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『ダイエッター 長谷川アスカ36歳の、町内(腸内)会長、ロズマリンさん!』〜街の平和を守ります〜  作者: 東曌


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新章 第1章 また来た採点男! 今度は弟、効率至上主義の黒咲ノエル!

【新章 あらすじ】

〜氷点下のスムージー男と、料理嫌いのサボり建国記〜

料理は面倒くさい。でも、おいしいものを食べるのは大好き!


前作の騒動を乗り越えた36歳の長谷川アスカは、今日も「手間抜き上等!」の食生活を満喫中。そんな彼女の平和な朝を、隣から響くミキサーの爆音がぶち壊す!


現れたのは、黒咲厳の弟、25歳のジムトレーナー・黒咲ノエル。


毎朝プロテイン入りスムージーを飲み、コスパ・タイパ・効率を何よりも重視する彼は、食事を栄養補給のための合理的な作業だと考えていた。


「食事に時間をかけるなんて、もったいないですよ!」


「おいしいから食べるんでしょ! 食事くらい、楽しくさせてよ!」


効率至上主義のノエルと、おいしさ至上主義(ただし料理はしたくない)のアスカ。二人の価値観がぶつかったとき、アスカの腸内に広がる胃腸町にも異変が起き始める。


食事を楽しむことを忘れた住民たち。町の平和を守る腸内会長・ロズマリンさん。そして、氷点下のスムージーから現れる謎のモンスター、アイス・アサイー・クラーケン!


さらに、あの黒咲厳も再び参戦!?


冷凍おにぎりの「冷凍ドボン戦術」、簡単なのにおいしい油揚げ梅チーズピザ、そしてアスカ流・料理嫌いのサボり技術が胃腸町を救う!


果たしてノエルは、効率だけでは測れない「食べる喜び」に気づけるのか?


**健康のために食べる。だけど、それだけじゃない。おいしいから、うれしい。楽しいから、幸せ!**


腸内会長ロズマリンさんと、料理嫌いのアスカが贈る、おいしくて愉快な胃腸町防衛コメディー、第二弾!


さあ、今日も食卓に笑顔を。

そして、胃腸町に平和を!


※本作は食事や健康をテーマにしたフィクションです。登場する食事法や食品の描写は、個人の健康効果を保証するものではありません。


『わが家の腸内会長、ロズマリンさん!』

〜氷点下のスムージー男と、料理嫌いのサボり建国記〜


登場人物紹介


◾️長谷川アスカ(36歳)

本作の主人公。料理は面倒くさい。でも、おいしいものを食べるのは大好き。忙しい日々の中で、無理なく続けられる食事を模索している。栄養計算や完璧な自炊よりも、手軽さとおいしさを大切にする。前作の騒動を経て、食事を誰かに採点される必要はないと学んだ。


◾️ロズマリンさん

アスカの腸内に広がる「胃腸町」の町内会長。紫の扇子を携え、上品で頼もしい。住民たちの声に耳を傾け、食事の楽しさと町の平和を守る。無茶な健康理論や極端な効率化には、自治会長らしい鋭いツッコミを入れる。


◾️黒咲厳(くろさき・げん)

前作でアスカを悩ませた、厳格なパーソナルトレーナー。食事を点数で評価しがちで、口癖は「マイナス20点!」。弟のノエルとは違う流儀だが、食事を自分の基準で管理しようとする点は共通している。


◾️黒咲ノエル(25歳)

厳の弟。ジムトレーナー。コスパ、タイパ、効率を何よりも重視し、毎朝プロテイン入りスムージーを飲む。悪気はないが、自分に合った方法こそ誰にとっても合理的だと考えがち。食事の栄養価や所要時間は計算できても、「おいしくて幸せ」という感情の扱いには不慣れ。


◾️ワカメ・メカブ・ヒジキのお掃除隊

胃腸町の平和を守る、おなじみの働き者たち。町の騒動が起きると、みんなで協力して解決にあたる。


◾️アイス・アサイー・クラーケン

ノエルが持ち込む、氷をまとった青紫色のモンスター。冷たいスムージーのような姿で胃腸町に現れる。食べ物そのものが悪いのではなく、ノエルの極端な価値観を象徴する存在。


1.アスカの朝は、ミキサーの爆音から始まった


 朝七時。


 長谷川アスカ、三十六歳。


 独身。会社員。料理は嫌い。


 そして何より――。


「……うるさいっ!」


 アスカは、布団を頭からかぶった。


 ウィィィィィィィィィンッ!!


