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3-36 凄いナマコ――ただの保護者

ありがとうございます。


「――次は……ニャマコか先輩だね」


「……私は最後で」


「ワシは生物ではないが、身分証は必要なのかにゃ?」


 私も、ニャマコは対象外かと思っていた。


「あ、ニャマコ様の身分証はこちらに……ヒト型用は持ち難いかと思いまして……役割判定が済みましたら、加工してからお渡ししますね」


 在庫が無かったのか、元からヒト型用がベースなのか。

 役割を登録するまでは、カード型で固定らしい。


「いや、気遣い無用だにゃ」


 チーズさんの触手が持つ身分証に、同じ形状に変形したネコミミが添えられる。


「せっかくだから、加工してもらえば?」


「いや、そのままで構わんにゃ」


 何かプライドがあるのか、皆と同じ形が良いのか。


「うん。ニャマコは、何でも一人で出来ちゃう特別なナマコなんだよ」


「…………」


「失礼しました。では、このままお持ち下さい」


「判定機も、このまま触れて良いのかにゃ?」


「はい。体の一部であれば問題ありません。ヒト型種族以外は少し判定に時間がかかりますが……触れたままでしばらくお待ちください」


 ネコミミで身分証を受け取ると、そのまま判定機に触れるかと思いきや、引き戻す。

 そして、ネコミミではない胴体の一部を伸ばし、判定機に触れる。


 ネコミミは、精密微細かつ迅速に動作する触腕として優れるが、あくまで付属パーツ。そのためネコミミで触れた場合、ネコミミの役割が判定されるのかもしれない。


 ネコミミの役割か。

 個人的には興味深い。


「…………」


 対生物とは、必要な処理が根本的に異なるのであろう。数十秒の間を空けて、ゆっくりと薄褐色の紙が排出されてゆく。


「ウチと似ちょるけぇ」


 白い神の時のように、折り重なるような事は無かったが、数メートルはある。


「どんな感じ?」


「ふむ……数が多い単語は、教育、調査、運搬、取引、管理、生産、飼育――」


「えっと……」


 頻出単語の数で言えば、戦闘に関連しそうな物は一割にも満たない。残りは生産、商業関連が大半で、次いで学術関連。


「うん。上から3つは文字が大きいけど、何か特別な意味があるのかな?」


「はい。文字の大きさは、この星での需要の大きさを表しています」


 おそらく、観測機のデータを基に需要を予測した、という事であろう。


「なるほどにゃ」


「一番上のはどんな役割かな?」


「こちらは、何かを『保護する』という意味の単語で……すみません。詳しくは知らないのですが、特に子供からの需要が大きくて……冒険者ギルドの実績データでも最高評価に分類されてますね」


「ん……?」


「ふむ……」


 個人的には、なんとなく、地球的フィクションで言うところの、子供達のヒーロー的なモノが思い浮かぶ。


「うん。次のは?」


 上から二つ目の文字列を指差す。


「そちらは確か……不器用なモンスターを器用にする役割……ですね」


「ふむ、行動ロジックの調整かにゃ」


 おそらく、AIのロジックそのものをプログラミングするのではなく、用意された定数のようなモノを設定し直して、細かな用途に合わせた調整を行うのであろう。


「うん。3つ目は何かな?」


「そちらは、道具を作る役割……ですが最近は『リペアラー』とか『アセンブラー』と呼ばれている役割です」


「ふむ、作るというより、組み立てる役割かにゃ?」


「はい。教会で貰える設計図から道具を組み立てたり、モンスターの戦利品を組み合わせて……罠を作るのです」


 つまり、原理―― 中身を知らずに、ブラックボックスだが安全な、積み木を組むようなものか。


「ん? 罠って?」


「レベルが上がらない代わりに、誰でも簡単にモンスターが倒せる護身用の道具ですね。素材の値段が高いので、あまり一般的では無いですが……」


「ふむ……この中で選ぶなら、保護の役割かにゃ」


「ん、道具とモンスターは、自分で造った方が楽しいよね」


 危険な技術が敬遠される星で、躊躇いもなくモンスターを造る。

 個人的には、大変好ましい。


「……この役割にも、呼び方があるのかにゃ?」


「あ、はい。『ガーディアン』とか『ケアギヴァー』、あとは……『ペアレント』ですね」


「ん、保護者だね」


「…………」


 ガーディアンは意味が広いが、ケアギヴァーは保護者そのもの。

 ペアレントはこの並びからすると、親代わりのような意味か。


 ニャマコが、無言で判定機に身分証を伏せる。


「では、登録しますね」


「うむ」


 回転する平面魔法陣が浮かび上がり、二つに分かれて交差しながら、強い光を放つ。


「――それでは最後に、マロリー様の判定です」


「楽しみやけぇ」


「ん、でもたぶん、先輩の役割ってアレだよね?」


「うん。アレだねぇ」


「うむ。アレだにゃ」


 なんであろうか。

 私の気質や能力に、類推するに足る特徴は見当たらない。


 いや、特徴が無い事を特徴と考えるなら、チーズさんが言っていた万能魔法士や、四属性魔法士が該当するか。


 しかし、皆の視線が何かを期待している。

 何が出たら正解なのか。


「判定機さん……よろしく」


 端末であれば、意識とは呼べないまでも思考力が存在するはず。

 皆の期待を汲んで欲しい。


 触れた手からは、僅かな動作振動が伝わってきた。

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