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10-23 戦え!

 人間誰しも、生きていれば「気付いたら1日が終わってた」と言う日があるんじゃないだろうか?

 まあ、現在の俺に対しての「人間ちゃうやんけ」と言うツッコミは置いといて、そう言う日があるのは事実だ。

 なんたって、本当に今日1日何があったのか碌に覚えていない。

 今日は何の日だったか?

 闘技会の決勝戦である。

 しかし、それを全然覚えていない。ハッと我に返った時にはもう夜だった。

 え? 決勝戦どうなったん?

 一応ボンヤリ、決勝戦の相手がおっさんの右腕らしい魔族だった事は覚えている。そいつがなんか凄そうな魔剣の使い手だった事も覚えている。

 だが…………どんな戦いをしたのかは一切記憶にない。


『【魔剣ミストルテイン Lv.88】

 カテゴリー:武器

 サイズ:大

 レアリティ:★

 属性:深淵

 装備制限:魔力500以上

 所持数:1/1

 深淵属性以外の属性を持った敵に特効』


 まあ、その持ってた魔剣と優勝賞金らしい金貨の山が収集箱に放り込まれてるって事は、俺が勝ったんで間違いないと思う。

 それに酒場で騒いでる連中が、盛大に俺の勝利を祝ってるし……。


「剣の勇者様万歳!!」「オメェ今日はクソ勝ちしたんだから驕れよな!?」「いやー今季の闘技会は、外の国からの参加者が暴れてくれて盛り上がったなぁ?」「だよなあ! 正直近頃は似たような面子しか勝ち上がらなかったらか楽しかったぜぇ」「にしても剣の勇者が優勝かぁ……これは流石勇者って褒めるべきかね?」「正直舐めてたよね? まさかあっこまで強いとは思ってなかったわ」


 酒場の喧騒とアルコール臭さから逃れるように、子猫のチョコチョコ歩きで通りを抜けて行く。


「ミィ……」


 ふぅ……。

 まあ、別にこう言う「気付いたら終わってた」日がある事自体は別に良いんだ。元の世界でサラリーマンしてた頃も、こう言う日は年に1回くらいあったし。

 なんでよりにもよって、闘技会のクライマックスの決勝の日にくんのよ……。お陰で良いところ全然覚えてねえよ。俺だって優勝して皆にちやほやされた記憶くらい持って置きたかったよ……。優勝したっぽいのに記憶がねえから嬉しさも湧いてきやしない……。

 まあ、何故にこんなクソッ垂れなタイミングでコレが来たのかは分かっている。

 昨日のおっさんの「試合に負けろ」発言が、自分で思っている以上に精神的なダメージになっているからだ。

 アレは……どう言う意味だ?

 おっさんは魔王で、俺は勇者だ。まあ、本当は勇者じゃねえけど立ち位置的には間違いなく勇者だ。

 勇者と魔王は100年近く殺し合っている仲だ。だから、冷たくされると言うのなら別に良い。それが本来のあるべき姿だ。

 おっさんが、本来の魔王の立場に返って「勇者とは仲良く出来ない」ってなっての発言なら、まあ分からんでもない…………いや、やっぱり分からんわ。

 俺をこの国に呼んだのはおっさん自身だ。そしてそれは俺と戦う為。

 一応「殺し合いはしない」って口約束はしたけど、魔王の責務に立ち返ったと言うのならその口約束を「やっぱナシで」と反故にすれば良いだけだ。

 昨日の「試合に負けろ」発言……それに従った場合どうなるかと言うと、多分――――おっさんと戦う為の条件の闘技祭優勝が無くなり、俺はおっさんと戦う事なく帰る事になっていた。

 つまり……おっさんは、俺との戦いを回避しようとしていたって事じゃねえか?

 何故か?

 分からん。

 見上げれば空は夜に染め上げられて、闇のカーテンに覆われている。

 …………行ってみるか、おっさんの所?

 俺が闘技祭で優勝した以上、明日にはおっさんと戦う事になる。おっさんにどう言う思惑があるのかは知らないが、そのせいで本気の殺し合いになるかもしれないと言うのなら、俺としては無視できない問題だ。

 おっさんに何かあったのか……それともただ単に心変わりしただけなのか……今夜のうちに確かめておきたい。そして出来るなら問題を解決するなり、説得するなりして明日は命の心配をしなくて良い勝負にしたい。

 夜の町を、魔王の屋敷に向かって駆け出した。



*  *  *



 おっさんの屋敷。

 相変わらず規格サイズがバカになってんじゃないかと思う大きさ。

 元々小さい子猫としては、人間の時との感覚のズレで必要以上に小さく感じるってのに、この何でもかんでも大きい屋敷に入ると自分が蟻にでもなった気分になる。

 まあ、それはともかく――――警備が居ない……?

