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『ダイエッター 長谷川アスカ36歳の、町内(腸内)会長、ロズマリンさん!』〜街の平和を守ります〜  作者: 東曌


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新章 # 第4章 大決戦! 五大ヘビー級モンスターと、氷点下のアサイー・クラーケン

第4章 大決戦! 五大ヘビー級モンスターと、氷点下のアサイー・クラーケン


## 1 胃腸町、凍結注意報!


「さ、寒いっ!!」


長谷川アスカは、ぶるぶるっと肩を震わせた。


ここは、アスカの腸内に広がる不思議な町、胃腸町。


つい先ほどまで、住民たちの笑い声が響いていたはずなのに、今は町全体が青紫色の冷気に包まれていた。


広場の噴水には薄い氷。

商店街の屋根には霜。

そして、道の真ん中には、巨大な氷の触手が何本も突き刺さっている。


「な、何なのよ、これ!」


アスカが叫ぶと、ロズマリンさんが紫色の扇子を握りしめた。


「大変です! 町の向こうから、とてつもない冷気が押し寄せています!」


「冷気って……冷房の設定温度を十六度にしたとか?」


「そんなかわいらしいものではありません!」


ロズマリンさんが扇子で遠くを指した。


そこには、青紫色の巨大な怪物が浮かんでいた。


頭部は、凍りついたアサイーボウルのよう。

胴体は、どろりとしたスムージーの塊。

そして、何本もの触手が、氷の刃となって町を覆っている。


その名も――。


**アイス・アサイー・クラーケン!**


「フフフ……」


怪物が、不気味な声で笑った。


「食事に迷いなど必要ない。選ぶ時間も、味わう時間も、すべて無駄だ!」


「な、何を言ってるのよ!」


「すべてを凍らせ、すべてを均一にする! どこで食べても、何を食べても、同じように冷たく、同じように効率的な食事。それこそが、完璧な世界!」


アスカは、ぽかんと口を開けた。


「……嫌だわ、そんな世界」


「同感です」


隣から声がした。


振り返ると、黒咲ノエルが立っていた。


いつものタブレットを持っているが、表情は真剣そのものだった。


「効率を重視することと、食事の楽しみをなくすことは違います。あの怪物は、私の考えを極端にしたような存在です」


「ノエル君……」


「私も、以前は食事の時間を削ることばかり考えていました。でも、食事を楽しむことまで無駄だとは、もう思いません」


ノエルはタブレットをしまった。


「今度は、私も町を守ります」


そのとき、地響きがした。


ドゴォォォン!!


町の反対側から、見覚えのある五つの巨大な影が現れた。


唐揚げクラーケン!

トンカツ豪傑!

豚骨ラーメン巨人!

チャーハン・ゴーレム!

そして、ギョーザ・ドラゴン!


「ええええっ!?」


アスカは頭を抱えた。


「なんで今度は、あんたたちまで来るのよ!」


唐揚げクラーケンが、巨大な足を振り上げた。


「カラアゲ、カラアゲ!」


トンカツ豪傑が、拳を振り回す。


「サクサクこそ正義!」


豚骨ラーメン巨人が、湯気を上げながら吠えた。


「コッテリィィィ!」


チャーハン・ゴーレムは、全身の米粒を震わせ、ギョーザ・ドラゴンは空中で羽ばたいている。


どうやら、五大モンスターたちも、クラーケンの冷気に刺激されて大暴れを始めたらしい。


「ちょっと待って! 敵が多すぎる!」


アスカの悲鳴が、凍りついた町に響き渡った。


## 2 黒咲兄弟、まさかの共闘!


「アスカさん、下がってください!」


ノエルが前に出た。


「このままでは、町の広場が壊されます。兄さん、協力をお願いします!」


「言われるまでもない!」


現れたのは、黒咲厳だった。


腕を組み、厳しい表情で怪物たちを見渡す。


「ノエル。お前は敵の動きを分析しろ。俺は五大モンスターの足止めをする!」


「了解です!」


兄弟が並んで立つ。


いつもは食事の評価をめぐって意見が食い違う二人だが、今は迷いがなかった。


「唐揚げクラーケンは、右側から回り込んできます!」


「見えている!」


厳が地面を蹴り、トンカツ豪傑の前へ飛び出した。


「マイナス20点! 暴れすぎだ!」


「その採点、今必要!?」


アスカのツッコミが飛ぶ。


「必要だ! 少なくとも、町の建造物を壊す行為は減点対象だ!」


「評価基準がそこなの!?」


ノエルはタブレットを見ながら叫んだ。


「兄さん、右です! ラーメン巨人の湯気で視界が遮られています!」


「分かっている!」


厳は身をひねり、ラーメン巨人の突進をかわした。


一方、ノエルはクラーケンの触手の動きを観察していた。


「触手の攻撃は一定の間隔で繰り返されています。次は三秒後、左側から――」


「ノエル君、危ない!」


アスカが叫ぶ。


クラーケンの触手が、ノエルの足元へ突き刺さった。


ノエルは飛び退いたものの、タブレットを落としてしまう。


パリン!


