10-21 鎧やなんかのなんやかんや
『【ヴァリアントメイル Lv.55】
カテゴリー:防具
サイズ:大
レアリティ:B
付与属性:神聖
所持数:1/20』
『【霊を喚ぶ錫杖 Lv.21】
カテゴリー:武器
サイズ:中
レアリティ:C
付与属性:神聖
所持数:1/20』
『新しいアイテムが2つコレクトされた事により、肉体能力にボーナス(効果:微)』
準決勝を終えた俺は、サクッと勝者の特権として敗者から武器防具を毟り取った。
いや別に悪い事してる訳じゃないし。ルールですし。ええ、本当に。勝者の権利として敗者の持ち物を貰う事を許可してますからこの闘技場。いつものように盗んでる訳じゃないし、マジで悪くねーし。
…………いや、いやいやいやいやいやいや! いつものも違うよ!! 盗んでないし! なんやかんやで貰ってたり、俺自身に所有権がある物を回収してるだけだし!! 断じて盗んでないから、本当に、マジでマジで!! 警察のお世話になるような事は一切してま…………一切……? …………ちょっとだけしかしてません!!
ま、まあ、そんな事は置いといて……いや、別に誤魔化してる訳じゃねーし。円滑に話を進めてるだけだし。
で、だ。
レアリティBとCか……鎧の方は家宝だって言ってたし、確かにこりゃ良い物だ。……ただ、まあ、魔道具の“自動サイズ調節機能”を使ってもシアにはブカブカだし、魔法職が着るにはこれだけ立派な鎧じゃ重さの意味でもしんどいだろうから、「コイツの性能を引き出せてたか」って意味では大分怪しい。
そして2分前までこの武具の持ち主だった本人は…………。
「にゅォわああああああああッ!!」
…………なんか、怪獣みたいな叫びをあげながら地面で泣き崩れていた。
「旦那様ぁあ!! どうかお嬢様をお許しくださぃぃいい!! 全ては、お嬢様をお守りできなかったこの私めのせいにございますぅうううううっ!!」
…………ついでに執事の爺さんも泣き崩れていた。
家宝の鎧を俺に持って行かれたのがショックだったらしい。
いや……まあ、貴族の誇りたらは分からんけど、大切な物を他人に持って行かれる悔しさや悲しさくらいは俺にだって分かる。
分かるのだが……これは……アレだわ。うん、とってもアレだわ……。
“お年頃”な女性と、良い歳したご老体が揃って泣き崩れている光景は、色々考えさせられる……うん、本当に。
「爺のせいではありませんわ……。それに、こうなる結果は覚悟の上で闘技会に参加したのです」
なんか恰好良い事言ってるけど、その顔は涙と鼻水でとんでもない事になっている……。ついでに自慢の(?)ロールパンも悲しそうに垂れ下がっているし……。
絶対女が男に見せちゃいけない顔だろコレ……。
貴族の誇りどこ行った……?
「お、お、お、おじょ、お嬢様ああああああ!!」
更に泣く爺様……。そんなに泣いたら脱水症状でぶっ倒れるんじゃないの……? 大丈夫?
なんか……ここまで泣かれると、俺が悪い訳じゃないのに罪悪感が湧いて来る。重ねて言うが俺が悪い訳じゃないのに……。
まあ、ぶっちゃけアイテムは収集箱に登録したから返しちゃっても良いっちゃ良いんだが……。俺の能力はアイテムの数がそのまま強さに直結するからなぁ……少しでも強くなろうと思うなら手放したくない訳で……うーん……。
錫杖……は、流石に代わりになるような物持ってねえから仕方ない。
収集箱の中で錫杖に魔力を多量に流しこんで圧し折る。
『霊を喚ぶ錫杖が破損した武器×2になりました』
『収集箱内の“破損した武器”を修復します。
修復が終了するまで 00:01:00』
ん? レアリティCの武器なのに修復にかかる時間がたった1分? 異常に早くない? いつもなら20分くらいかかるのに……。
俺のスペックが上がってる分、スキルも成長して性能が上がってんのか? だとしたら有り難いな。この辺りのランクなら誤差10分20分だが、レアリティAになると平気で1日以上かかるのがあるし。
“不思議なポケットの法”を多用する俺としては作業スピードが上がるのは願ったり叶ったり。
で、問題は鎧の方だ。
この……なんだっけ? ヴァリアントメイル? とか言う鎧もそのまま増やして返せば良いんだが……うーん……このまま返して良いもんかな?
