1-6下 モンスター起動――ウナギ
ありがとうございます。
いよいよ、黒い神のファンタジー創造物達がその活動を開始する。
彼らの見た目はモンスターだが、その本来の機能は、地下空間の探索調査である。
「よし、それじゃ……えっと、基点登録はズレやすいから……ちょっとずつズラして、ぐるぐる探索だね。許容超える壁があったら再帰探索で」
「……起動時のイグニッションは、ワシが理解できる日本語であればなんでも良いにゃ」
既に、基本的な探索機能は組み込み済みであるため、細かい設定項目を指定するだけで良いはずである。
「うん。じゃ、日本語で……螺旋探索。最大半径ニャマコとの現在距離の千倍。基本速度はレベル30で、基本ピッチは統合マップ未踏域の最小化予測使う。大型だけは障害物回避距離を最大……衝突判定レベル……(略)……指定項目以外はデフォルトのままで。以上」
「途中の生物を殲滅しながら、血まみれで戻ってきたら恐ろしいにゃ」
ニャマコがすぐに気づけないような形で、自爆機能が仕込まれていた以上、他にも怪しい機能が隠されている可能性がある。
「安全性とかは苦手かも。柔らか系担当のニャマコにお任せで」
ダンジョンモンスターを創造する黒い神には、安全性の配慮は望めないのかもしれない。
「空いてる容量に、安全性のための処理系を積めるだけ積んでおくにゃ」
「優しさ低反発だね」
「お主は、ジルコニア製タオルだにゃ」
「打てば響くかも」
「薄いからにゃ」
「それほどでも――」
「あるにゃ」
「…………」
マッチョ達の集落で、逃走用スロープの薄さから、楽器のような響きを奏でていた件と掛けているのであろうか。
彼女の意識は、自分の胸に向いていたが。
二人の掛け合いの場には、なんとも言い難い空気が漂っていたものの、彼女ら合作の探索機は無表情に、しかし見た目に反して柔らかく静かな足取りで動き出す。
全てのモンスター型探索機が、淡々と螺旋を描くのをぼんやりと眺め続け、いくらか離れて静まり返った中、二人の斜め前方に、黒光りする何かが落下する。
「あっ……え? ナニコレ?」
一瞬で、彼女の周囲を覆い尽くすニャマコ。
しかし、被害などは特に無く、粘土質の土が多少跳ねた程度であった。
「……ふむ」
重く、しかし若干柔らかさを含んだ音を立てて、めり込むように地面と衝突した何かは、生物と思われる。
その姿は、大きなウナギのようにも見えるが、妙に太ましい。
数秒の停止の後に、その太くて長い生物が鎌首を持ち上げて、目なのか触覚なのか判別のつかない部位のついた、顔らしきモノを向けてくる。
音にするならば『ギョッ!』であろうか。
やけに目ヂカラのようなものを感じるこの生物は、およそ1メートルほどの長さで、力士の太腿のような太さ。
頭部には、触覚やらトゲ付きのエラやら、大きなヒレやらのついた、なんともインパクトだらけなウナギもどきであった。
「……あ?」
――めっちゃ、目が合ってる。
「ここは、沼が多いのかもにゃ。こやつは、陸魚の一種だにゃ」
危険性は無いと判断したのか、防護を解いてにじり寄り、ネコミミで捕らえにかかるニャマコ。
「……にゃ」
「すごいね。今の避けるんだ……上に潜っちゃったね」
そのサイズの割に凄まじい跳躍で、粘土質の天井に潜り帰ってしまった。
ニャマコも、本気で捕まえるつもりはなかったのであろうが、彼女の目には捉えきれないネコミミの捕獲鞭を、軽々と避けたのには驚かされた。
しかも、器用なことに潜った穴は塞がれている。
「ふむ、元気だにゃ……似たような生物は多いが、お主の記憶にある中では、ウナギというのに似ておったにゃ」
「美味しいの?」
やはり、最近は体調が良いのかもしれない。
食欲があるのは、良い兆候であろう。
「細かい成分分析はしておらんから、正確な味は分からんが、お主の味覚には合うはずにゃ」
「ウナギ、キニナル」
彼女の記憶では、最期にウナギを食べたのは、半世紀以上前である。
「フェンリル型というヤツの制御マイコンに、今の情報を使って捕獲命令を入れておくにゃ」
「捕まえられるかな? めっちゃ速かったよ?」
「あのタイプの陸魚であれば、口の中にあるマイコンから超音波を出せば、捕獲できるはずにゃ」
「そっか……うん。今なら、なんかあってもニャマコ居るし……食べられるなら、食べてみたいかも」
例え、消化器に異常が見られても、ニャマコが居れば安心感はある。
食の楽しみが得られるのであれば、彼女の機能も、多少は改善するかもしれない。




