9-29 岩男とあれやこれや
ここが、このロッ●マンこと岩男の寝床って事はですよ?
アレですか?
もしかして、クレームの為に現れた奴ですか? 「人ん家の庭で騒ぐんじゃねえボケッ!」的な流れの奴ですかな?
……いかんな。
元営業職ではあるが、クレーム対応は俺の仕事じゃなかったし……。
どうしよう……?
先手をうって土下座っとくか? 先手必勝土下座拳は最終にして最強奥義だって部長も言ってたしな……。まあ、実際に土下座すんのは猫じゃなくて【仮想体】だけども。
「(あのぉ、もしかして俺等……じゃない、私共が騒いでたから怒ってます?)」
下手に出て敬語になる俺。
いや、だって、もし怒ってるとしたら、そんな相手にいつも通りの対応するのはアレやん? 火に油を注ぐやん?
そして、もしこの問いに「うん」と言われたら、その時は人生初の……猫生初の土下座拳を使用する時だな。
だが、そんな俺の強かな(?)計算を知らず、赤鬼は不思議そうに訊いて来る。
「何故突然喋り方が気持ち悪くなったのだ?」
オメェ馬鹿!!
こう言う時は、悪く無くても1度は下手に出ておくのが社会人って物なんだよ!
あと、別に気持ち悪くねえわッ! 失礼な!!
「怒ってはいない。別段人や魔族が騒いでいても、我にとっては心地良い波音と大差無い」
いや、あるだろ。
波音と戦闘の音が同列って、お前の耳どうなってんねん!
思わずエセ関西弁でツッコミを入れてしまうくらいだった。
って言うか、そもそもの話として耳どこだよ……? 顔部分も岩じゃん……。
「(じゃあ、なんで出て来たの)」
相手がクレーマーでないと分かった途端にいつも通りに戻る俺。
「久方ぶりに良い戦いを見せて貰った故、礼の1つでもせねば……とな」
「(礼ねえ……)」「礼か……」
赤鬼と顔を見合わせる。
だって……ねえ? 唐突に現れて「礼を差し上げます」って……ねえ? アレじゃん? 怪しさ満点じゃん?
いや、まあ、前もこんな事あったけどもさ。
そう……アレは、雪の降りしきる冬の……ちゃうちゃう、どこの記憶の棚を開けてんだ俺は……。
海の上でアクアの時もこんな感じだった。
って事は……もしかして、礼とは例のブツではないでしょうか?
「(まあ、なんかくれるなら貰うけど?)」
遠慮なく貰う俺に対して、赤鬼は謙虚に「我は遠慮する」と返した。いや、謙虚なんじゃなくて、怪しいから辞退しただけか。
「では、猫よ。そなたにはコレを」
岩の右手を差し出して来る。
途端、テラを中心として地面に光が広がり、その光がテラの右手の上に集まって1つの形となる。
黄色い……光。
とすると――――。
次の展開を予想していると、その予想通りに収集箱が勝手に開いて、その中からアイテムが飛び出す。
灰色の、陶器のような材質の剣。
―――― 虹の器。
外に出て来るや否や、腹を空かせた獣のように、テラの右手の上で輝いていた黄色の光を吸い込み始める。
俺にとっては3度目の事だ。
俺の意思を無視して、勝手にアイテムが飛び出し、謎の光を食べる。
『素材アイテム:≪虹の器≫の中に、“鳴動の黄”の光が吸収されました』
『【虹の器 Lv.-】
カテゴリー:素材
サイズ:中
レアリティ:★
所持数:1/1
光:黒・青・黄
運命を切り開く鍵。
条件を満たす事で真なる力を発揮する。
“虹の光集いて、未来への道を指し示す”』
黄色の光を吸収し終えると、「出番は終わった」とでも言いたげに、さっさと収集箱の中へと引っ込んで行く。
はい3つ目の光ゲットー。
まあ、何の意味があるのか全然分かんないけどもね……。
「なんなのだ……今のは?」
「(俺にも分かんね)」
「お前は分からない事だらけだな」
それは否定しない。