 隣の部屋から、何かの工事でも始まったかのような爆音が響いている。


 ウィィィィィィィィィンッ!!


「朝っぱらから、何を破壊してるのよっ!」


 時計を見る。


 午前七時三分。


 まだ三分しか経っていないのに、ミキサーはすでに四回目の稼働に入っていた。


「……まさか、毎朝これ?」


 アスカは、嫌な予感を覚えた。


 その予感は、十分後、見事に的中することになる。


 ピンポーン!


 玄関のチャイムが鳴った。


 ドアを開けると、そこには爽やかな青年が立っていた。


 短く整えられた黒髪。引き締まった身体。清潔感のあるスポーツウェア。


 右手には、紫色のスムージーが入ったシェイカー。


 左手には、なぜかタブレット端末。


「おはようございます! お隣に引っ越してきました、黒咲ノエルです!」


「……くろさき?」


 アスカの眉が、ぴくりと動いた。


「はい! 黒咲厳の弟です!」


「……帰って」


「えっ、まだ自己紹介しかしていませんが!?」


「お兄さんには、もう十分すぎるほど自己紹介されたから!」


 アスカは、思わずドアを閉めかけた。


 しかしノエルは、さわやかな笑顔のまま、タブレットを差し出した。


「ご安心ください! 兄とは違って、僕は食事に点数をつけません!」


「……へえ?」


「その代わり、コスパとタイパを徹底的に分析します!」


 アスカは、ゆっくりとドアを閉めた。


 バタン。


「……兄弟そろって、食事に口を出すのが趣味なの?」


 玄関の向こうから、ノエルの声が聞こえてきた。


「長谷川さん! ドアの開閉時間がもったいないですよー!」


「うるさーーーいっ!」


 こうして、アスカの平和な朝は終わった。


 いや。


 正確に言えば、これから始まる騒動の、ほんの序章だったのである。


2.黒咲ノエルの、完璧すぎる朝食


 その日の昼休み。


 アスカは、朝の出来事を思い出しながら、コンビニで買ったおにぎりを食べていた。


「はあ……。厳さんの弟かあ……」


 黒咲厳。


 食事を採点し、食べるたびに反省を促し、アスカの食卓を何度も騒がせた男。


 その弟が、今度はコスパとタイパを武器にやって来た。


「もう、食事くらい自由にさせてよ……」


 アスカは、おにぎりをひと口かじった。


 おいしい。


 それだけで、少し元気が出る。


 午後の仕事も頑張れそうな気がした。


 ところが、帰宅すると。


 ピンポーン!


