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9-31 火を撒く者達

 剣の勇者が、アルバス境国で魔王ギガースと共に幽霊退治をするより遡る事一カ月と少し。

 時期で言えば、剣の勇者が魔王バグリースを討伐し、七色教会に捕らわれていた頃。

 東の大陸の北側に居を構える3人の魔王達は、内々に集まっていた。

 招集をかけたのは、以前の“魔王会議”の時と同じく針鼠のような刃の髪を持つ魔王、ヴァングリッツ=フラ・J・フィスタル。

 召集の場所に使われたのは、彼の居城たるインベジュア神殿の一室。

 魔王が集まるには小さな部屋だが、秘密裏に集まるのに大きな部屋を使う訳にもいかなかったので仕方なく、それを理解している残りの2人も文句は言わない。


「そぃで? なんでアタシ等を呼んだ訳さ?」


 机の上に足を投げ出して偉そうにそう言ったのは、見た目完全に幼女。

 しかし、その小さな口から覗く歯は血と肉を求めるように鋭く尖り、両の瞳は破壊衝動が燃え上がって濁り切っていた。

 彼女こそが魔王フィラルテ=I・ブラック・ゲインである。


「まぁさかぁとは思うが、剣の勇者にビビってぇ助けて下さいってんじゃぁねぇだろぅなぁ? ぁあ? おいぃ?」


 舐めるような……それでいて、どこか相手を見下して蔑むような視線をヴァングリッツに向けているのは、異常な程黒い肌に長い耳を持った魔王。

 ハーディ=ブラング・K。

 人間達からはエルフと呼ばれる耳長の魔族。


「そうだ」


 ヴァングリッツは臆せず答えた。


「ぁあん?」

「はぁ? 勇者にビビっちゃった訳さね? 魔王の1人のくせに」


 馬鹿にするような、それでいて何処か驚いたような2人の顔。

 だが、それもその筈。

 魔王は基本的に、1人残らずプライドの塊だ。にも拘らず、自身の弱みを見せるような発言を今、ヴァングリッツはしたのだ。


「お前達も既にバグリースが狩られた事は聞いているのではないか?」

「らしいさね? まだ次の魔王が生まれてないって事は、例の旭日の剣の“因果切り”でやられたって事っしょ?」

「それ以外にぃ、考えられねえぇってよぉ。なぁ、ぉい? だぁからぁ、オメェはビビッちまったぁってかぁ?」


 小馬鹿にするような半笑いで言われても、ヴァングリッツはどこ吹く風で話を続ける。

 このような反応をされるだろう事は、余所(よそ)の魔王を呼び出した時点で予想済みの想定済みだ。


「ビビったかビビってないかはともかく……お前達とて剣の勇者への対処を本格的に考えなければならない状態になっているのではないか?」

「……むぅ……」

「……チッ」


 2人が黙る。

 完全に図星だった。

 この展開もヴァングリッツの予想通りだ。でなければ、そもそも魔王会議以外での招集になんて応じる筈も無い。

 ここに集まった時点で、少なからず自身への危険を感じているからだとヴァングリッツは最初から看破している。

 と言うのも、先日剣の勇者に狩られたらしい魔王バグリースは、戦闘能力の序列が3人よりも上だ。

 他の狩られた魔王――――アドレアスやバジェットが死んでも、そこまで焦る事はなかった。

 この2人は、所詮戦闘能力最下位と下から2番目(ラストツー)だからだ。

 しかし、自分達より序列上位がやられたとなれば話は別。

 それはつまり1対1の状況に持ち込まれれば、剣の勇者には勝てない事を意味するからだ。


「非常に……非常に腹の立つ事だが、剣の勇者の戦闘力はここに居る私達3人の上だ。まずはその点を認めようではないか?」


 と言うより、そこを呑み込んで貰わなければ話が前に進まない。

 魔王のプライドにかけて、「勇者より下」などとは言いたくないのはヴァングリッツとて同じだが、それを押し殺してでもここは通さなければならない。


「……そうさね。信じられない事だけど、今代の剣の勇者は今までの勇者の強さの比じゃない。そこは間違いないさね」

「仕方ねぇ、認めてやらぁよぉ! だぁがぁ、それはバグリースを倒したのがぁ、剣の勇者単独だったらぁってぇ、話だろぅ?」

「そうだ。これはあくまで最悪の可能性として――――だ。だが、人間共の手にバグリースを倒すだけの戦力がある事は事実だ」


 フィラルテとハーディが同時に頷く。

 「剣の勇者が自分達にとっての脅威となる存在」その共通認識。

 これで本題に入る事ができる、とヴァングリッツは内心でほくそ笑む。


「そこで、だ。この際魔王としてのプライドをかなぐり捨ててでも、剣の勇者の排除を優先すべきだと私は判断する」

「んぅ? つまり、どう言う事さね?」


 ここからが本題。

 勿体ぶるように3秒程の間を空けてから話し始める。


「ここに、“魔王同盟”を提案させて貰う!」

「魔王……」「同盟……だとぅ?」

「そうだ。剣の勇者が私達の上だとしても、それは1対1での話。であるのならば、3人の力を持って叩き潰せば良いだけの話」


 虫を潰すかのように眼前に拳を握って見せる。

 ヴァングリッツは(したた)かな魔王だ。

 彼が他の魔王より勝っている部分があるとすれば、それは自身の強さやプライドへの執着が薄い事。そして、物事を常に冷めた目で見ている事だ。

 戦う時には慢心無く、自身への過大評価も相手への過小評価もせず、冷静に目の前の情報から勝てる要素を用意して勝つ。

 そういう“万全”の強さが彼の強みだ。


「とは言え、魔王が雁首揃えて勇者1人を嬲り殺し……など笑い話にもならんし、お前達のプライドも許さんだろう?」


 2人が少し迷うような素振りを見せてから頷く。

 

