3-37 プラシーボとセブンオール――露出とうぇへぶ
ありがとうございます。
判定結果の最上位に、やけに太く強調された文字列。
「――『全ての能力を使う』と書いてあるにゃ」
「ん、チーズさんが言ってた『万能魔法士』ってコレの事?」
「ええ、ですが……但し書きが付いてますね」
予想通り、万能魔法士ではあった。
しかし、その太く大きな文字列の横に、更に力強く、大きく、何か追記されていた。
「うむ。単語が二つ……左は『体を癒す』、右は『リメイク』という意味だにゃ」
「はい。ですが……おかしいですね」
「ふむ、何か特別な意味があるのかにゃ?」
「いえ。この左の単語は、そのままの意味しかありません。このように強調して追記される場合は、極めて優れた治癒の魔法を持つ、という意味になります」
確かに、意味が分からない。
私は、治癒と似たような状態に変える事はできるが、それは治療行為によるものではなく、治癒とも言えない。
私にできるのは、ただの修正や改造、もしくは再現。
対象の肉体にとっては、異常な変化でしかない。
「それって珍しいの?」
「いえ、但し書きは良くあります。ですが、治癒というのは初めて見ました……」
「そっか。この世界には治癒魔法が無いのかな?」
「そうですね……他の世界にはあるのですか?」
「うん。地球にはあるよ?」
いや、おそらくそれはファンタジーフィクションの話であって、現実には――、
「無いかと」
思われる。
「うん? クロちゃん。ほら、アレ……地球の人なら誰でも使えて、何でも治る魔法……あるよねぇ?」
「ん、あるね」
あるのか。
「誰でも使えて、何でも治る、ですか……?」
チーズさんが、震えている。
「うん……あ、ほら、チーズさん。今、気持ちイイでしょ?」
「あ、はい」
「コレも地球の魔法だよ。この魔法の名前はプラシーボ。綺麗な心で信じる気持ちが、体を治すんだよ」
なるほど。
「プラシーボ……不思議な響きですね」
「うん。あと、クロちゃんの記憶には、心を強化するオールっていう魔法もあったよ?」
「心を強化……ですか?」
「ん、ワンオールで元気になって、ツーオールで一回疲れちゃうんだけど……セブンオールくらいから、限界を超えるんだよ」
「限界を超える……その魔法も地球の人なら、誰でも使えるのですか?」
「ううん。技術者にしか使えないかも」
それは魔法というより、主に情報処理技術者が会得する特殊技能であろう。
「ふむ……それより、この星の住民は病や怪我の時は治療せずに、教会で肉体を復旧させるのかにゃ?」
「あ、はい。教会で元気な体と交換してもらったり、お薬で治します。治癒と言えば教会というイメージで、魔法と治癒は結びつかないですね……」
「ん? 応急処置もないの?」
「いえ、魔法で出血を止めたり、毒を抜いたりする事はあります。ですが、魔法で直接傷を治したり、体調を回復したりはできないのです」
止血だけであれば、損傷した血管を結合するか、何かを生成して塞ぐだけ。
毒を抜く場合、能力の効果対象を限定できるのなら、状態によっては問題無い。
「つまり、治癒と言えば自然治癒だけを意味するのかにゃ?」
「はい。それにこの星の人は魔法耐性が凄く高いので、魔法で毒を抜くのも凄く大変です」
「ふむ……抑制システムかにゃ?」
「いえ、仕組みは分かりませんが……この星の人達を魔法で治すのは、ヤバ様でも難しいのです……」
「お母さんでも無理なの?」
「うん。一人じゃキツイよ」
ニャマゴロー達が居ればキツくない、という事か。
「ん、流石先輩って事だね」
「んだなぁ」
ふと、能力による治癒魔法というモノが、具体的にどのようなモノか考えてみた。
肉体本来の修復工程のうち、デメリットな要素を全て省き、どの生物にも効果的で、能力のみで代替出来るのなら理想的。
理想と効率を突き詰めて考えた結果、不具合修正や肉体再現とほぼ同じ作業になった。
もしや、私は治癒魔法が使えるのであろうか。
いや、修正は修正、再現は再現であろう。
とりあえず、肉体の再現であれば――、
「……ニャマコにも可能かと」
思われる。
ニャマコは味覚情報から食肉を生成できる。
おそらく、生きている生物の取り替え用の肉体パーツも生成できる。
「うむ。悪化して死んでも構わんのなら、一瞬でできるにゃ」
なるほど。
生物によっては、不具合箇所を元のパーツと入れ替えても、拒絶反応や幻肢痛が起きる場合がある。
それらの完全な制御をニャマコだけで安全に行うとなると、十分なシミュレーションの手法が判然としない、という事か。
それを避ける一番手っ取り早い手段は、転生処置の応用。
赤い神も、かつて黒い神に似たような処置を施しているはず。
「今、先生が思い浮かべたのって、すごーく難しいよ? それに、クロちゃんの体はちょっと弄ったけど、ほとんど生まれつきだからねぇ」
思考の独り言を読まれてしまった。
意図的に公開するのは心地良い。が、見られるのは恥ずかしい。
「ん……私も、自分から見せるのは好きかも?」
どうしよう。
白い神に精神と記憶を整理してもらってから、思考イメージが明瞭になり過ぎている。
『感触』で読みやすいようだ。
「……あの……なんのお話ですか?」
「うん。見せると気持ちイイお話だよ」
「いや、言い方が悪いにゃ。正しくは……多様性の話だにゃ」
多様性。
なるほど。
十人十色、百人百様、趣味は人それぞれ、という事か。
顔厚忸怩、汗顔無地、穴があったら入りたい、とはこの事か。
「すみません……良く分かりません……関連する単語を頂ければ、知識を引き出せるのですが……」
「うん。単語で言うと、フラッシャー……かねぇ?」
「フラッシャー……点滅……露出……イェアー……こんな知識、初めてです――」
チーズさんが、震え出す。
「……ワクテカ……エキサイティング……ファンタスティック! うぇへっ!」
「また発作かにゃ?」
問題無い。
対処法は、このように瞬間的に――、
「ギュっと」
絞り上げる。
「うぇへぶっ!」
「伸びちょるけぇ」
見た目は、細長いヒョウタンに近い。が、これで精神が安定するはず。
「ん、大丈夫?」
「イェアー……気持ち良いです……ありがとうございます」
「そっか……先輩。マリモ種の仕組み、ちょっとキニナルかも」
「ふむ、その辺りも含めて、今日の講座は先生が担当だにゃ」
「分かった」
今晩の能力勉強会は、マリモ種を題材に生物の機能と不具合について語ろう。ついでに、私の能力技術関連の得手不得手についても語ろう。
主に『こういった事柄』を自分から公開するのは、心地良い。




