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4話「野獣の眼光」

毎日投稿に切り替えました。

明日10/6㈫に次回5話を投稿しますので、楽しみにお待ちください!

「メッタ刺しにされた程度で、学校を休んでは駄目よ」


 保健室のドアを開けて入室し、慈愛(じあい)に満ちた瞳で無慈悲(むじひ)なセリフを吐く女医『マリー・ルベリエ』。  


 癒(いや)し系のほんわかしたお姉さんといった外観に似合わず、悪役令嬢(エリス)と全く同じセリフを重体患者の俺に向かって吐くこの学校の保健室の主だ。



(―――しかし、最近はメッタ刺しにされても授業に出るのが乙女の嗜(たしな)みというモノなのだろうか?

 しかも、そんなトチ狂ったセリフを慈愛に満ちた瞳で言うとは、オカルトめいたムーブだ)



 この学校の乙女共のイカれた流行やトチ狂った感性を嘆(なげ)きたくなるが、悪役令嬢(エリス)との結婚(ゴールイン)以外関心が無いので、校規の乱れなど俺の知った事では無い。



「さっきの授業で生徒が何人も死んじゃったけど、これだけ大量出血してピンピンしてる生徒は初めてね。面白そうだし、先生のモルモットになってみない?」


「先生、コレは私の研究材料ですよ?優先権は私にあります」


「保健室での検体(けんたい)は、先生に優先権があるのよ?こんなゴキ〇リみたいな生徒、そうそう手に入らないし」


「私のゴ〇ブリに手を出すなら、侯爵家の政治力を使ってでも叩(たた)き潰(つぶ)しますが?」



 麗(うるわ)しき悪役令嬢(エリス)が俺の取り合いをするとは夢心地だが、出血多量で心地が最悪なのは何とかしてもらいたい。



「マリー先生……、どうでもいいので俺の怪我を早く治して貰えませんか?正直、もう死にそうなんですが……」



 害虫((〇キブリ)の主導権争いという不毛なやり取りを止めて、俺の治療に専念するようお願いする。



「ああ、そういえば忘れてたわね。大丈夫、先生にドーンと任せなさい!」



 重体患者の俺を見捨てて害虫(ゴキブ〇)の取り合いをする女医が、《ヤブ医者》を通り越して《医者を名乗る『ピー(放送禁止用語)』》にしか見えない。



(本当に大丈夫か、こいつ?)