画面に、ひびが入った。


「……ああっ! 私の分析データが!」


「タブレットより、自分の心配をしなさい!」


アスカはノエルの腕を引っ張り、安全な場所へ連れていった。


「分析は大事。でも、今は生きて帰ることが先!」


「……はい」


ノエルは、壊れたタブレットを見つめた。


数字が消えた画面には、何も表示されていない。


それでも、目の前の状況は分かった。


兄が必死に戦っている。

住民たちが逃げ惑っている。

アスカが、自分を助けてくれた。


画面がなくても、今やるべきことは分かる。


「アスカさん。町の食堂へ行きましょう!」


「えっ、こんなときにごはん!?」


「違います! 住民たちを集めるんです。みんなが安心できる場所を作りましょう!」


アスカは一瞬驚き、それから力強くうなずいた。


「よし、分かった!」


## 3 カリカリ青ウメ、出動!


食堂の中は、避難してきた住民たちでいっぱいだった。


ワカメ、メカブ、ヒジキのお掃除隊も、みんなを誘導している。


「大丈夫だよ! こっちに座って!」


「温かい飲み物を用意しよう!」


「みんな、慌てないで!」


しかし、外からは怪物たちの叫び声が聞こえてくる。


ドゴォォォン!


「ひゃあっ!」


住民たちが肩をすくめた。


アスカは食堂の台所を見回した。


「よし。こんなときこそ、できることをやろう!」


「アスカさん、何か作るんですか?」


ノエルが尋ねる。


「もちろん! ただし、手間のかかるものは作らない!」


アスカは冷蔵庫を開けた。


取り出したのは、白いごはん。

海苔。

そして、小さな容器に入ったカリカリ青ウメだった。


「じゃじゃーん!」


アスカが容器を掲げる。


「カリカリ青ウメ!」


「……青ウメ?」


ノエルが首をかしげた。


「そう。カリッとした食感と、さっぱりした酸味が魅力なのよ!」


アスカは青ウメを細かく刻み、ごはんに混ぜ込んだ。


そこへ、好みで少しだけ白ごまを加える。


「これを混ぜて、握る!」


ぎゅっ、ぎゅっ。


あっという間に、カリカリ青ウメのおにぎりができあがった。


「はい、完成!」


「……本当に簡単ですね」


「そうでしょ?」


アスカは、ひとつを手に取った。


「料理は面倒でも、おいしいものは食べたい。だから、簡単に作れる方法を考えるの!」


そして、ひと口。


カリッ。


青ウメの歯ごたえ。

さっぱりとした酸味。

ごはんのやさしい味。


「ん〜! これこれ!」


アスカの顔が、ぱあっと明るくなった。


「このカリカリ感がいいのよねえ!」


その表情につられて、ワカメもひとつ手に取った。


「いただきます!」


カリッ。


「わあ! おいしい!」


メカブも続く。


「この食感、楽しいね!」


ヒジキも笑顔になった。


「酸味がさっぱりしていて、食べやすい!」


アスカは、次々とおにぎりを握った。


「はい、みんなもどうぞ! もちろん、食べられるものや好みは人それぞれだから、無理はしないでね!」


ノエルは、その様子をじっと見ていた。


「……不思議ですね」


「何が?」


「特別な料理ではありません。材料も少なく、作る時間も短い。それなのに、みんなが笑っています」


アスカは、手を止めずに答えた。


「だって、おいしいものを食べると、うれしいでしょ?」


「……はい」


ノエルは、ひとつのおにぎりを受け取った。


そして、ひと口。


カリッ。


「……この食感、いいですね」


「でしょ!」


「味の組み合わせも、食感の変化も、シンプルですが……」


ノエルは少し考えてから、笑った。


「やっぱり、おいしいです」


「よし! その感想、いただきました!」


アスカは大喜びした。


だが、そのとき。


食堂の壁が、ミシミシと音を立てた。


外から、巨大な声が響く。


「食事を楽しむなど、無駄なこと!」


アイス・アサイー・クラーケンが、食堂を見下ろしていた。


「そんな小さな喜びなど、冷気で凍らせてしまえばいい!」


青紫色の触手が、窓の外へ伸びてくる。


「きゃあああっ!」


住民たちが悲鳴を上げた。


アスカはおにぎりを置き、まっすぐに怪物を見た。


