1-9下 家屋炎上調理法――旅の仲間
ありがとうございます。
「白焼きできたかな?」
「油がどうこうと意訳したにゃ。アクアパッツァとか言うヤツかにゃ?」
「楽しみだねー。とりあえず、もう落ち着いたっぽいし、帰ろっか」
少々派手な狼煙のように、勢い良く煙が上がる場所に向かうと、ドームが一軒、丸ごと炎に包まれていた。
「えっ? あー……うん。ワイルドだね」
「家屋がかまどを兼ねておるとは……流石にワシも驚いたにゃ」
ドーム家屋の入り口らしき大きめの穴、及び壁面下部に空けられた横穴からも空気が入り、やや上方に空いた窓らしき穴から火が抜け出しているように見える。
「かまくら焼きやけぇ。管理者は、あんまり祭事や風土事には混ざらねぇって聞いちょったけぇが、大事な祭りやけぇ、派手にやっちょるでなぁ」
「その辺りは管理者によるかもにゃ」
「ホントに派手だね……」
「うむ。ワシは、ヒト種の食文化にはそれなりに詳しいつもりだったがにゃ。流石にこれは初めて知った調理法にゃ」
ニャマコの知識に無いということは、あの『上司』の手が及ぶ範囲に無いという事であろうか。
それがどの程度かは不明ながら、少なくとも複数世界規模で斬新という事になるのであろう。
「ここらは油が豊富やけぇ。食える油も、食えねぇが燃やせる油も、程度の悪いもんは貯まるくらいあるけぇ」
ライはかまくら焼きと表現したが、名前の持つ風情を軽く超えて、火力低めの原始的な製鉄炉とでも言うような光景である。
調理用に使う程度なら、油には困らない土地という事であろうか。
しかし、まだ調理油や調理燃料レベルなら良いが、大油田などに当たってしまったなら、彼らの弱々しくも穏やかな気風には害悪になりかねない。
「んだけぇが、これはいつもより特別やけぇなぁ。祝いと祈りを併せちょるけぇ」
「そっか……うん、お祭りはこのくらい派手な方が、イイのかもね」
祭りなど長らくご無沙汰過ぎて、フワッとした雰囲気で相槌を打っていると、トコトコとライの友人が歩いてくる。
「神様、どう? ちゃんと楽しい?」
この齢でも、なにかしらの神事を担当する巫女役なのであろうか。
他の鼠人とは異なる、複雑な模様の全身粘土タトゥー姿で、果敢にもこの似非カタツムリ神にご機嫌伺いをする。
「ん……なんて言ってるのかな……あー、えっと……カワイイね! その格好、キマッてるよ! イケてる!」
未だに、意訳変換が上手く機能していないようで、首を傾げながらも全力スマイルで、可愛らしさを褒めてみたようだ。
「あー、黒姐さんを祀る特別な儀式っちゅう事やけぇ、ウチの神様やと勘違いしちょるけぇが、許したってなぁ」
苦笑しつつも、多少申し訳無さを滲ませて、頭にハテナを浮かべたような幼い巫女を撫でつつ謝罪する。
「ホントは白姐さんが、ここの護り神って感じじゃないの? いいのかなぁ?」
「大丈夫やけぇ。っちゅうかまぁ、ウチは皆の事、仲間やと思っちょるけぇなぁ。黒姐さんが神様してくれちょったら、ウチも助かるけぇ」
「私も、お友達くらいが良かったけど……今まで頑張ってきた白姐さんが報われるなら、それが一番かもねー」
話しながらも、目の前で仲睦まじいスキンシップを見せられて、少し羨むような、寂しそうな微笑を浮かべる。
「すまねぇなぁ……ウチは外のもんやけぇ、管理者の事は知っちょるけぇが……寂しさのキツさもなぁ」
黒い神の雰囲気を感じて、一人逸れて孤独であった頃を思い出したのか、広大な宇宙のほんの一部とはいえ、管理する立場という孤高を慮る。
