9-30 勇者(偽)と魔王
赤鬼が、「常軌を逸した変人」なんて言葉を使う相手が居るとは……。
驚き……もあるが、それ以上にどんな野郎なのか興味が湧いた。
「(おっさんより強いの?)」
「いや、確実に我の方が強い」
……あれ?
“D”の魔王っつうから、赤鬼より上かと思ったけど、そう言う訳じゃねえんか?
「イベルの奴は、元々あまり戦闘向きの魔族ではないからな。先代の魔王が死んで次代に選ばれたのも、色々偶然が重なった結果……などと言われてるぐらいで。バグリース……アレを倒したのはお前だろう?」
「(え? あ、ああ、そうだけど……?)」
何故に唐突にその話を今持ち出した?
ここで「仲間の仇じゃぁああ!!」的な展開じゃないよね?
「イベルの強さは、アレに辛うじて勝てるくらいだ。我の見立てではな」
「(……マジか)」
バグなんたらも決して弱い魔王じゃなかった。
実際俺も1度は殺されてるし、魔王スキルが丁度良いタイミングで覚醒してくれなかったら確実に俺の方がやられていた。
でも、あれから色々あって強化された今の俺なら、多分問題無く勝てる相手だ。
そのバグなんとかより、辛うじて上って事は、俺でも勝てるレベルの魔王だって意味だ。
「だが、故に奴は自分以外に力を求めた」
「(武器とか、装備周りの話?)」
「いや。部下や兵隊の話だ。奴は、自身が最強に至れないのなら、自分の命令に絶対従順な最強の軍団を作れば良い……と考えたらしくてな? 昔から奇妙な事を繰り返していた」
「(たとえば?)」
「魔物の切り刻んで、強い部位を集めた混ざり物を作るとか、強い力を持った魔族同士を交配させて子供を作らせるとか。正直、話を聞いた時は頭がおかしいんじゃないかと思った物だ」
思った物だ……って、そりゃ間違いなく頭おかしいだろ……。
「まあ、それは始まりでな。果ては、人間や魔族の持つ“力の可能性”とやらを取り出す為に、部下の魔族や捕らえた人間の体を刻んだり、すり潰したり、血を抜いたり、粉にしたり、汁にしたり、それを他人に食べさせたり呑ませたり」
「(予想以上に頭おかしかったッ!?)」
そんなグロテスクな事をする奴、ヤバ過ぎるだろ……!?
強さ云々の前に、そんな頭のネジが10本くらい吹っ飛んでる奴と会いたくねえよ!?
ってか、そんな奴を“常軌を逸した変人”で片付けた赤鬼も中々にヤベェよ!?
「たしか、奴のその奇行の中で、死者を使った“死霊兵”とか言う物を作っていたと記憶している」
「(死霊兵……ねぇ。じゃあ、さっきの阿修羅もその繋がり?)」
「かもしれん、と言う程度の話だがな? だが、本当に奴が阿修羅を創り出したのだとすれば、これは放置できん事態だ……」
「(つっても、あれだけの物が生まれるのは相当な条件が整わなきゃ無理なんじゃん? 流石にさ?)」
「それについては全面的にお前の意見を支持する。だが、逆に言えば、条件さえ整えばあのクラスの手駒を創り出せると言う事でもある」
……まあ、それは確かに。
赤鬼の推測が正しいとすれば、バグなんたらレベルの魔王の下に、下位の魔王クラスがくっ付いてるって事だもんな? しかも、それが1匹だけとは限らないし……。
「(その戦力で、他の魔王の所に攻め込んで来る……とか?)」
「本当に今回の裏にいるのがイベルだとすれば、それは無いだろう。奴は他人の土地になんぞ興味を示さんし、そもそも『他国に関わっている暇があるなら、自軍を強化する』と言うタイプだからな」
「(じゃあ、一応安心って事でOK?)」
「うむ。この国とは隣接している訳でもないしな? 今回の件は、奴の実験か何かだったと考えて間違いないだろう」
そこで赤鬼が視線を猫に向けて来る。
どこか面白そうな物を見る目。
……何さ、その目は……?
「だが、お前は大変だな?」
「(どう言う意味だよ?)」
「もし本当にイベルがあれだけの兵隊を創る術を手にしているとすれば、それを討伐するお前はさぞ大変だろうな……と」
「(……なんで俺が倒す前提……)」
「今代の他の勇者の強さは知らんが、お前以上が居るとは思えんからな? イベルや取り巻きの兵隊を相手にするのは必然お前の仕事だろう?」
……まあ、実際戦う事になったら、そうなるでしょうね?
