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『ダイエッター 長谷川アスカ36歳の、町内(腸内)会長、ロズマリンさん!』〜街の平和を守ります〜  作者: 東曌


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第三章 油揚げピザと、夜の警備員

第三章 油揚げピザと、夜の警備員


土曜日の夜。


アスカは、台所で油揚げを取り出した。


「今日は、簡単に油揚げピザ!」


油揚げを開き、梅肉を薄く塗る。


チーズをのせ、刻んだねぎを散らす。


あとは、トースターで焼くだけ。


じゅううう。


香ばしい匂いが広がった。


「うわあ、いい匂い!」


アスカは思わず笑った。


料理というものは、不思議だ。


手の込んだ料理を作る気力がなくても、簡単な一品がうまくできると、それだけで少し得をした気分になる。


「いただきます!」


焼きたてをひと口。


表面はカリッ。


チーズはとろり。


梅の酸味が、いいアクセントになっている。


「うん。これ、好き!」


その瞬間。


胃腸町の警報が鳴り響いた。


『夜間食事取り締まり作戦、開始!』


町の入り口に、黒咲厳が現れた。


「長谷川さん! 夜にチーズなど、マイナス20点!」


「だから、なんで毎回採点するんですか!」


「夜は活動量が減る! 余計なカロリーは避けるべきだ!」


「でも、夕食を食べないわけにもいかないでしょう!」


「食べるなら、計画的に食べろ!」


ゲンの声が町中に響く。


住民たちは、家の窓を閉めた。


「また始まった……」


「食事のたびに取り締まられたら、食べるのが怖くなっちゃうよ」


アスカは、ピザを持ったまま立ち尽くした。


もちろん、食事の量や内容、食べる時間帯を考えることは大切だ。


けれど、夜に何かを食べたからといって、それだけで健康や体重のすべてが決まるわけではない。


それなのに、ゲンの言葉を聞くと、まるで自分が悪いことをしているような気持ちになる。


「……もう、いやだな」


アスカがつぶやいたときだった。


町の門の上から、低い声が響いた。


「警備対象を確認」


黒い制服。


無表情。


胸には、銀色の名札。


サラシア警備員。


彼は静かに着地すると、ゲンの前に立った。


「夜間警備は、私の担当です」


「何だ、お前は!」


「サラシア警備員」


「その名は聞いたことがある。炭水化物対策の切り札だな!」


「誤解があります」


サラシア警備員は、淡々と答えた。


「サラシアに含まれる成分には、糖質の消化や吸収に影響するものがあります。しかし、すべての糖質を遮断するわけではありません。食べたものを帳消しにする能力もありません」


「何だと!?」


「過信は禁物です」


ゲンは、採点表を握りしめた。


「では、何の役に立つ!」


「必要な知識を、必要な範囲で使う。それが私の任務です」


サラシア警備員は、ぴたりと敬礼した。


アスカは、思わず吹き出した。


「……警備員さん、まじめだなあ」


「職務です」


「そ、そうですか」


ロズマリンさんが歩み寄ってきた。


「黒咲さん。健康を守るために食事を考えることと、食事を恐れるようになることは、同じではありません」


「恐れる? 私は、長谷川さんのために指導している!」


「そのお気持ちは、わかります」


ロズマリンさんは、穏やかに答えた。


「けれど、相手の暮らしを知らずに正しさだけを押しつけても、長続きしないことがございます」


ゲンは反論しようとした。


だが、アスカが先に口を開いた。


「黒咲さん」


「何だ、長谷川さん!」


「私、健康になりたいんです」


「ならば、もっと努力しろ!」


「努力しています!」


アスカの声が、思った以上に大きく響いた。


「仕事もして、家のこともして、疲れていても、できることはやってるんです。毎日、完璧な食事を作るのは難しいけど、少しでも体にいいものを選ぼうって考えてるんです!」


ゲンが黙った。


アスカは、油揚げピザを見つめた。


「でも、食べるたびに減点されていたら……私、何を食べても、失敗した気持ちになるんです」


ロズマリンさんは、静かに見守っていた。


アスカは、顔を上げた。


「完璧じゃないと、楽しく食べちゃいけないんですか?」


その問いに、すぐ答える者はいなかった。


風が吹いた。


胃腸町の旗が、ぱたぱたとはためいた。


ゲンは、何か言いかけて、口を閉じた。


だが、次の瞬間。


「……ええい! 話し合いは終わりだ!」


彼は空に向かって、採点表を掲げた。


「こうなったら、食生活に潜む問題をすべて洗い出してやる!」


空が、どす黒く染まる。


遠くから、恐ろしい咆哮が聞こえた。


「来るぞ!」


サラシア警備員が叫んだ。


ロズマリンさんは、扇子を広げる。


「皆さま、備えてください!」


そして、町の向こうに五つの巨大な影が姿を現した。


唐揚げの触手。


トンカツの巨大な剣。


豚骨ラーメンの湯気。


チャーハンの岩のような胴体。


ギョーザの鋭い翼。


五大ヘビー級モンスター軍団が、ついに胃腸町へ迫っていた。


第三章・了

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