1話『禁断の神殺しの技 その代償はハゲ』
愛する女にハゲをさらすが、それでも俺はその力を使う。
理由はシンプルだ。
目の前で、俺の幼馴染―――【悪役令嬢】―――が殺されそうだからだ。
しかもその相手は、変態の教官だ。
勇者学校、初授業中―――――――――。
「誰か……助け……」
「痛い…、血が止まんない……」
片足を失って地面を這う奴も居れば、内臓をぶちまけてる奴も居る。
首が無い奴もいる。
校庭に無数の男女が倒れている大惨事だ。
入学早々の初授業で、なかなかの地獄の風景だ。
そしてその中心で――
「ガキの新鮮なハラワタには心が躍るぜ……。さあ次だ、次!続きを始めるぞ!」
校庭に無数の男女が倒れている中、内臓をまき散らした生徒を横目に実に生き生きとした表情で笑う教官。
この授業の担当武技教官〝ヴィンセント・ベルガー〟だ。
ベルガーは血まみれのナイフを指先で機用に回し、俺達を眺めながら舌なめずりをした。
「誰だよ、こんなバケモノ袋叩きしようなんて言ったの?」
「生徒相手に舌なめずりしてる時点で、こいつと関わりたくないんだが」
「そもそも初授業で死者多数とか、イカれ過ぎだろこの学校……」
クラスメイト達はこんなアレな学校に入学したことを心底、後悔していた。
この教官を名乗る年齢不詳の怪しいオッサンは多くの勇者達から
《人類最強なアレ》《邪神も大天使も人間も問わずに輪切りにする通り魔的聖人》 等々、
凄いんだかアレなのか判らない多数の二つ名を持つ伝説の存在である。
「物理攻撃は全て避けられる、どんな魔法も無効化されるんじゃ、どうしようもないじゃん……」
「豊富な教師陣に【人間国宝】が居るって言うから期待してたら、ただの快楽殺人者じゃねーかよ、ふざけんな!」
「そりゃ、〝殺しの技術が国宝級〟ってだけだからな。ウワサの殺戮技巧で俺達も輪切りにされるんだろうよ……」
クラスメイト達はあまりの非現実的な実力差で、もはやまともな思考をあきらめたのだろう。
授業の体を成していない状況に諦めの混じった愚痴を言うしかなかった。
そんな一方的な授業を傍目に見ながら、俺はこの学校の在り様に不満を漏らした。
「こんなトチ狂った奴が教官とは、この学校も相当な人材不足だな」
「そう? アレな教官なのは間違いないけど、最高級の人材よ」
隣でそう言ったのは――
エリス・サイモン。
俺の幼馴染であり、【悪役令嬢】と呼ばれる《最強》の称号を持つ魔法使い。
幼年学校では無敵無双を誇り、生徒どころか教師すら手玉に取った武勇伝を誇る侯爵令嬢だ。
そして、あんな化け物を見ながら涼しい顔で事態を観察している美少女、と言うより途轍もない絶世の美女。
(――――さすがは俺の女(になる予定の女)だ。
アレな教官を相手に眉一つ動かさない胆力。
あの豪胆な美貌を羞恥で赤らめさせながらチューをして子作りする未来が、俺には見える)
臓物臭のする校庭で妄想を花開かせる俺。
そもそもこんなイカれた教官の息の根を止めるよりも愛しの悪役令嬢のハートを射止める方が俺の最重要課題なのだ。
「お前ら、さっきの威勢のよさはどうした?
先生を倒せたら莫大な褒美をやるって言ったろ?
王様すら手に入れらない超絶レア景品だぞ?
入学早々、セレブになりたかったんじゃねぇのか?」
変態教官は大声で残った生徒たちを挑発する。
その超絶レア景品に乗せられた生徒が、欲の皮を突っ張らせて【人間国宝】に突っ込んだ結果がこの有り様だ。
(何人再起不能になろうが悪役令嬢さえ残れば、俺の麗しい学園生活に支障は無い。
……しばらく様子見といくか)
そう俺は判断して、様子見を決め込もうと少し後ろに下がった瞬間、【人間国宝】は突然動いた。
「―――速い!!そっちに行ったぞ、取り囲んで……ギャッ!」
「目じゃ追い切れねぇ!誰か動きを止め…………グェッ!」
「これじゃ死んじゃう!助け………!(ドサッ」
国宝級の殺戮技巧はダテではなく、速過ぎてまともに目で追いきれないままクラスメイト達は秒殺でなぎ倒されていった。
―――気付いたら立っているのは、俺と悪役令嬢の二人だけだった。
「単なるトチ狂ったオッサンかと思ったらラスボス級の化け物じゃねーかよ、この変態教官」
正直、絶体絶命のピンチと言えなくも無いが俺は《隠された力》を温存している。
そして、悪役令嬢という強力無比な鬼札もある。
むしろクラス全員が壊滅して二人っきりになれたので、アレな教官なんぞ
放置して悪役令嬢に愛の告白と洒落込みたい所だ。
告白のシミュレーションを脳内でしている合間に、気付けば変態教官と悪役令嬢が圧倒的な火力と驚異的なスピードでド派手な戦闘を始めていた。
―――――――――爆発、閃光、衝撃波。
核融合爆発や波動砲といった巨大魔法をぶっ放す悪役令嬢に対して平然と突っ込んでくる変態教官。
巨大魔法の連撃がまるで役に立たないことを悟った悪役令嬢は瞬時に戦術を切り替える。
「魔法は全て無効化するけど物理攻撃系は全て避けてるようね。
なら、この呪文はどうかしら?」
素早く呪文を唱えると同時に上空から途方もない巨大な隕石が現れた。
「変態教官を倒すために校庭どころか大陸丸ごと吹き飛ばすつもりか……。
相変わらずキュートな顔をしてやることが狂気の沙汰だな」
どう見ても世界を崩壊させるレベルの巨大隕石を瞬時に召喚する
悪役令嬢の異常な魔力と技能、そして美貌に惚れ惚れする俺。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!
