1-1 言葉の壁――殺意
表現を微修正……2019/02/04
「####? #####!」
「……ごめん、ちょっと何言ってるか分かんない」
「……意訳変換の辞書をアップデートするには、言語や動作を見聞きするしかないのにゃ」
「間を持たせろって事?」
ここで言う意訳変換の辞書というのは、意訳対象となる情報と保有する言語知識を結びつける照合データの事。
意訳変換で直接思考を読む前段階とも言える。
当然、情報が不足すれば不整合などもあるため完全な信頼性は無いが、この場においては妥当な手段か。
「うむ。簡単な周囲の物、単純な意思を示す言語は、拾い次第判別できるはずにゃ」
「感触も微妙に違う……読み難い……」
このツールは、脳内を直接解析するわけでは無いため、ある程度時間をかけたサンプリングが必須。
友好的な雰囲気が見られない以上、猶予はさほど無いのかもしれないが。
「####。光####あなた##上####。##私達####見る####大きく多く####」
「……ごめん、やっぱまだ分かんない」
周囲にある物や現象、簡単な形容詞や動詞の特定だけでは、やはり難しいのであろうか。
弱りきった顔筋で、硬い口角を引き上げる。
軋む満面の笑みで、小首を傾げる。
「私達、####願う####あなたが、光##多く見せる事を」
「……あ、あー……キラキラが好きなのかな?」
なぜ求めるかは不明だが、とりあえず対話の糸口として、相手の要望が得られたのは大きい。
「ふむ……」
「えっと……そのまま粉末はまずいから、帯を……球体からの……拡張からの……色んな色になるように……ザックリ中だけ分解」
光る物と聞いて、先程のスロープの乱反射を思い浮かべたのか、微細に乱れた金属粉末を考えたようだ。
しかし、そのまま撒き散らした場合、相手も自分も人型の生物である以上、肺呼吸に危険がある。
そのため残り僅かな帯を用いて、粉末を包み込む透明度の高い球体を作るつもりらしい。
強度に関してはスロープの経験上、ある程度保証される事は分かっている。
「表面透けるまで薄く……固定の結合をギュッと……はい、完成!」
技量不足が功を奏したのか、適当な分解によりかえって綺麗に波長が乱れ、球の中には乱反射する多彩な色粉が積もっている。
球体の表面も同様に乱れ輝き、全体的に神秘的な趣を感じる。
「えっと……これで、どうでしょう。スノードーム……です」
「…………」
「……ダメ?」
反応は芳しくない。
訝しげな視線の中、必死に思考しているが、焦りの感情が強過ぎてまとまりが無い。
「……にゃー!」
何も思いつかなかったのか、スノードームを掲げて叫ぶ。
沈黙と共に深まる、訝しげな視線。
「……ふぇっ、クシュ!」
球体の外側にも粉状の何かが生成されていたのか、鼻腔がくすぐられたらしい。
そのくしゃみの緩い衝撃に、スノードームがキラリと瞬く。
「……ほら、光るよー!」
ヤケになったのか、全身を使って振り始めると、スノードームから陽光を激しく乱反射した七色の輝きが溢れ出す。
「……####?」
必死に振り続けるものの、反応は芳しくない。
「折れる……砕ける……もう無理……」
僅かに涙を浮かべ、情に訴える。
「……天####……金##雨####!」
なにやら、遠くに流れ始めてきた雲とスノードームを、交互に槍で指し示しながら、騒めき始める。
「なるほどにゃ……」
「なんか、感触キツイ……なに? 空? えっと……」
「待つのにゃ。お主、感触センサーの感度が――」
ニャマコも、同期による間接的な『感触のキツさ』を受けているようだが、その強さが想定を超えている、という事であろうか。
「光####! ####願う! ####『殺す』##求める!」
力強い要求に、殺意が混じる。
「なんか今、変な単語入ってたけど……翻訳ミスだよね?」
「……何かを欲しておるのは間違いないにゃ。まぁ、予想はつくが……断定はできんにゃ。それよりこの感覚は……一先ず距離を取った方が良いかもにゃ」
辺りを包んだ、熱く溢れる闘志の渦は、言葉の意味があやふやで理解が及ばない状況では、狂気にも受け取れる。