 自信満々なヤブ医者を胡乱(うろん)な目で眺めていると、ヤブは俺にベッドに寝るよう指示した。



「これでも何千人も患者を治療したし、看取ってきたから、安心してね♡」



 おっとりした口調で一抹の不安を感じるセリフを吐きながら治療を始めると思ったら、ヤブは俺に世間話を始めやがった。 



「――――でも初授業が変態教官(ベルガー)なんて、あんた達もとんだ災難だったわね」


「災難程度で済まされるレベルを超えてましたけどね」


「アレが紹介された当初は、神をも屠(ほふ)る伝説の勇者が安月給で雇(やと)えるって言われて喜んで招き入れたんだけどね」


「アレを安月給って時点で、この学校もアレだと思いますが」


「そしたら授業の度に生徒をことごとく再起不能にする不審者が来て騙(だま)されたって校長がしょっちゅう癇癪(かんしゃく)を起こしているのよ」


「騙(だま)す騙(だま)さない以前に採用面接とかしなかったんですか?」


「まあ、首切り(リストラ)したくても下手に怒らせると雇用主のクビが物理的に飛ばされかねないしねー」


「雇用主を物理的に首切り(リストラ)ですか……」


「今じゃ教師間でも持て余されて職員室の空気が重いのよ」



 ―――全身の傷口から血が出て生死の境にいる俺の前で延々と世間話を語るヤブ医者。


 しかし、職員室でぼっちを拗(こじ)らせた年齢不詳のオヤジに屠(ほふ)られる邪神こそいいツラの皮だろう。


 だが、俺もそのオヤジにメッタ刺しにされているので邪神の心配をしていられるようなコンディションでは無いのだ。



「…教師間の軋轢(あつれき)なんぞ生徒の俺は知ったことじゃないので、さっさと治療を始めてくれませんかね?」 


「―――あれ?治療終了したはずなんだけど……? 他に、痛むところがあるの?」



 教師間の知りたくもない闇の世間話をしてただけかと思ったら、鮮やかな手並みで既に治療は完了していたようだ。



「マジかよ…、あんなロクでもない茶飲み話してる合間に完治させたのか……」



痛みの無くなった身体を起こして全身を確認し、傷口も打撲も完全に治療された状態を見て感嘆(きょうたん)する俺。



「すげぇ、メッタ刺しにされて重傷だったのが、どこも傷まな……あ?」



 全身の傷口を確認しようと鏡で確認したら、鏡にはマダラ禿(は)げの不審者(ふしんしゃ)が不審(ふしん)な笑みを浮かべている姿が映し出されていた。



「……ちょっと待て。全身完治したはずじゃなかったのか?何で髪の毛だけ重傷状態なんだよ!?」


「それが、おかしいのよねー? 通常なら全て蘇生されるから髪の毛くらい元通りになるなんて当たり前なのに、頭髪だけはそのまんま」



 可愛く首を捻(ひね)って、俺のマダラ禿げを意味ありげに見るヤブ医者。



 「それって太古の悪霊の祟(たた)りとか、邪神級の呪いとかの類じゃないの?  神様の祝福を拒絶されるって相当タチが悪いわよ、そのハゲって」



 ――――冗談じゃない。


 肝心要の髪の毛がマダラ禿げでは悪役令嬢(エリス)に不審者扱いされて、予定していた嬉し恥ずかしのベッドインが不可能になる。


 呪いだか祟りだか知らないが、厄介この上ない話だ。



「ヤブ……先生、ハゲが呪いや祟りの類って言ってましたが、これを治す方法って何かあるんですか?」


「治す方法も何も、今さっき祈祷(きとう)魔法(僧侶系の使う神聖魔法)で毛根だけが神の祝福を拒絶したんだから、手も足も毛も出ないわよ」


「神の祝福以外で、特効薬的な物とか願望を叶える宝具みたいなのは?」



 ワラどころか産毛(うぶげ)にもすがる思いで怪しげなアイテムに頼る俺。



 「育毛用の宝具なんて聞いた事ないわね? そもそも呪いとか祟りよりも、懺悔室(ざんげしつ)でその妄想まみれのキモさを清めた方がいい気がするけど?」


「別に清めなくても、今のありのままの貴方(レパード)で良いわよ。 むしろ、そのマダラ禿げのままの天然素材の方がミイラっぽくて研究材料としてはとっても素敵に見えるし」



 懺悔室送りにしようとするヤブ医者に対して、天然素材の俺が素敵とウットリしながら呟く悪役令嬢(エリス)に吸い寄せられる俺。


 だが悪役令嬢(エリス)の目は、どう見ても獲物を狩る【野獣の眼光】である。


 そんな悪役研究者の如き眼光がキュート過ぎて改めて惚れ直すが、子作りを出来るような雰囲気の眼光でも無い。



(やはり当初の予定通り、フサフサ髪の方が結婚できる雰囲気の眼光になるだろう)