「……また?」


 玄関を開けると、ノエルが立っていた。


 今度は、巨大な保冷バッグを肩にかけている。


「長谷川さん! お待ちしていました!」


「待たなくていいわよ!」


「今日は、僕の食生活を紹介しようと思いまして!」


「頼んでない!」


 しかしノエルは、すでに説明を始めていた。


「僕は毎朝、プロテイン、冷凍ベリー、バナナ、牛乳をミキサーに入れます!」


「……うん」


「所要時間は、材料の準備を含めて約三分!」


「……うん」


「洗い物も、ミキサーの容器をすぐ洗えば最小限!」


「……うん?」


「さらに、栄養成分を計算して、タンパク質の摂取量を管理しています!」


 ノエルは、誇らしげに胸を張った。


「完璧でしょう?」


 アスカは、しばらく考えた。


「……ノエル君」


「はい!」


「あんた、それ、毎朝おいしいと思って飲んでるの?」


「もちろんです!」


 即答だった。


「おいしくないものを、毎日飲むわけがないじゃないですか!」


「あ、そう。それならいいんじゃない?」


「……え?」


 ノエルの笑顔が止まった。


「いい、とは?」


「だから、ノエル君が好きで、おいしいと思って飲んでるなら、いいんじゃないの?」


「……いや、しかし」


「私にまで、それを勧めなければね」


 アスカは、にっこり笑った。


「私は、ミキサーを洗うくらいなら、パックの豆腐を開けるほうが好きなの!」


「……豆腐?」


「そう。絹ごし豆腐に、ゆかりをかけて、オリーブオイルをちょろっと。はい、完成!」


 ノエルは、目を丸くした。


「調理時間は?」


「十秒くらい?」


「材料費は?」


「そんなにかからないわよ」


「洗い物は?」


「お皿一枚!」


 ノエルの瞳が、きらりと光った。


「……それは、かなり合理的ですね!」


「でしょ?」


「では、栄養成分を計算して、最適な摂取量を――」


「そこから先は、結構です!」


 アスカは、ぴしゃりと言った。


「おいしく食べて、満足したら、それでいいの。毎回、計算しなくてもいいでしょ?」


「しかし、健康管理というものは……」


「ノエル君」


 アスカは、少しだけ真面目な顔になった。


「食事ってね、身体のためだけにするものじゃないのよ」


「……え?」


「おいしいから、うれしい。好きなものを食べられると、幸せ。そういう気持ちも、大切だと思うの」


 ノエルは、答えられなかった。


 彼の頭の中では、すでに反論の候補が三つほど浮かんでいた。


 しかし、どれもタブレットの数値には変換できなかった。


 そのとき。


 アスカのお腹の奥から、声がした。


『……会長! 会長ーっ!』


「……え?」


 アスカは、お腹を押さえた。


 聞き覚えのある、上品な声。


 そして、次の瞬間。


 ぽんっ!


 紫色の扇子を広げたロズマリンさんが、アスカの目の前に現れた。


「アスカさん、大変でございます!」


「ロズマリンさん!?」


「胃腸町で、緊急事態が発生しております!」


 ロズマリンさんは、いつになく真剣な表情だった。


「町の住民たちが、食事を楽しめなくなっているのです!」


「……ええっ!?」


「皆、食べる前に栄養成分を計算し、食べている最中も時間を計り、食後には効率を反省しております!」


 ロズマリンさんは、扇子をぱちんと閉じた。


「このままでは、胃腸町から笑顔が消えてしまいます!」


 アスカは、ゆっくりとノエルを振り返った。


 ノエルは、タブレットを抱えたまま固まっていた。


「……まさか」


 アスカの声が、低くなる。


「ノエル君。あんた、胃腸町にまで効率化を広めたの?」


「い、いや! 僕はまだ、何もしていません!」


「まだ?」


「……あ」


 しまった、という顔だった。


 ロズマリンさんの眉が、ぴくりと動いた。


「木ノ下……いえ、黒咲ノエルさん」


「は、はい!」


「あなたの効率化計画について、胃腸町自治会として、正式にお話を伺う必要がありそうですね」


「じ、自治会!?」


「はい。議題はひとつ」


 ロズマリンさんは、紫の扇子を高々と掲げた。


「食事は、効率だけで語れるのか?」


 その瞬間、アスカのお腹が。


 ぐるるるるるるる……。


 低く、不穏な音を立てた。


「……ロズマリンさん」


「はい、アスカさん」


「これ、長くなる?」


「おそらく」


「……じゃあ、その前に何か食べない?」


 ロズマリンさんは、ふっと微笑んだ。


「賛成でございます」


 ノエルは、二人を見つめた。


 議論の前に、食事。


 効率からすれば、順番が逆ではないだろうか。


 しかし。


 アスカは、冷蔵庫から豆腐を取り出していた。


 ロズマリンさんは、食卓の準備を手伝っていた。


 二人とも、実に楽しそうだった。


 ノエルは、初めて、自分のタブレットを伏せた。


「……僕も、ご一緒していいですか?」


 アスカは、笑った。


「もちろん。ゆかりとオリーブオイル、使う?」


「……ぜひ!」


 こうして、胃腸町の新たな騒動は、たった一皿の豆腐から始まったのである。

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