2話『決着 ~ハゲと妄想の果てに~』
「この禁断の技を使う以上、五体満足で死ねると思うなよ?」
俺こと[レパード・バクスター]には、忌まわしい禁断の技がある。
強力無比な力を得る代わりにダメージも大きいハイリスク・ハイリターン技だが……、
――――――寿命を縮める?……どうでもいい
――――――心が壊れる?………知ったことか
――――――だが…………………ハゲだけは………絶対お断りだ!!!!!
ハッキリ言えばこの技を使うと《頭が禿げる》のだ。
何故か判らないが《毛根》に過度の負担が掛かり、全力全開で行くとツルッパゲになるという恐ろしい反作用がある。
だが、愛しい悪役令嬢を守る為なら落ち武者ヘアーという生き恥をさらすなど、リスクにすらならない。
愛と勇気の為に、俺はこの恐るべきハイリスクを許容する。
「この技のハイリターンは、腕力・体力・スピードが通常の何と150倍!
つまり戦闘力が非常識に跳ね上がる!
更にイケメン度も150倍になって、女にモテモテになる特別ボーナス付き!!
ハゲるだけで、どんな変身ヒーローも裸足で逃げ出すフルスペックイケメンヒーローの爆誕だ!!!」
強烈なプレッシャー下で、バナナの叩き売りのように禁断の力をヤケクソ気味に説明する俺。
あまり長時間この技を使っていると、俺の頭髪だけでなく陰毛までハゲてしまう危険性があるからだ。
つまり全身の毛髪が全てハゲた時が、この技のタイムリミットとなる。
全ての毛を使い切った後に悪役令嬢とベッドインする時が来て、パイパンを指摘された日には、もう俺は一生立ち直れないだろう。
そして、ヤケクソに叫ぶ俺を可哀想な子でも見るように憐みの目で見る変態教官。
その憐憫の視線に耐えかねて、更にヤケクソ気味に決めゼリフを吐く俺。
「さあ、【変態教官】め覚悟しろよ?
貴様の脳みそを『ピー』して腹を『ピー』してから、ハラワタを『ピー・ピー・ピー』してやるぜ!」
放送禁止用語の『ピー』音だらけで、決めゼリフとしては余り出来の良い部類ではない。
だがイケメン度が150倍になっているのでこんなトチ狂ったセリフでもクラスメイトの女子生徒達は、
「やだ、カッコいい……」
「まぁ、素敵な人……」
と、ウットリとした熱い視線を俺に投げかける。
これが俗に言う【主人公補正】というヤツだ。
だが正直、|有象無象の路傍の石《悪役令嬢以外の女子生徒全員》の色目などハナから眼中にない。
肝心要の悪役令嬢のウットリ視線を期待してたら―――、
「グフフッ、途方もなく美味そうだな、お前……(ジュルリ」
―――と、イケメン度150倍の俺を見てネットリとした視線をネバつかせる年齢不詳の変態のヨダレ音に期待を裏切られた。
(……この変態、快楽殺人癖だけじゃなくて〝そっち〟の趣味もあるのかよ)
変態教官の多彩過ぎるネットリ視線に怖気が走る。
そのネットリした〝伝説の勇者〟を相手に禁断のチート技を使う事を俺は決意する。
―――――だが、今迄この強力無比なチート技を実戦で使う事は無かった。
過去に使用したのは、1回のみ。
2年前、悪役令嬢に告白する為にイケメン度をMAXの150倍まで上げて、
「放課後、お茶でもしようぜ」
と、フランクに語りかけたのが最初で最後だ。
その時、人外のイケメンとなった俺に対して、悪役令嬢からの返答は素っ気無いものだった。
「見た目の良さだけが取り得の男に、興味は無いわ」
と、あっさりとフラれてしまったワケだ。
そんな訳で忌まわしくも、ほろ苦い思い出を持つ禁断の技なのだ。
そんなほろ苦い思い出を振り切るように、規格外の力を解放する。
「貴様の首を餞別代わりに、超絶レアな景品とやらを頂くぜ!」
短期決戦でケリを付けるべく、変態教官に一気に加速を掛けて突撃した。
「うぉおおおおおおりゃあああああああああああああ!」
俺は雄叫びを上げながら、通常の150倍に及ぶスピードとパワーのパンチで変態の顔面をぶん殴る。
ゴオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
人間が出したとは思えないようなド派手な轟音を立てて顔面を打ち抜かれた変態教官は仰け反る。
無論、一発で終わらせるつもりは無い。
人外の力の篭った何百発にも及ぶ蹴りと拳殴の連打で変態教官の全身を滅多打ちにする。
最強たる悪役令嬢の巨大魔法の連撃ですら止められなかった変態教官を畳みかけるようにブチのめしていく俺。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!あのハゲ、やるじゃねぇか!!」
「きゃあああああ、あのハゲのイケメンかっこいい!抱いて!!」
「やば!すごい!!私達、生きて帰れるかも!!!」
先程まで変態教官のデタラメな強さに生きて帰る事をあきらめていた、死にかけのクラスメイト達。
それが、俺の桁外れの強さとボコボコにされていく変態の姿を見て「生きて帰れる」と皆が希望に満ちた歓声とエールを上げる。
だが皆の歓声とエールに背中を押されながらも、俺の毛髪のタイムリミットは確実に迫っていた。
ここがタイムオーバーだと、俺は最後のトドメに移った。
「さあ、こいつでフィナーレだ!」
愛する悪役令嬢を守る為、全ての力を込めたアッパーカットで決めようとする俺。
しかし、俺の快進撃はここまでだった。
文字通り山をも砕く俺の渾身の一撃を、この変態教官は掌で難なく受け止めたのだ。
そして、爛爛とした瞳を近づけて俺にこう言い放った。
「胸が高鳴るぜ!」
変質者の興奮した顔に怖気が走って間合いから離れようとするが次の瞬間、砲弾でも喰らったかのような衝撃と共に、俺の体は吹き飛ばされていた。
(………一体、………何が起こった???)