 そう判断し、養毛剤的宝具・霊薬の情報をどう聞き出そうかと作戦を瞬時に練る。



「強力な呪いや祟りに効く除霊的なアイテムは無いんですか?或いはパワースポット的な場所とか?」


「そこまで強力な呪いの類になると浄化は無理ね。まぁ、そういう強力な呪いをキャンセルして蘇生させる霊薬ならあるけど」


「つまり特効薬的なハゲ薬がある?」


「ラスト・エリクサーって聞いた事あるでしょ?細切れになった肉片からでも死者を蘇生させる霊薬よ。あれなら呪いや祟りすら無効化するわ」



 ラスト・エリクサー。


 闇市場で天文的な値段で売買される大貴族や大資産家にとって、垂涎の不老不死薬と言われる伝説の霊薬だ。



「ハゲを治す為に激レアアイテムで天文学的な借金か……、よし手に入れよう」



 数瞬、迷うが莫大な借金程度で悪役令嬢(エリス)と結婚出来るなら大したリスクでもあるまい。


 そう決断すると後は行動あるのみだ。



「先ずはラストエリクサーの在り処を教えてくれ。現物が確認でき次第強奪。追撃されたら神殺しで所有者もろともブチのめしてフサフサの頭髪に……」


「そんな強盗まがいの事しなくても、私の家にあったと思うけど?」



 養毛の為に武装強盗団もやむなしと決意をした俺に対して、悪役令嬢はサラッと解決方法を提示してきた。



(さすがは俺の女(になる予定の女)だ。

 実家に行って子作りをして、その上で義父と義母に「娘さんとハゲ薬を僕に下さい!」と言えば、万事解決だ)



 高速思考で0.003秒で解決法を導き出し、【野獣の眼光】で獲物(エリス)を捉える俺。


 そんな俺を胡乱(うろん)な目で見ながら悪役令嬢(エリス)は俺に条件を突きつけた。



「何を考えてるのか判らないけど、無論ただであげる道理は無いわ。改めて私の研究材料(解剖前提)になりなさい」


「良いだろう。何の研究だか判らんが、俺も君に実験(子作り)をしたい」



 勝ったと言わんばかりの満面の笑みを浮かべる悪役令嬢(エリス)に対して、俺も勝ったと言わんばかりの笑みを浮かべ返す。


 お互い悪代官と越後屋(えちごや)のような黒い笑みを浮かべ合っていると、ヤブ医者が声を掛けて来た。



「話は終わった?じゃあ先生からも報告するね。さっき、君を治した【肉体蘇生魔法】の使用料金の契約書よ。受け取りなさい」



 ヤブ医者はおもむろに『契約書』と書かれた紙を目の前に突き出した。 


 紙には要約すると『契約書 肉体蘇生魔法 使用料金貨200枚 期間:卒業まで』と書かれていた。



「ナニコレ……?」


「死に掛けの君を即座に治癒したんだぞ?そんな高等治療がタダで受けれる訳ないでしょ」



 ―――ちょっと待て、金貨200枚って大貴族の豪邸が建てられる値段じゃねーかよ。


 一般人の生涯平均収入が金貨10枚と言われる世の中で、ただの学生が払える金額を逸脱(いつだつ)している。



「未成年に対して暴利を貪(むさぼ)るとはいい度胸じゃねぇか!

 その首、刎(は)ね飛ばして文字通り神の御許(みもと)に送ってやるぜ!!」


「その神様ともう契約済みだから契約違反すると即、あの世逝きだけど大丈夫?」



 マリー女医の素っ首を跳ね飛ばして契約自体を無効にしようと瞬速で抜刀したが、敵も上手(うわて)でいつの間にやら契約履行済みにしていたらしい。



 「いつの間に……!」



 と、俺は歯ぎしりするとこのヤブ医者は にぱーっと笑いながら、



「だってあなた、大量出血してたじゃん。契約も出血大サービスさせてもらったわ」



 と、俺の垂れ流していた大量の血を使って勝手に契約を済ませていた事を自白した。


 ヤブ医者(マリー)の説明では大量の血で神と契約して治療した為、契約不履行になると治癒した前の状態に逆戻りして、また全身から血を噴き出して今度こそお陀仏(だぶつ)になるという話だった。


 変態教官(ベルガー)といいヤブ医者(マリー)といい、血も涙もない教官しか居ねーのか、この学校は? 



「金貨200枚を卒業までに支払えって? そんな法外な金、どっから持って来いって言うんだバーロー!」



 俺がボヤキながらそう言うと、ヤブ医者は我が意を得たりとまたにぱーっと笑ってこう答えた。



「馬鹿ねー、それが出来るのがこの学校でしょ?」



 おっとりとした笑顔の中、【野獣の眼光】を光らせながらヤブは俺に意味ありげなセリフを投げかけた。 

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