↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『ダイエッター 長谷川アスカ36歳の、町内(腸内)会長、ロズマリンさん!』〜街の平和を守ります〜  作者: 東曌


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/11

新章  第2章 冷凍ドボン大作戦! 料理嫌いのアスカ、胃腸町を救う

第2章 冷凍ドボン大作戦! 料理嫌いのアスカ、胃腸町を救う


## 1 胃腸町、食事の時間が消える!?


「会議を始めます!」


腸内会長ロズマリンさんの声が、胃腸町の広場に響き渡った。


紫色の扇子を優雅に広げ、集まった住民たちを見渡す。その表情は、いつになく真剣だった。


広場の中央には、長谷川アスカ。

その隣には、タブレット端末を抱えた黒咲ノエル。


そして、広場を埋め尽くしているのは、どこか元気のない住民たちだった。


「最近、町の様子がおかしいのです」


ロズマリンさんが説明を始めた。


「皆さん、食事をするたびに時間と栄養素を計算して、食べ終わるとすぐに次の作業へ戻ってしまうのです。以前は食卓で笑い合っていた方々まで、黙々と食べるようになってしまいました」


「それの、どこが問題なんですか?」


ノエルが首をかしげた。


「食事にかかる時間が短縮されれば、そのぶん仕事やトレーニングに使える時間が増えます。栄養が取れているなら、目的は達成できているでしょう?」


「目的、ねえ……」


アスカは腕を組んだ。


「ノエル君。じゃあ、食事って、栄養を体に入れるだけの作業だと思ってる?」


「基本的には、そうですね」


「うわあ。言い切った!」


アスカは思わず頭を抱えた。


「食事に対する夢も希望もない!」


「夢や希望は、別の時間に確保すればいいのでは?」


「そういう話じゃないのよ!」


アスカのツッコミが、広場にこだました。


そのとき、広場の片隅から、小さな声が聞こえてきた。


「……お昼ごはん、食べた気がしないんだ」


見ると、ワカメのお掃除隊員が、しょんぼりとうつむいていた。


「ちゃんと栄養は取ったよ。時間も予定どおり。でもね……なんだか、つまらなかったんだ」


「わ、ワカメさん……」


メカブとヒジキも、心配そうに仲間を見つめる。


アスカはその姿を見て、ふうっと息を吐いた。


「なるほどね。ノエル君の考え方が、町じゅうに広がっちゃったわけか」


「私の考え方が合理的だからでは?」


「そこ、ドヤ顔しない!」


ロズマリンさんが、扇子をそっと閉じた。


「食事を効率よく済ませること自体が、悪いわけではありません。しかし、効率を追い求めるあまり、食べる喜びまで置き去りにしてしまったのなら……それは、考え直す必要がありそうです」


