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2-1下 狩猟――感触と命

表現変更……2019/01/08


「縮小したら食べられなくなっちゃうし……抽出ならイケそう? でも、ゆっくりやったら逃げそうだし、加減が……あ、ニャマコで一本釣り?」


 どうも全身を能力の適用範囲に考えてしまっているようだが、おそらく感触で中枢神経に限定して、伝達を狂わせるなり遮断するなりする事ができれば、どの能力でも問題無いかと思われる。

 しかし、動きが予測し難い初見の生物。

 自分以外の生物に対して実質的に初と言える意識的な能力行使は、どのようなものであれ、まともに成功するビジョンは見えないのかもしれない。


「不穏な独り言はやめるのにゃ」


 全体的に壮絶な絵面の脳内シミュレーションは、何とも言えない後味の悪さを伴っていた。

 特に最後の発言に伴ったイメージは妙に生々しい物であった。


「あー……んまぁ、今のウチなら、まとめて狩るんもできそうやけぇ。試しでもイイっちゅうんなら、やってみるけぇなぁ」


 悩みを深める様子を見て、気は進まなくとも提案せざるを得なかったようだ。

 ふわりと舞い上がり、馬上に仁王立ちした姿は勇ましさを漂わせる。


 そして、気合いを示すのか、狩猟に関する儀式なのか、風変わりな武道の型のような動きを始める。

 それは、両手を開いたまま、腕を縦回転させて胸に揃えてから前に突き出すという、なんとも独特な動きであった。

 鼠人辺りの、種族特有のジェスチャーであろうか。


「いいの? 助かるけど……」


 自分の思いつきに賛同してくれたのは嬉しいが、どのようなリスクがあるのか分からないため、遠慮がちに尋ねる。

 とはいえ、基本的に感情を現さないニャマコが、初対面で警戒心を露わにしたライ種。

 小型肉食生物を相手に、負傷するような事は無いのであろう。


「大丈夫やけぇ……ニャマコ兄さん。こいつをしばらく歩かしといてくれねぇかなぁ」


 気遣う黒い神へ優しげな微笑みを返し、ニャマコに乗機の操縦を委託する。


「構わんが、何をするつもりにゃ?」


 ニャマコも全く心配はしていないようだが、その手段は気になるようだ。


「んまぁ、見ちょってなぁ」


 比較的浅い沼地に軽い動作で降りると、肉体重量を増やし、いくらか沈み込む。


 それを餌として感知したのか、スムーズな動きで這い寄る、肉食チンアナゴの群れ。

 その内から、この群れの中では一際細く長い一匹が、その身を縮めて力を溜める動きを見せる。

 その周囲の数匹もまた、それに追随するように身を縮める。


「んだば……命に感謝するけぇ――」


 なにやら、先ほどの儀式的動作の続きか、両腕を上げながら語る途中、鋭さが疾る。


「むご!」


 瞑った目尻に、薄っすらと涙が滲む。

 ヒト種の心情そのものや、その発露表現だけでなく、身体反応をも模倣しているのであろうか。


 命に対する礼節と思わしき、口上のために開いていたライの口。

 その開いた口や鼻を目掛けて飛び込んだ数匹は、狙い通り体内に至る。

 しかし、ライの姿形はあくまで、ヒトの外見的な見た目を模しているに過ぎない。

 次の瞬間には、狙いと思われる腹部ではなく、左右の耳からそれぞれ、その頭部を覗かせていた。


「…………」


 水道のホースに水を通すと聞こえるであろう、そんな静かな流水音のようなものが数秒流れる。

 吸収を行なったのであろう。

 勢いそのままに、尾を盛んに振り乱していた数匹は、緩やかに垂れ下がってゆく。


 最も柔らかそうな部位を的確に狙った、力強く鋭い跳躍ではあったが、体液を致命的に、しかし食用とするに程良く吸い取られ、力無く重力に身を委ねる。


 浮かない顔の勝者は、敗者達の亡骸を握りしめると、場違いなほどに小気味良い音を立てつつ抜き取り、後ろ手に投げ渡す。

 黒い神は一瞬の躊躇の後、すかさずローブ内に収納。


「……水分の吸収度合いが絶妙だにゃ」


「白姐……ニャマコヘルメット、使う?」


 妙な気遣い方を見せるニャマコと、気遣いのベクトルが直線的過ぎる黒い神。

 ヘルメットを使うという表現には、ニャマコの心理的リスクは勘案されていない。


「いんやぁ、問題ねぇでなぁ――」


 群れに向き直るライは、さほど感情の起伏を見せない。


「こうして……沼に埋まっちょるように見せるけぇ」


 自ら仰向けに倒れこむと、少し埋まるくらいまで身を沈める。

 沼の表面、水の層の振動状態に反応するという事であろうか。一斉に全てのチンアナゴが群がり覆い尽くす。


 まっさらなローブは、一瞬で泥粘土とチンアナゴに埋もれてしまったが、手で覆う口元と鼻に油断は無い。

 周囲全てのチンアナゴを、しっかりとその身に食らいつかせたまま身じろぎ一つせず、待つ事数秒。


「…………」


 一斉に萎れてゆく群れ。


「……保存するんにイイ具合やけぇ」


 どうやら、食肉の鮮度と品質を適度に保てる状態となるように、全てのチンアナゴの持つ個体差を測った上で、適切な吸収を行なったらしい。


 泥まみれなライが、気づいたらまっさら綺麗な姿で佇む。

 それを、背景に焦点をずらしてぼんやりと眺めていた黒い神は、声をかけられ気を取り戻すと、両腕を開き上げる。


「まとめていくけぇ」


 腰を前屈みに、後ろ手で器用に群れの残骸――適度に乾いた珍味を、収納ローブへと漏れ無く放り込んでゆく。


「…………」


 力無く宙を舞い、ローブに飲み込まれてゆく湿地帯のハンターであった者達を、無言で眼下に納める。


「綺麗なもんだにゃ」


 率直に、目にした機能のレビューだけを述べるニャマコ。


「イイ具合に吸うんは消耗のがデカイけぇ、黒姐さんのアレが無かったらできねぇでなぁ」


 ヒトが狩猟する対象として、可食総量が労力に対して不十分に思えるチンアナゴの群れ。

 彼らは、体液を吸って活力とするライにとっても、リターンが見合わない獲物らしい。


 サークルウォーク中の『ユニサス』に無表情で飛び乗り、直立したまま腕を交差させ胸元に引き寄せるという、おそらく命を頂く感謝辺りを示すジェスチャーを行う。


「そっか……生き物か……」


 黒い神の知る生の尊さは、その多くが『主』との間にある何かであった。

 しかし、本来ならもっと普遍的なものなのかもしれない、というような漠然とした思考が伝わってくる。


「ありがとね、ご馳走さま。いただきます」


 ――感触が無くても命はある……でも、殺生を避けようとまでは思えない……食欲が有る時、楽しく食べられる時、皆で一緒にいただくよ。


 心の内では、そのような呟きを漏らしていた。

 ライ種が活動力を得るために重要な成分は環境により異なるが、ライ種にとって望ましい環境――水を主成分とする生物が多い環境では、主に酸素、水素が関係する。

 そのため、この星においては、それらを扱い安くする成分が求められる。

 それが少ないチンアナゴの体液を吸収するのであれば、適当に雑草を吸収した方がまだリターンがある。


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