校庭裏まで吹き飛ばされて視界がボヤける中、自分の身に何が起こったのか判らない俺。
体力と防御力も150倍まで上げているはずだった。
なのに今の一撃のダメージが尋常では無く、根こそぎ体力が持っていかれたかのように体がまともに動かない。
「なかなか面白い余興だったぜ、兄ちゃん。 どんな仕組みか知らんが、常人の数百倍まで戦闘力を増やす技の様だな。 だが、まるで足りん」
目を爛爛と輝かせながら、ゆっくりと俺に近づいて来る変態教官。
「俺の経歴は聞いてなかったか? たかが凡人の数百倍程度の力で魔王や闘神も輪切りにする俺を、倒せるとでも思ったか?」
どんなバケモノだよ、このオッサン。
しかも、笑顔もバケモノ級にキモいし。
「それじゃ授業再開だ。大丈夫、死なない程度にソフトに掻っ捌いてやる」
満面の笑顔で、俺の全身をナイフでさくさくと突き刺していく変態教官。
その姿を見たクラスメイト達は再度、絶望の底に叩き込まれたように恐慌状態に陥っていく。
―――そして、そんな混沌の中、悪役令嬢だけがキラキラした瞳でお気に入りの実験材料でも見付けたかのように俺を観察していた。
「やっぱり……。 物理法則も魔法理論も無視して結果だけを顕在化させた……。 つまり『世界のルールそのもの』を一瞬、消した……? それとも書き換えたって事………??? こんな〖得体の知れない研究素材〗が目の前にあったなんて……」
奇妙な呟きをしていたが元々彼女は博識を通り越して、天才と刃物は紙一重みたいな狂人めいたセリフを好む女の子なのだ。
(また、いつもの戯言だろう)
薄れゆく意識の中、怪しげな悪役令嬢の危険な嗜好に俺は改めて惚れ直す。
そして今度は幻聴では無く、俺の耳元でハッキリと彼女の呟きが聞こえた。
「―――観測不能な世界の〝特異点〟なんてシロモノ、こんなの初めて」
「―――こんな不可解な存在、何年も放置してた私がバカみたい」
「―――どんな手段を使ってでも、解剖してでも全部理解したい」
「―――だから……、壊してもいいよね? ―――ちゃんと元に戻る保証は無いけど」
惚れた女のこそばゆい甘い声が俺の耳元で炸裂するのを感じ、俺の脳内妄想も炸裂する。
(これが世に言う伝説のピロートークというやつか……)
女性経験のない俺には、ピロートークなるものが如何なるモノなのか知る由も無い。
(だが――――――、悪役令嬢の甘い囁き声が耳元で炸裂している以上
きっと今、ベッド上で〝花びら大回転的な性的技術特異点〟が起きているはず)
変態教官に全身メッタ刺しにされている中、俺の妄想はとめどなく肥大化していく。
(「壊してもいい」という許可が出たからには、伝説の性技〝四十八手〟を超える〝四万八千手〟のオリジナルコンボを……!)
だが妄想が肥大化すればするほど、俺の体内の血流は活性化してビュウビュウと全身の傷口から血が噴き出してく。
(あ……、これヤバい……、死ぬかも……)
命の危険を感じながら、終業のチャイムと共に俺の意識は唐突に途切れた――――――――――――。
毎週、日曜日の20:50頃に投稿する予定です。
続きをお楽しみに!