そりゃ、家宝だってんなら大切なのは分かる。分かるが――――それを実戦で使う事を考えると正直無条件に頷きかねる。
誰がどう見たってシアにこの鎧はあってない。能力値的にも、戦闘での立ち位置的にも、だ。
言いたくないが、現状での魔族と人間との戦力差は圧倒的過ぎる。少しでも戦える人間には生き残って貰わないと、後々勇者諸君が苦労する羽目になる気がする。
え? 俺自身は苦労しないのかって?
しないよ。何故って、俺は人間と魔族の生存競争に首突っ込むつもりねえし。やるなら俺とは関係ない所で頑張ってねって話よ。
まあ、そんな訳で、シアには良い装備渡して少しでも生存率上げておかないとね?
俺の手持ちの中には、もっとサイズが小さめで軽い鎧がある。しかもレアリティも能力も劣らないようなのが。
勿論手持ちの鎧は全部所持制限一杯まで増やしてあるから、別に1つや2つあげてしまっても、また増やせば良いだけの話だから問題無い。
シアの今後を考えるなら、ちゃんと合っている鎧をここで渡す方が良いに決まっている。
じゃあ、渡せば良いじゃん? って話なんだが……それをシアと老執事が納得するのかなぁ……。
…………ま、いっか。納得しなくても、とりあえず押しつけてしまえば。
予選の時と同じだ。
本来なら勝者が敗者に何か渡す必要はないんだ。「くれてやるだけ有り難く思え!」的な尊大な感じで思っといたらええねん。うん、多分。
で、えーと……アダマンタイトの鎧、これで良いかな? レアリティは同じだし。まあ、属性付与かかってないけど、代わりに魔法耐性無茶苦茶高いから使い勝手はコッチのが格段に上だし。
ってか、コレどこで手に入れた奴だっけ……? ガジェットの所だっけ? いや違う、網走教会から脱出する時に慰謝料で貰って来た奴か。
じゃあアダマンタイト装備一式で良いか。
ワンワン泣いている2人から離れて柱の陰に入り、アダマンタイト装備一式と修復が終わって2本に増えた錫杖を引っ張り出す。
…………物凄く今更だが、鎧一式って持ち歩くとなると凄い嵩張るよなぁ……。いつもは収集箱に入れてるから気にしなかったけど……。
そもそも収集箱内のアイテム全部手で持ち歩こうと思ったら、それだけで相当な仕事だよな……収集の能力超偉大だわ……本当に今更だけど……。
色々しみじみしつつ、【仮想体】に腕一杯アイテムを抱えさせて戻る。
いい加減泣き飽きたのか、2人共座りこんだまま魂の抜けたような顔をしていた。
……今詐欺師や怪しい宗教に声かけられたら、絶対2人揃って付いて行く気がする……。
そんなシアの前に、【仮想体】が抱えていた鎧一式と錫杖とガシャンっと置く。
「……なんですの、コレは?」
どう説明したら良いだろうか……?
いや、そもそも説明無理じゃん? だって俺猫ですし。喋れないですし。
こう言う時はアレじゃん? 変に説明しようとアタフタして、話がこじれる奴じゃん? って事はよ? 無理に説明しようと足掻くより、何も言わずに押しつけてしまうのが正解ではなかろうか?
まあ、それで多少誤解される事は飲み込むとして……うん。
ジッとコチラの反応を待っているシアに、とりあえず意味もなく頷いておく。
「!! ……なるほど、そう言う事ですのね……?」
何か納得してくれたらしい。
……なら良いか。うん、やはり何も言わないので正解だ、うん、間違いない。
無言のままその場を立ち去る俺だった。




