1-6中 探索機――自爆機能
表現修正……2019/01/12
探索機のボディ形成と内部ロジックの設計実装の間、いくらか意識レベルを落としていたニャマコの体が、力強く揺すられる。
どうやら、試行錯誤の末、完成まで至ったようだが、その工数は地球時間で、およそ二週間ほどかかっている。
開発開始前にニャマコから与えられた、思考操作機能と柔軟な補完機能を持つ開発環境一式により、コーディング方面に関してはある程度のクオリティが保証されている。
とはいえ、ボディ形成はほぼ独力のため、それなりに苦戦はしたはず。
「おはよう、ニャマコ! できたよー!」
声色は明るいが、表情には色濃い疲労を感じる。
「うむ。おはようにゃ……ふむ……これは……もはやマイコンの原型を留めておらんにゃ」
「どう? これなんか、かなりの力作だよ! 強そうなドラゴン! あと、カッコ良くて速いフェンリル!」
この空間は高さの余裕が無いためか、四足歩行タイプの爬虫類型や、横方向に体長が取れる獣型の形状が多いようだ。
サイズ自体は、最大で高さ3メートルほどで、横と奥行きの長さは種々様々。
「……サイズに対して出力は足りるのかにゃ?」
「全部、運動系マイコンは全身に埋まってるけど、メインマイコンが複数のもあるよ」
運動の起点は、多数のマイコンで分散する、という事か。
「随分と凝ったものだにゃ」
「これは、3個タイプのケルベロス。こっちは、8個のヒュドラだよ」
名前は悍ましいが、見た目はスマートな流線で構成されており、シルエットの格好良さを追求しているようだ。
しかし、頭部にはツノや鋭い毛束などが見られ、攻撃性も感じる。
「ふむ、並列では無く、切り替え式かにゃ?」
「うん。あと、これ。両端頭部のヘビ、アンフィスバエナ。これなら、どこでも移動可能だよ」
その前後に長い体の両端は、西洋の竜のような厳つい形状だが、細かい鱗に覆われた蛇腹部分には、東洋の龍のような滑らかさを感じる。
「ふむ、蛇腹の対称性は機能的かもにゃ」
「あ、ちゃんとラスボスは、ニャマコっぽさを残してるよ」
「ラスボスの意味は読み取ったが、単純に大物という意味かにゃ?」
「ほら、どこを切り離しても、またくっつく。全身メインマイコンだらけの、クライマックスキングナマコ」
どう見てもナマコでしかない見た目だが、その身の一部を引っ張ると、多角錐のパーツが取り外される。
そのパーツを地面に放ると、小さく薄い多角錐が連結した物が本体接合部に伸びて、自らを引き戻して嵌まり込む。
「ワシに対する認識が、ナマコで固定されておるのは理解したにゃ」
「ニャマコと同じく、弱点はすりおろし。全部削るとゲームクリアだよ。おめでとう」
彼女の思考イメージを確認したところ、調理用すりおろし器で多角錐を削り、極小のマイコンを一つずつ取り外す光景が見られた。
ゲーム性は薄い。
「……見た目のまともな奴は、見当たらんにゃ」
「ん……人型は難しすぎて、不具合の坩堝でムリゲーだったから……」
おそらく、ニャマコが聞いたのは、『探索機として』という意味だと思われるが、彼女は『人間らしい』という意味で捉えたようだ。
「まぁ、迫力ある造形技術は、評価できるかもにゃ」
「形だけじゃないよ。ちゃんと自然に柔らかく動けるし」
思考イメージには、強固に結合された耐久性の高い極細ワイヤーのような物が、ゲル状の何かの中で複雑に絡み合い、その周囲にマイコンが並ぶイメージが見られた。
回転運動用のクロス構造と、ゲルの圧力変化による柔軟性の制御らしい。
「ふむ、やたらセンサーを多用しておったのは、そのためかにゃ?」
「ほら、スムーズでしょ? 飛べるタイプは無いけど」
ドラゴンの足元を、波打つように拡大縮小させるが、器用に重心をコントロールしている。
強く弾いて転倒させても、やや不自然な、規則正し過ぎる振り子運動は見られるものの、起き上がり自体は危なげない動き。
「お主の記憶で言うと、高級なネジ巻きオモチャだにゃ」
「うん。不具合嫌だから、基本的に一部のセンサーからの割り込み以外は、一個の入力に単純なことしか出来ないけど……多機能だよ?」
多機能という点が強いアピールポイントらしく、ニヤリと笑みを浮かべる。
「移動探索と関係無さそうなイメージばかり伝わってきたのは、それが理由かにゃ?」
「もちろん全部、探索メインだから、センサーで取れる情報は、どの動作でも全部取れるようになってるし、ここなら嵌り難いから、問題無いはず」
「ふむ……まぁ、中身を見てみるかにゃ」
ニャマコの体が固まったように停止し、同時になにやら、陽炎のような波が広がってゆく。
それに反射するように、造られた者達それぞれが、多数の細い光線のようなモノでニャマコと繋がれる。
わざわざ、それらしいエフェクトをつけているのは、種類を問わず、全てのミニニャマコと接続した事を、視覚的に表現しているのであろう。
全て、しっかり確認しているという意思表示か。
「……ふむ。やはり、情報処理はだいぶマシだにゃ。少ない命令の組み合わせと、記憶領域のセコイ使い方が絶妙にゃ」
「セコくないよ。太っ腹だよ」
「大胆かもしれんが、全体的に設計自体はコンパクトだにゃ」
「薄い軽い小さいは、日本人の売りだよ」
ソックスを厚底にして、腕を組み、ニヤリと笑う。
「思考も浅いにゃ。再帰処理のネストの方は、深過ぎだがにゃ」
「薄いのも重ねまくれば、層が厚いって言えるんだよ」
「生まれたての成長型AIよりは、器用な状況判断ができそうだにゃ」
並列思考で重ねた、シンプルな処理の累積深度の有効性は、及第点のようだ。
「あ……あと、ちゃんと、どの流れでも行き詰まったら自爆するよ!」
「……何と闘うつもりにゃ。なぜ筋肉とマイコンで、爆発という発想になるのにゃ?」
致命的な不具合に対して、シャットダウンで対応するニュアンスなら、理解できなくもない。
「良く、聞いてくれたね! そこがポイントだよ!」
疲労が色濃い表情に、活力が戻る。
「いや、仕組みは予想できるし、イメージも伝わっておるが、実装する意味が――」
「自重の一万倍くらいの重さに耐えられる筋肉だよ? 空気をそれだけ圧縮できるって事だよ」
「だから、できるのは分かるが……」
「これはもう、腹部拡張、各部急弛緩、全身膨張からの、緩やかな収縮でタメ作ってからのー、どーん! って感じのクールな自爆で、イッちゃうしかないでしょ?」
「予備動作があることを、優しさと捉えたらいいのかにゃ?」
むしろ不具合を装い、演出で惹きつけ、犠牲者を逃がさないトラップ。
「これで、このダンジョンの平和は保たれるよ」
「どう見ても、ただの地下水脈跡かなにかであって、夢と冒険の舞台では無いにゃ」
ダンジョンという不明ワードから、記憶を読み取ったようだ。
「これぞ、ファンタジー!」
「いや、ファンタジーかもしれんが……」
ファンタジーというよりは、ファンタジーを求めたい熱意であろう。