けど、それは、もっと先の話でしょう?
「(イベルたら言うのがどんな魔王なのかは知らないけど……そもそも俺、おっさんと戦って死ぬかも知れないし、そっから先の展開は考えらんねえよ)」
「ふむ……。ならば我との戦いでは命の取り合いは止めておけば良かろう」
「(は?)」
思わぬ赤鬼の発言に、思わずクソ間抜けな声を出してしまった。
「我は別にお前と殺し合いをしたい訳ではない。先程言った通り、お前と純粋な力と力の勝負をしたいだけだ。お前が『嫌だ』と言うのなら、命を奪う事を禁止した試合とすれば良い」
これは願っても無い申し入れじゃないかしら?
赤鬼には既に正体がバレているが、どう見たって口は固そうだし、本人も黙っててくれるって言うし。
試合の形で勝負しても、俺はアビス仕込みの格闘戦を体験できる。しかも、今までの魔王戦とは違って、命の心配をする必要が無い!!
あら、あらあら? これは色々願ったり叶ったりじゃない?
「(おっさんが良いなら、それでお願い出来ますかねえ?)」
「うむ、構わん」
思わずホッと息を吐いてしまう。
途端、体の緊張が解けていくのが自分でも分かった。
ああ……マジか? 自分で思ってた以上に、赤鬼との戦いを意識して体と心が硬くなっていたらしい。
いや、でも、そらそーでしょ? 赤鬼がどれだけ友好的な相手だろうが世界を支配する魔王の1人である事に変わりはないし、何より……あの冗談かと思う程の強さだし。
そんなのと戦うとなったら、不安と恐怖を感じて当たり前じゃろうがぃ!
まあ、でもこれで、差し当たっての問題は解決じゃない?
心の余裕が生まれたし、もう、ちょっとした観光気分でこの国を楽しんじゃっても良いくらいじゃない?
「どうした?」
「(いや、おっさん以外の魔王も、少しは話の分かる連中なら良いのに……と思って)」
「我が“話の分かる魔王”かどうかはさて置き、難しいだろう」
でっすよねぇ……。
分かってましたよ聞くまでもなく。
赤鬼が特殊中の特殊なだけで、基本魔王なんて人の話を聞きゃしないクサレおバカさんの集まりだし。
でも、1人だけでも話の分かる魔王が居てくれた事は大きな収穫だったのではなかろうか?
俺は別に「人魔共生の平和な世界を作ろう!」なんて大層な事を考えてる訳じゃないが、少なくともそう言う可能性が存在する事は赤鬼が証明してくれている。
……まあ、でも、俺は強くなる為に魔王と戦わないといけないから、話聞かない連中が多い方が都合が良いっちゃ良いんだがね?
「お前は勇者の筆頭として、我以外の魔王とは戦う以外にない、と言う訳だ」
「(……シンドイ……)」
あと、俺は勇者じゃない。
そんな事いちいち口に出して言わないけど……。
ドンヨリしている俺を見て、赤鬼が笑う(顔怖い)。
「強者と戦える機会に恵まれるとは羨ましいではないか?」
「(……じゃあ、おっさん代わって)」
「代わってやりたいのは山々だが……残念ながら、魔王間のルールで魔王同士は戦えんのでな?」
マジかよ。誰だそのクソルールを作った野郎は……!
「その代わり……と言う訳ではないが、飯の1つでも奢ってやろう」
「(マジで!?)」
「マジだ」
「(そう言う事なら、さっさと町帰ろうぜ!!)」
「お前は……何と言うか、分かり易い奴だな。それで剣の勇者として大丈夫なのか……?」
大丈夫だよ。
なんでって?
勇者じゃねえからだよ。
そんな感じで2人で――――1人と1匹で、世間話をしながら帰途につくのだった。
魔王と勇者(偽)が並んで歩く姿は、きっと事情を知らない人が見たら異常に見えると思う。
まあ、けど、周りからどんな風に見えているのかなんて関係なく、俺と赤鬼はそこそこ仲良しだし、きっとそれはこれからも続いて行くのだろう。
何故なら、俺自身がそれを望んで居て、恐らく赤鬼もそうだからだ。
だが……この1週間後、俺は、
――――この魔王と殺し合いをする事になる。