「……いい加減にしなさいよ」


その声は、静かだった。


「食事の楽しみは、あんたが決めるものじゃないわ!」


## 4 食卓の力で、立ち向かえ!


アスカは、ノエルとともに食堂の外へ飛び出した。


広場では、黒咲厳が五大モンスターを食い止めていた。


「厳さん!」


アスカが叫ぶ。


「みんなの避難は進んでいます!」


「よし! あとは、この大物をどうにかするだけだ!」


厳はクラーケンをにらみつけた。


「しかし、あの冷気では近づけない!」


ノエルは、ひびの入ったタブレットを見下ろした。


もう、精密な分析はできない。


それでも、彼はクラーケンを見上げた。


「兄さん。私に考えがあります」


「何だ?」


「クラーケンは、町の食事をすべて均一にしようとしています。ならば、私たちは逆のことをするんです」


「逆のこと?」


「一人ひとりが、自分の好きな食事を楽しむ。それぞれの好みを認めるんです!」


アスカが、ぱっと顔を輝かせた。


「そうよ! 好きなものは、人それぞれ!」


「私はスムージーが好きです。アスカさんは、おにぎりや簡単な料理が好き。兄さんは、食事にも厳しい基準を持っている」


「おい、俺の説明は少し違うぞ」


「でも、誰かひとりの正解に、みんなを合わせる必要はありません!」


ノエルの声が、広場に響いた。


「効率も、栄養も、味も、食べる楽しみも。どれかひとつだけが、すべての人にとっての正解ではないんです!」


クラーケンが、怒りの声を上げた。


「黙れ! 違いは無駄だ! 選択肢は迷いを生み、迷いは時間を奪う!」


「迷ったっていいじゃない!」


アスカが叫んだ。


「今日はおにぎりが食べたい日もある。ピザが食べたい日もある。温かいスープが飲みたい日だってある!」


彼女は、カリカリ青ウメのおにぎりをひとつ掲げた。


「私はこれが好き! カリカリッとして、酸っぱくて、おいしい! それだけで、うれしいのよ!」


住民たちも声を上げた。


「ぼくは温かいスープが好き!」


「私は焼きたてのおにぎり!」


「私は、好きな人と一緒に食べるのが好き!」


「僕は、プロテイン入りのスムージーも好きだよ!」


最後の声に、ノエルが思わず振り返った。


「……それは、私のことですか?」


「そうだよ! おいしいと思うものを飲んだらいいんだよ!」


ノエルは、ふっと笑った。


「……そうですね」


彼はクラーケンへ向き直った。


「私の好きなものを、誰かに押しつける必要はない。そして、誰かの好きなものを、私が否定する必要もない!」


その瞬間、ロズマリンさんの扇子が大きく開いた。


「皆さん! 自分の好きな食事を思い浮かべてください! そして、食べる喜びを忘れないで!」


住民たちの声が、ひとつになった。


「おいしいものを、楽しく食べたい!」


「好きなものを、好きな人と!」


「おいしいから、うれしい!」


その声に呼応するように、胃腸町の広場に温かな光が広がった。


それは、青ウメの魔法ではない。

おにぎりの不思議な力でもない。


住民たちが、自分の好きなものを思い出し、互いの違いを認め合ったことで生まれた、町の活気だった。


クラーケンの触手が、ぴたりと止まる。


「な……何だ、この力は!」


ノエルが叫ぶ。


「それは、効率だけでは測れないものです!」


厳も、拳を握りしめた。


「よし! 今だ!」


兄弟が同時に駆け出す。


厳が五大モンスターを食い止め、ノエルがクラーケンの触手の隙を見つける。


「右側の触手が下がった! 今です、兄さん!」


「任せろ!」


厳が地面を蹴り、クラーケンの足元へ突進した。


その衝撃で、怪物の体勢が崩れる。


ロズマリンさんが扇子を振った。


「胃腸町の皆さん! 今こそ、笑顔を取り戻すときです!」


アスカは、最後にもう一度、カリカリ青ウメのおにぎりを掲げた。


「おいしいものを食べる楽しみは、誰にも凍らせられないんだから!」


広場に、明るい声が響き渡った。


そして、アイス・アサイー・クラーケンの体を覆っていた氷に、ピシッと亀裂が走った。


## 5 氷が溶けても、スムージーは悪くない!


パキパキパキッ!


