1-0 天井裏――狩猟社会のヒト
表現を修正……2019/02/19
枝道を抜けると、薄暗い空間。
「これ……」
「ふむ……」
「天井裏だよね?」
規則的に並ぶ木製の柱。
梁のような構造。
「……骨組みは石と木、屋根は油脂分の多い生物の皮、あまり定住には向かない構造だにゃ」
「構造はどうでも良いけど……外出たいよ」
「どうでも良くはないにゃ」
「……?」
「この重い柱と硬い石材を、加工して組み立てるほど知能と力を持つ生物を、刺激する可能性が高いのにゃ」
建築物の造りは単純。
しかし、一つ一つの素材が大きく、地表からの高さは彼女の背丈の5倍ほど。個々の素材も重量を感じる。
これらを扱うには相応の技術か力が必要なため、その辺り考慮に入れるべき、という事か。
「えっと……壊れないように、目立たないように……分解と結合で出たらイイのかな?」
「他にも手はあるが……まぁ、思うようにやってみると良いのにゃ」
周りの『感触』を確かめて、屋根の一部を分解。
音をなるべく立てないように、切断するように、面ではなく線で分解する。
「ふむ、二度目にしては上手くやれた方だにゃ」
「高いね……」
そのまま飛び降りた場合、確実に負傷する。
「安全に降りるのは簡単だにゃ……ただし、知覚の種類によっては感知されやすくなるかもにゃ」
聴覚は、話し声程度では感知されていない。が、それ以外の知覚がどの程度かは不明。地球の生物が持つ知覚以外を持つ可能性もある。
「とりあえず感触だと、大きな生き物はこの辺に居ないっぽい。でも、遠くは分かんない」
「うむ。焦らずに、じっくり考えるのにゃ」
「ヒトっぽいのは居るけど、重そうな感じだから……バレても届かない距離ならイケるかも」
形状と重さであれば、『感触』から判別がつくようだ。
「ふむ」
「……『上に登るスロープ』なら……ニャマコが作ってくれたローブ、あの感じで薄くして結合したら壊れないから……」
ニュルニュルと、やや拡がりをもって伸びてゆく帯の一部。
「これは……ただの強行突破かにゃ?」
「ん、イケるイケる」
彼女が知覚できる可視光線をほぼ透過する薄い膜が、空に向かって傾斜角30度ほどで、螺旋状に伸びてゆく。
高さ5メートルほどまで伸ばすと、今度は太陽のような恒星の方角に、地面と平行に伸ばす。
たまに、漏斗パイプ状の支柱も降ろしてゆく。
「……出来た」
「ふむ、スロープにはなるかもしれんが……」
「少しならバレても……一度離れちゃえば諦めるはず……」
「いや、その薄さ――」
踏み出した足が、膜に触れた瞬間、澄みきった高音が鳴り渡る。
慌てて止めた足元からは、なんとも形容し難い余韻が広がる。
――なんか来てる……だいぶ来てる……マズイ。
「こんな音、初めて聴いたかも……」
「今のお主の半端な技量で、ワシの一部と収納が混じった帯をそれほど薄く延ばして固めたなら……それなりの延性になるからにゃ」
「ちょっと伸びた方が、音も出ないかなって……」
硬度や延び具合はほぼ予測した通りではあったものの、空気振動に関しては短絡的過ぎたらしい。
「ふむ……あやつと似て詰めが甘いにゃ」
苦笑い気味にせせら笑う。
「こうなったら走るしか……かなり余裕見て伸ばしてるから、きっとそこまでは来ないよ……」
「ワシのセンサーには、周囲にヒト種が感知されておるにゃ。体の構造から考えるとムリだにゃ」
「……こういう時は勢いが大事なんだよ」
勢い良く走り出すものの、独特の甲高い音に不穏な音が混じる。
「なんかパキッていった……でも……イケる!」
『感触』を頼りに、前だけを向いて螺旋を駆け上がり、登りきったらさらに加速。
日差しに照らされて、揺れる膜が光の波長を乱し、虹色に輝く。
強い呼吸に乱れは無い。が、彼女の肉体は体力そのものというより、耐久性と苦痛を感じる度合い、炎症の起こりやすさに著しい問題がある。
「あっ……骨が、なんか、軋んでる……」
「やはりお主、管理者にしてはヤワ過ぎるのにゃ。まぁ、無理に急いでも仕方ない……下を見てみるのにゃ」
「うわぁ……」
高低差はあるが、かなり余裕を持って十数名に追走されている。
――マッチョ過ぎるし、いっぱい……犬みたいなのもいるし。
飼い主と走るのが楽しいのか、目を爛々と輝かせて、吠えながら尻尾を振り回し、乱舞している。
それを見てか聴いてか、遠くからさらに集まって来る。
なにやら、野太い絶叫も聞こえてくる。
地上を見下ろせば、バイパスの合流口のような状態になっている。
一部の者は、石の鏃の付いた木の棒を振り回している。
「見た目もスゴイけど、感触もキツイ……」
恐怖のあまりテンションが上がっているのか、歪んだ半笑い。
「原始人、ナメてたかも……でも、当たり前か」
数百メートル走りながら、武器を大きく振り回しながら、集落全体に響き渡る大声で何やら叫び続けているが、まったく疲労は見てとれない。
「この環境には適した肉体だにゃ」
「出来が違い過ぎるよ。ほとんど類人猿だよ……」
「若干、見下しておらんかにゃ?」
「……皆で集まるとか意味分かんない。ただ空を散歩してるだけの年寄りなのに――」
「彼らにとっては十分異常だにゃ」
「なんであんなに盛り上がって……筋肉も盛り上がってるし……少しは分けてよ、その健康」
「……この分だと橋の終点までついて来るのにゃ」
「もう伸ばす素材が……土は、崩れそうだし……木材も、微妙かな……」
「ワシの助けはいるかにゃ?」
「……まだ大丈夫。――この試練を超えたら、私……」
無表情でブツブツと呟く。
「今、思い浮かべたフラグという単語は、どういう意味かにゃ?」
「フラグもワザと立てれば折れるって言うし……その前に、足の骨が折れそうだけど」
「……帰るかにゃ?」
「……一期一会を大切にしたい」
「ふむ……意訳変換で、飛んで火に入る夏の虫というのが出てきたにゃ。水が主成分の生物が、日差しの強い季節に火に近づいたら、保水力によっては致命的だにゃ」
言葉の意味が異なるが、注意喚起したいのであろうか。
「……肌艶には自信あるけど、ニャマコのぷよぷよボディは羨ましいよ」
「もうじき終点だにゃ。この場合、見た目が貧相なのは良くないかもしれんにゃ」
「ん、堂々と……最期は前のめりで逝くから看取ってね」
「……ワシの助けは必要かにゃ?」
「ん、大丈夫。もう少し頑張る……」
腕を組み、胸を張り、透き通った甲高い音を響かせながら歩く。
揺れるライトブルーの猫耳団子を頭に乗せ、昼でも分かるほど発光する尻尾付きで、風にたなびく黒ローブが降りて行く。
その先には、全体的に背が低く、体表の半分近くが体毛に覆われた集団と、犬のような生物。
やや腰を落とした姿勢で、槍衾。
犬も身を硬め、低く唸る。