 特に俺が隠れる必要もなく、警備らしき魔族も人間も居ない。ついでにおっさんの部下っぽい奴等も居ない。

 屋敷の中には、おっさんの……強い魔王の臭い1つだけしかない。

 魔王が強いから警備必要無い……って訳じゃねえよな? 前に来た時は立ち番もちゃんと居たし。それなのに今は居ないって事は……まあ、そう言う事でしょう。

 巨大な廊下を小さな4本足をトテトテ動かし、無遠慮に進む。

 おっさんの部屋の前。

 ノックくらいはするべきかな? と迷った瞬間、中から声をかけられる。


「入れ」


 まるで、俺が来る事を知っていたような落ち着いたおっさんの声。

 いや、昨日のあの発言を俺が無視して優勝した時点で、俺が来る事は予想していたんだろう。だからこそ、警備どころか屋敷の住人全部外に出して1人で待っていた。

 【仮想体】に籠手だけ付けて大きなドアを開けさせる。

 部屋の中には、初めてここを訪れた時と同じように、殺風景な部屋に申し訳程度に置かれている椅子におっさんが腰かけていた。


「(邪魔するぜ)」

「茶でも出すか?」

「(茶を飲みながら聞けるような和やかな話をするなら出せよ)」


 瞬間の睨み合い。

 殺気……とまではいかないが、どこか敵意を含んだ強い視線だった。

 その視線の圧力を押し返すように部屋に足を踏み入れる。一応礼儀として、開けたドアは【仮想体】に閉めさせ、出番が終わった籠手ごと収集箱に戻す。

 俺が部屋の真ん中にチョコンとお座りすると、それに合わせておっさんも椅子から降りて床に正座して向きあう。


「昨日の我の言葉は無視されたようだな?」

「(従う理由がねえからな)」

「…………」


 どこか悲しげなおっさんの目。

 何かを迷うような、何かを後悔するような……見ていて悲しくなる目。

 ……やっぱりだ。何かあったのは間違いない。


「(昨日の発言の意味をあらためて聞きたい。あれはどう言う意味だ?)」

「…………」


 ……また沈黙……「らしくない」続きだな。

 10秒程何かに迷う間があり、そしておっさんは口を開いた。


「我は、魔王同盟に参加する事になった」

「(魔王同盟?)」

「大陸北側の4人の魔王が手を結ぶ同盟だ。我、ヴァングリッツ、フィラルテ、ハーディの4人が参加者だ」


 え? 何? 魔王が4人で手を組むって超ヤバくない? 魔王を各個撃破しようとしても、他の3人が殴りかかって来るって事でしょ? 超ヤバくない? って言うか手が出せなくない? 詰みじゃない? 詰んでるよね? 詰んでるよねコレ?


「この同盟の目的は、お前によって人間の手に奪還された大陸南側の3国を魔族の手に取り戻す事にある」


 は?


「近々、我等魔王4人は軍を率いてギルシュテン王国、ツヴァルグ王国、エルギス帝国の3国の奪還に乗り出す」

「(ちょっ!? まっ!? な、なんでっ!!)」


 自分でもバカな事を言っている。

 南側の3国は、俺が魔王をブチ転がして取り戻した訳だが、魔族側にしてみればそれは“奪われた”事に他ならない。

 だったら、残っている魔王連中がそれを再び奪い返しに来るなんて当たり前の事だ。

 それに、南側にはアザリアを始めとした勇者連中が居る。もし魔王同盟だか連合だかが攻め寄せて来たら、絶対にそれを阻もうと動く。

 それはつまり――――


「(戦争が起きるって事だぞ……!?)」


 10年前の戦争に比べれば規模は小さいかもしれない。だが、確実に数え切れない程の者が死に、海の如く血が流れる。

 脳裏に、おっさんと一緒に行った戦争の跡地がフラッシュバックする。

 死んだ大地。

 異臭と毒の沼で満ちた、戦士たちの墓標。

 この世の未練を嘆くように湧き出るゾンビ共。

 あんな光景を、もう1度作るつもりなのか!?

 信じられなかった。信じたくなかった。

 人間に友好的なおっさんが、再びあの地獄を作ろうとしている事が。

 それなのに、おっさんは静かに答えた。


「そうだ……」

「(人も魔族も、どれだけ死ぬか分かんねえんだぞ!?)」

「そうだ」

「(あの……あの、呪われた大地がもう1つ生まれるんだぞ!!)」

「そうだ!」

「(人間が取り戻した小さな平穏を、また奪うってのかよ!!)」

「そうだ!!」


 残念な事に……泣きたい事に、おっさんは本気だった。本気で戦争を起こし、人間を蹂躙して、人間に取り戻された国を力付くで奪おうとしている。

 ダメだ――――……!!

 戦争はダメだ!

 俺自身が戦争を嫌い云々って低レベルな話じゃない! 今の人間達の最大戦力は多分俺、それに次いでアザリア達勇者連中。だが、その戦力を全部掻き集めても魔王4人を相手にするのは無理だ。絶対、と断言しても良い。戦争になったら100%負ける!!

 人間達を護るなら、戦争を起こさせたらダメだ!

 戦争が始まった時点で人間は詰む!

 今――――今、この瞬間が、戦争を止める最後のチャンスじゃないのか!?

 考えろ、何か、何か、止める、ここで、魔王同盟の足と手を止めさせる方法を……!!


「お前をこの国に呼んだのは、あくまで我の個人的な我儘だ。ヴァングリッツからはここで始末しろと言われたが――――ここでお前に手を出せば義に欠く。故に、お前が国に戻るまでは手を出さんし、他の魔王にも手は出させん。早々に自国に戻り、戦争の準備をするが良い」


 ああ……そうかよ……昨日の「試合に負けろ」発言は、そう言う意味かよ……!

 いやっ、待て……!! 今、俺に出来る事――――!?


「(……待てよ)」

「なんだ?」

「(1つ、忘れてるぜ)」

「……何をだ?」

「(俺は、闘技会の優勝者だ)」

「…………そうだな」

「(テメェは、闘技場のチャンピオンとして俺と戦う義務がある)」


 もしかしたら、無意味な行動かもしれない。

 自分の命を賭ける事になるかもしれない。

 だが――――頭の悪い俺が考えつく、この場で戦争を止める方法はこれしかない!


「(魔王ギガース!! 俺と、戦えッ!!)」



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― 新着の感想 ―
[良い点] アツい [気になる点] オッサンがピーナッツから何か洗脳というか精神操作というか、そんな感じの横やりが入ってそうな雰囲気 [一言] 仮にオッサンに勝っても3連戦が待ってるのか そうでなくと…
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