何故って、実際に俺の周りは本当に「分からん事」だらけだからな? 諸々の謎のアイテムの事とか、魔神の事とか、八咫烏の事とか、名前だけ思い出せない事とか……ってか、根本的に俺が猫に転生した事が「分からん事」の筆頭だしな。
「そして、お前の方には――――」
「我は要らんと言った」
テラと赤鬼が、沈黙して見つめ合う。
いや、見つめ合うっつか、ガンを飛ばし合っている。
馬鹿でかい岩の塊と、馬鹿でかい赤鬼が睨み合うと……うーん……とってもシュール……そして怖い。
「お前の事は知っている。偶にここに訪れて、魔物共を散らしている者だろう?」
「うむ。人魔戦争以前よりこの土地に住んでいたと言うのなら、ちゃんと挨拶をするのが礼儀だな? このアルバス境国を支配する魔王、ギガース=レイド・Eである」
「この土地がどの国の所属なのか、その国の支配者が誰なのか……精霊である我にはどうでも良い事だ。が、魔王か……そうか、この色が魔王だったのか」
興味深そうにジロジロと無遠慮に赤鬼の事を観察する。
「魔王に興味があるのか?」
「いや、無い」
即答だった。
元営業としては、「嘘でも興味あるって言っとけよ……」とツッコミたいところだが……まあ、精霊相手に人間社会を円滑に回す為に処世術を解いてもなぁ……。
「だが、お前の放つ魔力の色には少し興味がある。お前、もしかして魔王ではなく…………まあ、良いか」
「(……良いのか)」
「良い」
お前が良くても、話を途中で止められるとコッチが気になるんだよ……!!
心の中で文句を言っていると、テラが言葉を続ける。
「では、礼の代わりに1つ教えておいてやろう。この土地に現れる魔物……お前達が霊体と呼ぶ存在は、自然的に発生している訳ではない」
「(は?)」「なに……?」
いや、自然発生じゃないって事は……!
「何者かの意思によって生み出されている。そして、その者は、恐らくお前達と同じ魔王だ」
マジか…………!?
いや、待て待て待て! それより、今この岩男、「お前“達”」つったぞ!? 赤鬼だけなら「お前」で良い。って事は、今の“達”には俺が含まれているって事だ。
気付かれた……!? 俺は自分が魔王である発言はしてない。
コイツ、もしかして、魔王を識別する事が出来るのか?
俺が色々考えている間に、赤鬼がテラの話に食い付く。そっちに食い付き過ぎて、“達”の件は気付かなかったようなのでセーフ。
「誰だ?」
「魔力の色で魔王と言う事は分かったが、アレが誰なのかは知らん。そして興味も無い」
言い終わると、岩の体がボロボロと崩れ始めた。
腕を形作っていた岩が、糸が切れたようにズンッと大きな音をたてて地面に落ちる。
「用事は済んだ故、戻って寝る事にしよう」
崩れて行く岩の体。
その頭が、最後に猫を真っ直ぐ見る。
そして、俺達に聞こえない小さな声で呟く。
「……王よ、貴方の御目覚めを御待ちしております……」
胴体だった一際大きな岩がビキッと割れ、頭岩と共に地面に落ち、崩れた岩は砂となって風に吹かれた
耳の奥が痛くなる程の静寂。
暫く赤鬼と並んで棒立ちをする事1分。ようやく口を開いた。
「なんだったのだ、アレは?」
「(俺に聞かれても……)」
顔を見合わせてから、改めて慰霊碑の周りの光景に目をやる。
「(それより、ここにゴーストを湧かせてる魔王がいるんだろ? 心当たりは?)」
「ある。決めつける訳ではないが、恐らくイベルの奴だ」
聞いた事ねえ名前の魔王だ……。
「(どんな奴?)」
少しだけ考えるような間が入り、言葉を選びながら赤鬼が話す。
「イベル=シャシャ・ブレイド・D。一言で表すなら……変人」
“D”って事は、赤鬼と最古の血の間の魔王……って事は、相応に強いって事だろう。
しかし……基本人の悪口言わない赤鬼の口から「変人」って言わせるって……どんだけ変なんだそいつは?
「もっと言うなら、“常軌を逸した”変人」
「(そこまで!?)」




