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第2話 まずは状況確認

 シンは髪が肩を撫でる感触に、反射的に肩をすくめた。腰まで届く重さなんて、今まで感じたことがない。見下ろした自分の手は記憶より小さく、指が細い。


 ヒエイの視線は、泳ぐようにシンの全身を彷徨い、その目に映ったのは、見知らぬ少女だった。

 腰まで流れる白銀の髪が、風に柔らかく揺れている。サファイアを嵌め込んだような瞳が、困惑したようにこちらを見つめていた。白銀の鎧が描く曲線、青いミニスカート、白いハイソックスの間に覗く細い足。

 どこをどう見ても、さっきまで隣にいた親友の面影が、一ミリもなかった。


 直視に耐えかねたように、ヒエイはバッと顔をそむけ、片手で顔を覆う。けれど指の隙間から、どうしても見てしまう。親友の、あまりに不似合いな可愛らしさが、ヒエイの思考回路を完全に焼き切っていた。


 シンはその場でぴょんと跳んでみて、次に片足立ちで数秒静止した。最後に、こほん、と咳払いをしてから、わざと高い声を出してみせる。

 

「あー、あー。……うん、普通に出る」

 

『いや検証してる場合か!?』

 

「気になるじゃん、新しい体だし」


 シンはこてんと首を傾げ、わざとらしいくらい高く、甘い声を出してみせた。

 

「ねえ、ヒエイ。私、可愛い?」

 

『やめろ!反則だろそれ!』

 

 両手で顔を覆って後ずさるヒエイに、シンはにやりと笑った。

 

 「さて、持ち物とステータス、確認しよっか」


 二人の足もとには、初期装備と思われる二つの皮製ウエストバッグが転がっている。

 それぞれの中身を広げてみると、三日分の干し肉、水袋、地図、そして謎の本と金属のぶつかり合う音がする布袋が出てきた。

 そして、シンのバッグには追加で『光魔法書』の下級と中級の二冊が入っていた。女神の、存外にマメな配慮が伺えた。


 本の内容から察するに、この世界において治癒魔法は光魔法の系統に属しているようだった。


 ヒエイが布袋に入った硬貨を掌にジャラリと落とし、銀色の硬貨を眺めた。

 銀貨と金貨の枚数を調べると、銀貨10枚、金貨10枚がそれぞれの布袋に入っていた。


 

『そういえば、この世界の貨幣はどれくらいの価値なんだ?』


 シンは忘れた事を思い出すかのように、意識を集中させると脳裏に鮮明な情報が浮かび上がった。

 

「えっと……一般常識スキルによると、基本は『リス』っていう単位らしい。鉄貨が十円、銅貨が百円、この銀貨が千円……って感じで、金貨は一枚一万円の価値だね。その上に白金貨とか王金貨もあるけど、百万とか一千万単位だから、滅多にお目にかかれない代物みたいだよ」


 鉄貨=10リス=10円

 銅貨=100リス=100円

 銀貨=1,000リス=1000円

 金貨=10,000リス=10,000円

 白金貨=1,000,000リス=1,000,000円

 王金貨=10,000,000リス=10,000,000円


『なるほど、あとこのナゾの本だな』

 

 ヒエイが革表紙の分厚い本を手に取ると、隣でシンが使いこなしてる風にアドバイスを飛ばした。

 

 「鑑定と、頭の中で思えばでてくるぞ」


 言われるがままにヒエイが意識を集中させると、手に持ったアイテムの表面に、淡い光の文字が浮かび上がった。


干し肉

ランク☆☆☆

 ホーンブルの肉を干して出来た干し肉

制作者「   」


水袋

ランク☆☆☆

 皮革を縫い合わせ、内側に樹脂を塗った。普通の水袋

制作者「   」

 

世界地図

ランク☆☆☆☆☆

 現在地、拡大、縮小もできピンを立てて記録もできるマジックアイテム

破壊不能

制作者「   」


記録の書

ランク☆☆☆☆☆

 頭の中で思ったことを文字や図にして無限に記録できるマジックアイテム

破壊不能

制作者「   」


「なかなか凄い性能のアイテムだな」


『確かに、いい性能してるな』


 新しいものを手に入れた子供のように、ヒエイは楽しそうに地図を操作している。

 対照的に、シンは鑑定結果の制作者という項目にじっと視線を落としていた。

 女神エリシスの過保護とも言える配慮。その裏に隠されたこの世界の危うさを察し、シンは小さく溜息をついた。

 

『次は、ステータスだな』

  

『「ステータスオープン」』


 二人の声が重なった瞬間、目の前の空間にタブレット端末のような半透明のパネルが浮き上がった。


「……見える? ヒエイ?」

 

