第二章 麦おにぎりと、お掃除特戦隊の大作戦
第二章 麦おにぎりと、お掃除特戦隊の大作戦
翌朝。
長谷川アスカは、いつものようにコンビニへ立ち寄った。
「うーん。今日は何にしようかな」
棚には、鮭のおにぎり、梅のおにぎり、ツナマヨおにぎり。
その隣には、もち麦入りのおにぎりが並んでいる。
アスカは少し考えて、もち麦入りのおにぎりをひとつ手に取った。
それから、インスタントのあさりの味噌汁も買う。
「よし。今日のお昼、決定!」
職場で昼休みを迎え、アスカはおにぎりの包装を開けた。
その瞬間。
お腹の奥で、またしても、ぽん、と音がした。
「……来たな」
アスカは慌てなかった。
昨日、あれだけ奇妙な体験をしたのだ。
多少の腹鳴りでは、もう驚かない。
たぶん。
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アスカの胃腸町では、
朝から緊急町内会議が開かれていた。
「議題は、ヘビー級モンスター軍団への対策です」
ロズマリンさんが扇子を広げた。
「まずは、町の現状を確認しましょう」
「はいっ!」
元気よく手を挙げたのは、海藻のような髪をした小さな隊員だった。
「お掃除特戦隊、メカブです!」
その隣には、ワカメとひじき。
三人とも、小さなほうきを背負っている。
「我々は、水溶性食物繊維の清掃部隊!」
「町の環境整備なら、お任せください!」
「ただし、掃除したからといって、食べたものが全部消えるわけじゃありません!」
最後のひと言だけ、ひじきが妙に現実的だった。
ロズマリンさんは満足そうにうなずいた。
「大切なことですね。皆さん、自分たちの仕事を正しく理解しているようです」
そこへ、黒咲厳が採点表を持って現れた。
「甘い! もち麦おにぎりを食べた程度で、何が変わるというのだ!」
メカブが、むっとした。
「程度とは何ですか、程度とは!」
「食物繊維を少々摂取したところで、生活全体が改善されなければ意味がない!」
「それはそうかもしれませんけど!」
ワカメが口を挟んだ。
「だからって、ひとつのおにぎりを悪者にする必要もないでしょう!」
「黙れ!」
ゲンは採点表を突きつけた。
「コンビニ食、マイナス10点!」
アスカは、町の向こうからその声を聞いていた。
「……出た。マイナス点」
ロズマリンさんが、アスカのそばにやって来た。
「アスカさん。お昼ご飯を選ぶとき、何を考えていましたか?」
「え? えーっと……仕事の合間に買えて、食べやすくて。
できれば、ちょっとでも腹持ちがよさそうなものがいいなって」
「それも、立派な選択の理由ですね」
ロズマリンさんは、うなずいた。
「食事は、栄養の数字だけで決まるものではありません。
時間も、予算も、好みも、暮らしの事情もございます」
「でも、黒咲さんは……」
「黒咲さんは、理想的な食事を考えるのがお得意なのでしょう。
けれど、理想を毎日続けられるかどうかは、また別のお話です」
アスカは、少しだけ肩の力を抜いた。
そのとき、メカブが高らかに叫んだ。
「お掃除特戦隊、出動!」
三人は、巨大な麦の粒が転がる広場へ飛び出した。
・メカブがほうきを振る。
・ワカメが縄を張る。
・ひじきが、なぜか拡声器を取り出した。
「道を空けてください! ただいま町内清掃中です!」
「ひじき、それ、どこから持ってきたの?」
「町内会の備品です!」
「用意がいいなあ!」
アスカが笑った。
三人は町のあちこちを整え、住民たちが働きやすい環境を作っていく。
もち麦などに含まれる食物繊維は、腸内環境を整えるうえで役立つことがある。
ただし、食物繊維を一度にたくさん摂ればいいというわけでもない。
体質や食べる量によっては、お腹が張ることもある。
「大切なのは、無理なく続けること!」
メカブが胸を張った。
「それと、水分も忘れずに!」
ワカメが付け加える。
「そして、私たちに全部の仕事を押しつけないこと!」
ひじきが念を押した。
「……掃除隊、けっこう現実派だね」
アスカは感心した。
その日の夕方。
アスカは、帰宅してからふと思った。
「あれ? 最近、前よりお腹の調子がいい日もあるかも」
けれど、すぐに首を振った。
「いやいや、一日二日で決めつけるのは早いか」
体調は、食事だけでなく、睡眠やストレス、活動量などにも左右される。
焦らず、自分の調子を見ていけばいい。
そう思えるようになっただけでも、少し進歩だった。
ところが。
胃腸町の空が、突然、真っ赤に染まった。
町内放送が鳴り響く。
『緊急警報! 黒咲厳氏が、夜間食事取り締まり作戦を発動!』
「なにそれ!?」
『標的は、油揚げピザ!』
アスカは冷蔵庫を見た。
そこには、油揚げとチーズ、梅肉が入っていた。
「……私の夕飯、もうバレてる!」
ロズマリンさんが、険しい顔で扇子を閉じた。
「皆さま。夜の警備を強化してください」
町の遠くで、黒い影が動いた。
第二章・了




