1-6上 コネコネ系――窒素酔い
文体微修正……2019/01/23
「あと必要な工程は、数百倍程度の拡大と、固定のための結合、ワシのリソースの混ぜ込みだにゃ」
「ニャマコ汁……つなぎ……ハンバーグ」
アクチュエータハンバーグとは、随分と歯応えがありそうな響き。
「これで、微弱な電流をトリガーとして、大きな運動量を得られるのにゃ」
「ミニニャマコより、ニャマコ汁の方がイケてるね。なんか、ロマン感じるかも」
ミニニャマコも、地球基準で考えれば相当な物。
とはいえ、栄養豊富で味にも優れ、神樹の養分にも燃料にもなるニャマコ汁の万能性は、確かに夢がある。
実際は、そこまで神秘的なモノでも無いのであろうが、彼女なら可能性を考えるだけでも楽しめるであろう。
「ワシのリソースも重要だが、お主の管理者能力を併せるからこそできる荒技にゃ」
「ん……私も、えっと、プログラミング系とか、コネコネ系とか得意だよ」
管理者能力は与えられたモノであるため、自身の技術も認めて欲しい、という事か。
彼女の場合、プログラミングそのものというより、要件や仕様からの構造イメージや、直感的な予測、先読みが優れているのだが、それらをまとめて一括りにしてしまう寛容さこそが好ましい。
ちなみに、コネコネ系とは、クリスタル切り株の時に行った、並びを揃えて透明度を高める結合の事であろう。
「そのお主が得意な捏ねるヤツを、全部まとめてやってしまうのにゃ」
「任せて。コネまくるよ。フリーランスは、コネとゴネでネゴるのが重要だからね」
実際は、ただの能力練習だが、自分の技が必要とされたようなニュアンスが、彼女のモチベーションを高めたようだ。
日本の年寄りらしい語呂合わせは、フリーランスに限らず、大抵の商業活動はコネとゴネ――関係の強さと意思の強さが重要。
つまり、技術は二の次という意味であり、なんでもやってやるという意気込みを示しているらしい。
「これが済めば、筋肉は完成だにゃ。後はお主の本領、制御部分のプログラミングだにゃ」
「ん、面白そうだから、いっぱい作ろう」
視覚的な派手さが欲しかったのか、わざわざ一瞬で巨大な塊をいくつも生成し、地下空間に乱気流を巻き起こす。
大量の黒い物体が一斉に辺りを埋め尽くす様は、自らのやる気をさらに刺激してくれるのであろう。
「今回の用途に合うフレームワークも、スケルトンになるモノも、結構種類があるからにゃ。好きなだけ作ったら良いのにゃ」
「はーい! こねこねー、こねこねー、伸ばして捻って、こねこねー」
捏ねた後には、なぜか相当な割合でキノコのような形になっている。
特に意味は無いと思われるが、形成しやすいのであろうか。
同時多発的に、様々なタイプのキノコが大量生産されている。
「……大した集中力だにゃ。並列処理数と規模だけなら、既にワシを超えるかもにゃ」
「……伸ばして、捏ねて……ぎゅーっと捏ねて……ねぇ、一緒にこねこねしない?」
なにやら、またも様子がおかしな事になっている。
目の前には、人の背丈ほどのキノコ型素材が直立している。
「お主……また誰に話しかけておるのにゃ?」
「……あ、ごめん。変質しなきゃ。変質して、捏ねて、伸ばして……あれ? 伸びないよ? ほら、育ち盛りなんだから、もっと捏ねなきゃ……もっと捏ねなきゃ! 全然伸びないよ!」
もしや、また窒素酔いであろうか。
捏ねる作業に集中し過ぎて、窒素の変質が疎かになっているのかもしれない。
「だから、誰に――」
「神様は、いつだって捏ねてるんだよ!」
「……並列処理し過ぎて、オーバーヒートしておるのかにゃ? 酩酊状態に近い感覚だにゃ」
テンションも高いが、感情の波も酷い。
こちらの世界に来てからは随分と好調な様子であったが、何かフラストレーションでも溜まっていたのであろうか。
「……私はシラフだよ! ちゃんと捏ねてるし! キノコもいっぱい伸ばしてる!」
「いや、もうアウトだにゃ」
微妙に目が座っているが、その焦点は左右にブレている。
思考イメージにもキノコ栽培用の原木が大量に並んだ、謎の光景が広がるばかり。
どうでも良いが、原木から生えているのはエリンギとナメコであろうか。
原木栽培のナメコは高級な秋の味覚を感じるが、エリンギはビン栽培しか知らない。
彼女の食生活は元から悲惨な物であったが、管理者になってからはさらに食から遠のいてニャマコ汁のみ。
健康的な食欲が出てきた、という事であろうか。
安心して彼女に食べさせられるレシピとしては、シンプルにナメコの赤だしとエリンギのきんぴらか醤油焼き辺りであろうか。
いや、私も彼女の様子に動揺し過ぎたらしい。
このような余談を重ねたところで、目をそらしているに過ぎない。
「ナメコ……あ、ニャマコ……ごめん。ホントにもうシラフだから、大丈夫」
ナメコのイントネーションが、完全にニャマコであった。
「……次からは、強制的にホームに戻すからにゃ?」
「はい……ごめんなさい……」
窒素酔いがクセになってしまったのであろうか。
彼女のテンションが高まるのは喜ばしい事だが、ここまで酩酊状態が酷いのは見ている方も心配になってしまう。
なるべく、酔い過ぎには気をつけて欲しい。