『ああ、バッチリだ。……けど、お前のパネル、俺の場所からは透けてて何も見えないぞ。どうやら本人にしか見えない仕様らしいな』

 

 ヒエイがシンの目の前の空間を不思議そうに覗き込む。


 


ステータス


上谷かみや しん

種族 人間族

クラス なし

Lv1

HP25/25

MP30/30

SP15/15

筋力  :10

防御力 :15

敏捷性 :13

器用値 :32

精神力 :14

幸運値 :20

スキル 鑑定分析

    一般常識Lv1

    光魔法Lv1

    言語理解

    アイテムボックスLv1

称号 なし

 


神風かみかぜ 飛燕ひえい

種族 人間族

クラス なし

Lv1

HP30/30

MP23/23

SP20/20


筋力  :14

防御力 :17

敏捷性 :15

器用値 :24

精神力 :10

幸運値 :27

スキル 鑑定分析

    銃作成ガンクリエイトLv1

    弾薬無限Lv1

    言語理解

    アイテムボックスLv1

称号 なし



スキル横の拡大ボタンを押すとスキルの詳細がわかるようだ。



鑑定分析

分類 :パッシブスキル(ユニークスキル)

対象のステータスを詳細に読み解く。

鉱物・生物・植物・人工物などの詳細情報を閲覧・確認できる。


銃作成ガンクリエイトLv1

分類 :マジックスキル(ユニークスキル)

あらゆる銃器およびそのパーツを創造できる。作成する銃の大きさや重量に応じて、消費するMPが変動する。

レベルが上昇するごとに、スキルのMPの消費量が減る。



弾薬無限Lv1

分類 :マジックスキル(ユニークスキル)

あらゆる銃器の弾薬を作成できる。ただし、弾丸の威力に比例してMP消費量が増加する。

レベルが上昇するごとに、スキルのMPの消費量が減る。


言語理解

分類 :パッシブスキル(ユニークスキル)

世界に存在するすべての言語を完全に理解する。

あらゆる種族の会話(発声)の聴き取り、および文字の解読・記述が可能。


アイテムボックスLv1

分類 :パッシブスキル(ユニークスキル)

物質や植物などを異空間に収納・保管できる。

収納内部は時間が完全に停止するため、中に入れた物は劣化・腐敗しない。

レベルが上昇するごとに、収納可能な最大容量が拡張される。


一般常識Lv1

分類 :パッシブスキル(ユニークスキル)

一般の常識が分かるようだ。

レベルが上がると情報量が増える。

 


 シンはしばらく自分のステータスをじっと見つめた。器用値32。確かに細かい作業は得意だった。しかし筋力10というのは、なかなか手厳しい現実だった。

 

 二人が自身のパネルの細部を読み進める中、シンの指が名前の横にあるペンのマークで止まった。

 興味本位で触れた瞬間、半透明の空間に滑らかな入力バーが出現する。キーボードを叩く必要すらない。頭の中に文字を浮かべるだけで、思い通りに書き換えられるようだった。


「あ、名前のところが変えられる。ヒエイ、苗字は消した方がいいよ、貴族しか持ってないから、下手したら死刑だよ。」


 何気ない動作のまま、シンが淡々と告げる。

 

『お、おう』


 さらりと恐ろしい事実を口にするシンに対し、ヒエイは引きつった顔で声を震わせる。

 

 「俺……私は、クリスに名前変えるから、これからはクリスと呼んでね」


 入力バーにクリスと入力し、クリスが銀髪を揺らして告げる。

 上谷(かみや) (しん)という名前が、静かに消えた。その響きは、新しい人生に幕を開けるようだった。



『了解! クリス』

 

 ヒエイは深く追及せず、快活にその名を呼んだ。同時に自身のパネルを操作し、少しためらいながらも、神風の苗字を消し去る。


「ステータス確認終わった? そろそろ街に行こう!!」


 クリスはワクワクしながら元気よくそう言って、バッグから世界地図を取り出した。

 ヒエイにも見えるように広げると、現在地の辺りを拡大して周辺のものを表示する。


「今ここはアルー王国、西の方にカミル男爵領のカルの街があるからそこに行こう。日が暮れる前には着きたいね」


 慣れない手つきで地図をしまい、クリスは西の空を見据えた。どこまでも続く草原の向こうに、街があるらしい。

 知らない世界の、知らない道を、これから歩いていく。

 それがなぜか、少しも怖くなかった。

 

『さあ、行くか!』


 ヒエイの威勢のいい声に背中を押されるように、二人は歩き出した。



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