「フッ、こんなデカいだけの石ころなんぞ、片腕だけで十分だ」
巨大隕石が差し迫る中、変態教官は片腕で難なく受け止める。
「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
バキバキバキバキバキ!!!! ドド――――――――ン!!!!!
大音量と破滅的な衝撃波で崩壊する巨大隕石を見ながら、あまりの非現実的な光景に誰もが口をあんぐりと開けて絶句する。
「若い割に、ケタ外れの強さだな。見所のあるお嬢ちゃんだ。
先生、おっ勃ちそうだぜ」
「先生……、あまり人を舐めていると死にますよ?」
「小娘が大口を叩く…。だが、そういう強くて生意気な女は俺の好みだぜ!」
獰猛、というより変態的な笑みを浮かべて襲い掛かる変態教官。
魔法詠唱が間に合わないと察知した悪役令嬢は使い魔であるサーヴァント《剣魔》の使役に集中する。
「《剣魔》! アレを切り刻みなさい!!」
近接戦闘に特化された6本腕を持つ異形の使い魔は、凄まじい剣 捌きで変態教官に秒速30連打の剣戟を叩き込む。
ズバババババババババババッ!!!!!
「面白ぇ! だがその程度の剣技じゃ俺は倒せんぞ!」
人間離れした《剣魔》の斬撃をあっさり搔い潜り、一気に間合いを縮めると重く鋭い蹴りを放つ変態教官。
悪役令嬢は咄嗟に杖で防御してその蹴りを躱すが、魔法防御盾ごと杖が破壊される。
高次元の攻防でピンチに陥る悪役令嬢を見て、俺は完全にブチ切れた。
「俺の女にケリを入れるとはいい度胸だ!その首、叩き斬って校門にさらしてやらぁ!」
実際には「俺の女」どころか眼中にもされていない間柄だが、怒りに打ち震える俺のハートはそんな現実に屈したりはしない。
選択肢は二つ―――――――――。
①忌まわしい禁断の力を解放して愛する悪役令嬢を守る。
②惚れた女の前で生き恥をさらす事を拒み、逃げ惑う。
――――――答えなど始めから決まっている。
「生き恥上等!」
惚れた女を守るために忌まわしき禁断の技を解放する決断を瞬時に下した。
「解放!」
その言葉だけで俺の肉体と闘気に圧倒的な「力」が宿っていくのを感じる。
肉体そのものが別のモノに変質していく感覚。
そして闘気が膨張してこの校庭を覆い尽くすほどの濃いオーラ。
同時に毛髪がパラパラと舞い落ち、落ち武者ヘアーとなっていく感覚。
悪役令嬢はそんな俺を見ながら、口を押えて絶句する。
「え………?何………?」
―――数秒の沈黙。
「ハゲ……?」
禁断の力で変質する俺を見て驚愕してるかと思ったら、単に禿げ散らかしていく俺に奇異な目を向けているだけだった。
「何、この力……?
毛根は死滅してるのに、生体出力が際限なく上がってる…?」
―――実際は、もっと深刻な状態で〝あり得ない事態〟に悪役令嬢が絶句したいうのが実態なのだが―――俺には落ち武者ヘアーの毛髪を訝しむ幼馴染にしか見えない。
だが今、彼女にどんな目で見られていようが数分後には怪しい落ち武者が絶世の白馬に乗った王子様に早変わりするはずだ。
不審者を見る目がウットリとした瞳に変わり、ハゲの俺にプロポーズする事となるだろう。
何を言っているのか判らないと思うが、これこそが禁断の技の【約束された権能】なのだ。
「さあ、神すら殺すこの禁断の技を使う以上―――――――」
俺は変態教官を睨む。
「五体満足で死ねると思うなよ?」
第二話も同時投稿しています。
よければ読んでいただければと思います。




