超える全身麻酔』か。
具体的な該当名称は存在しないが、根元のリレー機能を担う部分に、特定信号を抑制する構造体を変質結合する、という方法。