「そこで……だ! この同盟にもう1つの“意味”を用意しよう」

「意味?」

「つまりぃ? 剣の勇者をぶち殺す以外にぃ、もう1つぅ目的があるってかぁ?」

「そうだ。そして、それはお前達にとっても大きなメリットがある」


 メリットがあると聞かされ、自身に利のある話には敏感なハーディが、尖った耳をピクンッと反応させて興味を示す。

 だが、一方でフィラルテは「話を最後まで聞くまでは信用しない」と言った感じで、黙ったままヴァングリッツを、幼女らしからぬ鋭い目で睨んでいる。


「勿体ぶるんじゃぁねぇよ。さっさとぉ言えや」

「魔王同盟のもう1つの目的。それは――――人間共に奪われた、大陸南側の大地の奪還である!」


 広大で険しいウェンダルム山脈によって、東の大陸は北と南に分断されている。

 南側に存在する国は3つ。

 ギルシュテン王国。ツヴァルグ王国。エルギス帝国。

 それぞれ、魔王アドレアス、バジェット、バグリースが支配していた国だ。

 そして、その全てが勇者の活躍により人間の手に奪還されている。もっとも、“奪還”と言うのは人間達としての事であり、魔族からすれば支配していた国を奪われた事になるのだが。


「なるほど……ね。奪還のあかつきには、領土として3人で分け合おうって訳さね? それは確かに魅力的な話だわ」


 3人共自身が支配する国は持っているが、それで満足している訳ではない。むしろ、支配している期間が長い程、「もっと、もっと欲しい!」と言う支配欲が大きくなっている。

 領土が大きくなる程に抱える問題も大きくなる物だが、魔王達にとってはそんな事は些細な事だ。

 どんな問題も、「自身の力で捻じ伏せてみせる」と言う自負があってこその魔王なのだから。


「だけどよぉ? 南側にはぁ、当然今代の勇者共が居る訳だろぅ? 件の剣の奴もぉだぁ」

「だろうな」


 剣の勇者の周りに他の勇者が居れば同時に相手をせざるを得ない。

 元々飛び抜けた能力の剣の勇者1人だけでも対処に困ると言うのに、他の勇者が加われば、魔王3人がかりであろうとも危険がある。


「そこで、この同盟にもう1人魔王を引き入れようと考えている。まあ、実際に声をかけるのはお前達の返事を貰ってからだが……そいつは確実に同盟に入る、と確定してしまって構わない」


 勇者以外の人間の戦力なんてたかがしれている。

 魔王たる3人が気にしなければならないのは、あくまで勇者達だけだ。

 と言う事は――――


「構図としては、魔王4人対今代の勇者共って訳さね?」


 それが意味する事を理解し、3人が揃ってニィっと心底楽しそうに笑う。


「そうだな」

「つまりぃだぁヴァングリッツ? オメェはよぉ、もう1度起こそぅってんだろぅ?」


 更に深い笑いを浮かべながら、ヴァングリッツが机に手をついて立ち上がる。


「ああ、その通りだ」


 3人の魔王が無意識に放つ魔力が部屋の空気を重くする。

 だが、それすら心地良い。

 それ程に高揚していた。



「もう1度、人魔戦争を始めようじゃないか!!」


10章に続く



おまけ


名前:ブラウン

種族:猫(雑種)

身体能力値:17(+3180)

魔力:7(+4540)

収集アイテム数:224種

魔法数:33種

天術数:22種

特性数:6種

魔眼:4種

装備特性:【魔王 Lv.35】

     【魔族 Lv.940】

魔王スキル:【全は一、一は全】

マスタースキル:【収集者】

派生スキル:【ショットブースト】【隠形 Lv.5】【バードアイ】【制限解除】【仮想体】【毒無効】【アクセルブレス】【自己修復】【属性変化】【エレメントブースト】【妖精の耳】【空間機動】【ネコババ】【スナイパー】

ジョブ適正:魔王、暗殺者、忍者、弓兵、マルチウェポン(適正値順上位5つ)



名前:バグリース=ガパーシャ・ライン・H

種族:鳥人(凶鳥(まがどり)

身体能力値:2940

魔力:4191

魔法数:41種

特性数:3種

魔眼:-

装備特性:【魔王 Lv.30】

魔王スキル:【支配者】

マスタースキル:【凶兆】

派生スキル:【幻惑無効】【マジックブースター】【飛行】【武器適性:剣・槍・弓】【風耐性】【雷耐性】【エアドライブ】【声鳴】

ジョブ適正:弓兵、魔導師、剣士、ジェネラル、マルチウェポン(適正値順上位5つ)


 主人公が戦う3番目の魔王。

 序盤戦最後にして最大の壁。

 魔族の中で「鳥人族」と分類される種族。バグリースはその中でもとてもレアな“凶鳥(まがどり)”と言う種である。

 能力値が主人公より格段に高い上に、能力を封殺(メタして来るヤバい奴。

 魔力特化タイプだが、近接で戦えるスキルが揃っているので結構万能。

 【エアドライブ】は空中に居る時に全ての能力値アップ、攻撃の威力上昇。その為、【飛行】で自在に飛び回れば凄まじく強い。ただ、主人公との戦いは屋内であった為にこの必殺のコンボが使えなかった。

 マスタースキル【凶兆】は、敵味方問わず自分の周りにいる全てに弱体化を与え、一定確率で“恐怖”のバッドステータスをばら撒く凶悪なスキル。



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[一言] 推敲 >非情に……非情に腹の立つ事 非情に→非常に
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