アスカは、ぽん、と自分の手を打った。


「よし。じゃあ、私が見せてあげる!」


「何をです?」


「手間をかけなくても、食事は楽しくできるってこと!」


ノエルはタブレットを構えた。


「興味深いですね。調理時間、材料費、洗い物の数を記録します」


「いいわよ。好きなだけ記録しなさい」


アスカはニヤリと笑った。


「ただし、おいしいかどうかは、最後に自分の舌で判断してね!」


## 2 料理嫌いの切り札、冷凍おにぎり!


「というわけで、今日のお昼はこれ!」


アスカがテーブルに置いたのは、冷凍庫から取り出した冷凍おにぎりだった。


「……冷凍食品ですか?」


ノエルが確認する。


「そう。私の冷凍庫には、こういうときのための備蓄があるのよ」


「自分で握って冷凍したものですか?」


「買ったものもあるし、余裕があるときに作って冷凍することもあるわ。そこは、その日の自分と相談!」


アスカは胸を張った。


「料理が好きな人は、料理を楽しめばいい。でも私は、料理をするより、食べるほうが好きなの!」


「その違いに、どれほどの意味が……」


「大ありよ!」


アスカは電子レンジの前に立った。


「冷凍おにぎりは、ちゃんと表示や説明に従って温める。ここ、大事ね。冷たいままのものを適当に放り込んで、はい完成! なんてことはしないわ」


ピッ。


電子レンジが動き始める。


その間にアスカは、カップにスープの素を入れ、お湯を注いだ。必要なものをそろえ、無理のない範囲で食卓を整えていく。


「……それだけですか?」


「それだけよ!」


「包丁も、まな板も、フライパンも使っていませんが」


「使いたくない日は使わない!」


「料理への意欲が、極めて低い……」


「料理への意欲は低くても、食欲は高いの!」


アスカは即答した。


「そして、おいしいものを食べたい気持ちは、もっと高い!」


電子レンジが鳴った。


温めたおにぎりから、ほかほかと湯気が立ち上る。


アスカはおにぎりを皿に置き、スープを添えた。豪華な料理ではない。手の込んだ献立でもない。


けれど、湯気の向こうに、ちゃんと食事の時間があった。


「はい、完成!」


アスカが手を合わせる。


「いただきます!」


おにぎりをひと口。


ほかほかのごはんと、ほどよい塩気。

続けてスープをひと口飲む。


「……はあ。おいしい」


アスカの顔が、ふにゃりと緩んだ。


「やっぱり、温かいものって、ほっとするわねえ」


その表情を、ノエルはじっと見つめていた。


「調理時間は短い。使用器具も少ない。費用も、材料の選び方次第では抑えられる……」


タブレットを操作する指が、忙しく動く。


「合理性は十分にありますね」


「でしょ?」


「ただし、満足度については……」


「まだ計算するの!?」


「数値化できるなら、したほうが比較しやすいでしょう」


アスカはおにぎりを持ったまま、ノエルを見た。


「ねえ。今、私が『おいしい』って言ったの、聞いてた?」


「聞きました」


「それで十分じゃない?」


「十分かどうかは、評価基準によります」


「うわあああ! またそれ!」


アスカは頭を抱えた。


「この人、食卓にまで評価基準を持ち込んでくる!」


ロズマリンさんは、口元に手を添えて、くすりと笑った。


「ノエルさん。数字にできるものを測るのは、大切なことです。でも、数字にしにくいものが、価値のないものだとは限りませんよ」


ノエルは、少しだけ黙った。


「……では、私も試してみます」


彼は温めたおにぎりを手に取った。


ひと口。


もぐもぐ。


そして、もうひと口。


「味は……普通においしいですね」


「でしょう?」


「しかし、これは食事を楽しんでいるというより、温かさや味による快適さを確認しているだけでは?」


「どうして素直に『おいしい』で終われないのよ!」


アスカの声が、再び広場に響いた。


## 3 冷凍ドボン戦術、発動!


そのときだった。


広場の向こうから、悲鳴が上がった。


「た、大変だーっ!」


駆け込んできたのは、胃腸町の配達係だった。


「町の食堂が、全部同じメニューになっちゃった!」


「ええっ!?」


アスカは立ち上がった。


「どこもかしこも、栄養表示と提供時間を優先して、味も見た目も似たような食事ばかりになっているんです! 住民たちは食べる気をなくして、食堂にも人が来なくなって……!」