「……この後、皆がご飯獲ったりできるように道具あげてから、ここで作るオイモ探しに行くけど……一緒に行かない?」
危うく、主を亡くした喪失感を強く想起されかけつつも、親交を深めようとする前向きさで誤魔化す。
「もちろん、手伝うに決まっちょるけぇが、それん成ったら、ウチの食いもん集めも要らねぇでなぁ。んだけぇ、管理者の仕事も手伝えるけぇ……ずっとついて行くけぇなぁ」
唐突に、あっさりと、管理者と共に在る事を宣言する。
管理者の役目に気軽な終わりなど無い事を、ライ種であれば理解しているはずだが。
まるで、遊びに行くかのような気軽さを感じる。
「えっ⁉︎ あー、嬉しいけど……せっかく、皆と仲良くなったのに?」
救いを得たかのように一瞬跳ね上がる強い喜びを、さりげなく、しかし意識的に押さえ込み、これまた軽く伺い返す。
「んだなぁ。んだけぇが、ウチは逸れもんやけぇ、管理者に許されたっちゅうても、皆の為には良くねぇもんやけぇなぁ」
「なるほどにゃ。永命種が一箇所に留まり続けるのは、周りにリスクが多いからにゃ。あやつらを護るなら、少し距離を置くべきだにゃ」
鼠幼女が、すっかりリラックスした様子で、理解できない異言語会話を静かに眺めている。
穏やかな微笑を浮かべたライが、その小さな体に手を伸ばし、柔らかさを得た胸元に優しく抱き上げる。
「んだけぇが、どこにも行かねぇ約束しちょったけぇ、動いて話すくらいしかできねぇ、小せぇ分け身は置いとくけぇが……」
黒い神の紹介時に号泣されてしまい、場を収めようとした勢いのままに、思わず口にしてしまったと思われる約束の言葉。
感情的には、それが本心なのであろう。
それを打ち捨てて、約束も反故にするような鋼の意思までは、持ち得なかったという事か。
「そっか……ミニニャマコと違って、ミニ白姐さんは有能なんだね」
「いや、なぜそこでワシがディスられるのにゃ……いや、だから、ワシが貧相に萎びたイメージを伝えられても……」
仲間が増えるという確信を得て、胸に湧き上がる喜び。
それを一旦隠し、しまい込む。
ライの、見た目通りに聖女のような心根に触れた事で、自らの利己主義的な傾向に気恥ずかしさとむず痒さを覚えてしまったようで、とりあえず、ニャマコをさりげなく『ディス』って、場を流してみたらしい。
「ニャマコ兄さんも、永く一緒に、頼むなぁ」
「いや、お主も寿命はない永命種にゃ。末永くどころか、永遠によろしくしてやるにゃ」
その素直で混じり気の無い挨拶に、出会った当初の冷淡さを含んだ対応を悔いているのであろうか。
「ありがとなぁ。そろそろ飯も仕上がるけぇ。口に合ったらイイけぇが」
「あ、うん。えっと……あー……それじゃ、ウナギ祭り、アゲていこー!」
主の手がかりもなく、枝道脇道で道草を食う日々。
けれども、そこには以前のような、どこか投げやりな様子は見られない。
渇いた大地の賑やかな祝いの場で、柔らかくしっとり潤う同行者達と寛ぎ、特大ウナギの白焼きらしき物を頬張る。
その塩分控えめな油焼きは、ふっくら優しい味わいであった。
油田も、ライ種の助けも、過剰な余裕を生むのであれば、過剰な争いも生む。
飢えも、孤独も、度が過ぎるのであれば同様。
とはいえ、過剰も不足も無い平坦な状態が長過ぎれば、自然選択から漏れる事もある。
緩やかに波打ち、変化し続けるなら……ぷよぷよ……ぽよんぽよん。