クラーケンの氷の殻が、少しずつ崩れ始めた。


「ば、馬鹿な……!」


怪物の声が震える。


「食事は効率よく済ませるべきだ! 楽しむ時間など、必要ないはずだ!」


ノエルは、静かに首を振った。


「効率よく食事をすることと、食事を楽しむことは、両立できます」


「何だと……!」


「私は、スムージーが好きです。手軽で、好きな味にできる。忙しい朝にも取り入れやすい。それは、私にとって大切なことです」


ノエルは、アスカを見た。


「でも、アスカさんの食事も、おいしそうだと思います。冷凍おにぎりも、油揚げ梅チーズピザも、カリカリ青ウメのおにぎりも」


「おっ、私の料理、三つも挙げてくれた!」


「料理と呼ぶ範囲については、まだ検討の余地が……」


「そこはもういいの!」


アスカが笑う。


ノエルも、つられて笑った。


「食事を楽しむ方法は、ひとつじゃない。そういうことです」


クラーケンは、しばらく黙っていた。


やがて、青紫色の光が弱まっていく。


「……ひとつでは、ない……?」


「そうよ!」


アスカが答えた。


「スムージーが好きなら、飲めばいい。私がカリカリ青ウメを好きなのも、自由でしょ!」


「……自由……」


クラーケンの体を覆っていた氷が、さらさらと崩れ落ちた。


巨大な触手は小さく縮み、冷気も少しずつ薄れていく。


最後に残ったのは、青紫色の小さなスムージーの塊だった。


「……私は、すべてを同じにしようとしていたのか」


ノエルは、うなずいた。


「違いをなくすことだけが、効率ではありません」


「……そうか」


小さな塊は、静かに地面へ降りた。


それはもう、町を凍らせる怪物ではなかった。


ただの、冷たいスムージーのように見えた。


アスカは、腕を組んだ。


「ところで」


「……何だ?」


「その姿なら、普通においしそうじゃない?」


「アスカさん!?」


ノエルが驚く。


「いや、だって、アサイーなんでしょ? 好きな人は好きじゃない!」


ロズマリンさんが、くすくすと笑った。


「ふふふ。アスカさんらしいですね」


厳も腕を組んだまま、うなずいた。


「なるほど。敵を倒したあとも、食べ物を悪者扱いしない。悪くない考えだ」


「ゲンさん、今の何点?」


アスカが尋ねる。


厳は少し考えた。


「……百点だ」


「えええっ!?」


ノエルが目を丸くした。


「兄さんが、満点を!?」


「何だ。不満か?」


「いえ、そういうわけでは……!」


アスカは大笑いした。


胃腸町の空に、久しぶりの明るい光が戻ってきた。


五大ヘビー級モンスターたちも、いつの間にか落ち着きを取り戻している。


唐揚げクラーケンは、広場の端でおとなしく座り。

トンカツ豪傑は、拳を下ろし。

豚骨ラーメン巨人は、湯気を穏やかに立ち上らせていた。


チャーハン・ゴーレムは米粒を整え、ギョーザ・ドラゴンは空をゆっくり旋回している。


「……ようやく、平和になったわね」


アスカがつぶやいた。


ノエルは、ひびの入ったタブレットを見つめた。


「今回の出来事は、記録に残したいですね」


「また計算?」


「いいえ」


ノエルは、少し照れくさそうに笑った。


「忘れたくないことを、書いておきたいだけです」


アスカは、にっこり笑った。


「それなら、いいんじゃない?」


そして、二人は食堂へ戻っていった。


温かいスープ。

冷凍おにぎり。

油揚げ梅チーズピザ。

カリカリ青ウメのおにぎり。


食卓には、それぞれが好きなものが並んでいた。


「いただきます!」


みんなの声が重なる。


カリッ。


「うん、おいしい!」


そのひと言に、胃腸町の平和が戻ってきた。


**食事は、楽しくて、おいしいから、うれしい。**


それは、効率の数字にも、採点表にも、ひとつの正解にも収まりきらない。


だからこそ、みんなで分かち合えるのだ。


――しかし。


その夜、黒咲ノエルは、兄の厳にこう尋ねた。


「兄さん。明日の朝食、何を食べる予定ですか?」


「いつもどおりだが」


「よければ、私のスムージーも試してみませんか?」


厳は、しばらく弟を見つめた。


「……味見程度ならな」


ノエルの顔が、ぱっと明るくなった。


「ありがとうございます!」


そして翌朝。


黒咲家の台所では、ミキサーの音が響き渡ることになる。


その音を聞いたアスカが、またしても頭を抱えるのは――。


もう少し先のお話である。

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