ノエルは、タブレットを見た。


「提供時間が短く、材料の管理が簡単で、栄養設計がしやすい。合理的な判断の結果でしょう」


「でも、みんなが喜んでいないんでしょう?」


ロズマリンさんが、静かに問いかけた。


ノエルは答えなかった。


アスカはスープを飲み干し、勢いよく立ち上がった。


「だったら、食事に選択肢を取り戻せばいいのよ!」


「選択肢?」


「そう! 毎日手の込んだ料理を作れなんて言わない。食べたいものを選べること。自分がほっとするものを食べられること。それだって、大事でしょ!」


アスカは、広場に集まった住民たちを見回した。


「料理が面倒なら、冷凍食品を使ってもいい。お惣菜を買ってもいい。簡単なものを組み合わせてもいい。余裕がある日に作り置きしたっていい!」


そして、びしっと指を立てた。


「手間を省くことと、食事を省くことは違います!」


その言葉に、住民たちがざわめいた。


「手間を省くことと……食事を省くことは、違う?」


「そうよ! 自分に合った方法で、ちゃんと食べる。できれば、自分がおいしいと思えるものを選ぶ。それでいいじゃない!」


ワカメが、おそるおそる手を挙げた。


「じゃあ……今日は、いつものスープに、好きな具を足してもいいの?」


「もちろん!」


メカブも続いた。


「おにぎりに、好きな具を選んでもいい?」


「もちろん!」


ヒジキが目を輝かせた。


「食後に、好きなお茶を飲んでも?」


「それも、もちろん!」


広場に、少しずつ笑顔が戻ってきた。


そのとき、ロズマリンさんの扇子が、ぱっと開いた。


「皆さん! 自分の食卓に、好きなものをひとつ取り戻しましょう!」


「おおーっ!」


住民たちの声が、広場を揺らした。


アスカは満足そうにうなずいた。


「よし。これが、冷凍ドボン大作戦よ!」


「……作戦名の由来は?」


ノエルが尋ねる。


「冷凍庫からドボンと出して、電子レンジで温めて、食べるから!」


「命名が雑すぎませんか?」


「効率的でしょ!」


「……それは、そうですね」


ノエルが真顔で答えたので、アスカは思わず吹き出した。


「そこは認めるんだ!」


## 4 効率では測れないもの


夕方。


胃腸町の食堂には、久しぶりににぎやかな声が戻っていた。


おにぎりを選ぶ人。

温かいスープを飲む人。

いつもの食事に、小さな好物を添える人。


豪華なごちそうが並んだわけではない。


けれど、住民たちは互いに「それ、おいしそうだね」と声をかけ、笑い合っていた。


ノエルは、その光景を少し離れた場所から見ていた。


「……食事の満足度が上がったことで、住民同士の会話も増えている」


タブレットに入力しかけて、手を止める。


「しかし、会話の価値をどう数値化するか……」


「ノエル君」


アスカが、温かいお茶を差し出した。


「また計算してるの?」


「習慣ですから」


「そっか。じゃあ、計算しててもいいわよ」


ノエルは意外そうに顔を上げた。


「いいんですか?」


「そりゃあね。コスパもタイパも、便利な考え方だと思うもの。私だって、面倒なことはできるだけ減らしたいし」


アスカは自分のお茶をひと口飲んだ。


「でもね。便利にするための方法が、いつの間にか守らなきゃいけないルールになっちゃったら、苦しくなるでしょう?」


ノエルは、返事をしなかった。


「スムージーが好きなら、飲めばいい。プロテインだって、自分に合った方法で使えばいい。私はそれを否定するつもりなんてないわ」


「……では、なぜ私の考え方に反対するんです?」


「ノエル君が、自分の好きなやり方を、みんなにも正解として押しつけようとするからよ」


アスカは、まっすぐ彼を見た。


「食事って、人それぞれでしょ。時間をかけて料理するのが好きな人もいる。簡単に済ませたい人もいる。スムージーが好きな人も、おにぎりが好きな人もいる」


そして、ふっと笑った。


「その人が『おいしいな』『うれしいな』って思えるなら、それって大切なことじゃない?」


ノエルは、手元のタブレットを見下ろした。


画面には、調理時間、材料費、片づけにかかった時間が整然と並んでいる。


どれも、間違いではない。


けれど、その数字のどこにも、ワカメが久しぶりに見せた笑顔は記録されていなかった。


「……私は、間違っていたのでしょうか」


小さな声だった。


アスカは、すぐには答えなかった。


「全部が間違いだったわけじゃないと思うわ」


「全部ではない?」


「効率を考えることは悪くないもの。忙しいときに手間を省くのも、賢いやり方よ」


アスカは空になったカップをテーブルに置いた。


「でも、効率だけで、食事の価値を決めることはできない。それだけは、覚えておいてほしいかな」


ノエルは、しばらく黙っていた。


やがて彼は、タブレットの画面を閉じた。


「……今日のところは、計算をやめてみます」


「おっ。いいじゃない!」


「ただし、明日からは、より効率的に食事を楽しむ方法を検討します」


「結局、効率から離れられないんかーい!」


アスカのツッコミに、ロズマリンさんも、ワカメたちも笑い出した。


ノエルもまた、ほんの少しだけ口元を緩めた。


胃腸町に、笑い声が戻ってきた。


それは、タブレットの数字には表れない、小さな変化だった。


そしてアスカは、心の中でそっとつぶやいた。


――そうそう。食事って、こういうのでいいのよ。


手間をかけた日も。

手間を省いた日も。


おいしいと思えること。

うれしいと思えること。


その気持ちまで、効率化しなくていいのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。