第95話:純白のドレスと、輝く花道
前半ロクサーナ視点、後半ノクス視点です。
「ロクサーナ様、とってもお綺麗です……!」
姿見の前に立つ私を見て、衣装部屋に集まっていた針子や仕立屋たちが感無量といった風にため息を漏らした。
鏡に映っているのは、極上のシルクと純白のレース、そして無数の小粒のダイヤモンドが散りばめられた絢爛豪華なドレスを纏った私。
急遽早まった婚姻の儀のために、帝国最高の職人たちが総出で連日徹夜をして仕立て上げてくれた、世界にひとつだけのウェディングドレスだ。
「少し裾が長いかしら……?」
「いや、完璧だ」
背後から低い声が届き、鏡越しにノクス様と視線が合う。
お仕事の合間をぬってドレスの試着に駆けつけてくれたノクス様は、そのまま私の腰へ優しく手を回し、うっとりと私を抱き寄せた。
「美しすぎて、目が眩みそうだ。……これを他の貴族たちの前に晒さなければならないと思うと、今からでも式を非公開にしたいくらいだな」
「ふふ、ノクス様ったら。私の方こそ、素敵なノクス様を他の人に見せたくありませんわ」
ノクス様の登場に、周囲が緊張と微笑ましさの混ざった顔で一斉に頭を下げて退出していく。
部屋に二人きりになると、ノクス様は私の髪を撫でながら私を愛おしそうに見つめた。
「ドレスも着々と仕上がっている。……本当に、私の妻になってくれるのだな」
「何度も申し上げましたでしょう?ノクス様の妻になるのが待ち遠しいですわ!」
私が嬉しそうに笑うと、ノクス様も嬉しそうに微笑み、挙式を待ちきれないかのように、深々と熱い口づけを交わすのだった。
ーーー
ロキシーとの甘い試着の時間を終え、執務室へ戻った私は表情を切り替えた。
「ーー報告を」
控えていた側近が静かに頭を下げ、一枚の書簡を差し出す。
「は。かつて、聖女こそが我が国の皇妃に相応しい、などと愚かな言動を繰り返し、ロクサーナ様を軽視していた貴族令息、令嬢ら、ならびに宮廷使用人たちの処遇について報告いたします」
事件の前、聖女の表面的な無邪気さと神聖さに惑わされ、ロクサーナに無礼を働き蔑んでいた者たち。
彼らに対する処分は、既に淡々と実行されている。
「聖女を持ち上げていた若手貴族らは、実家より廃嫡、修道院送り等の罰が下されました。彼らの家系も準皇族への不敬を問われ、多額の追徴金の納付を命じられております。法に則った不敬罪の適用ゆえ、異論を唱える者はおりません」
「自業自得だな。……命まで取らなかったのは、彼女との婚姻の前に余計な血を流したくなかっただけの慈悲だと、奴らも知るがいい」
己の浅はかな妄想で主を見誤り、未来の皇妃を蔑んだ報い。真実と噂の区別もつかないような愚か者は、帝国貴族には必要ない。
不敬を問われた家系と積極的に繋がりたい貴族はいない。社交界からは孤立するだろう。
「また、聖女に与してロクサーナ様へ不遜な態度をとっていた使用人たちにつきましては、全員即刻解雇。帝都内での再就職を一切禁じる厳しい厳罰を言い渡しました」
「……当然の結果だな。彼女を害そうとした者だけでなく、蔑み傷つけた者も同罪だ」
書類を冷たく放り投げる。
ロキシーを正しく評価できず、表層の言葉に惑わされた職務を怠った者たちに、皇宮に残る資格などない。
「式の準備に滞りはないな?」
「はっ!順調に婚姻の義の準備が整っております」
「ご苦労」
窓の外を見遣れば、どこまでも澄み渡る帝都の空が広がっていた。
ロキシーとの婚姻に、わずかな憂いや不協和音すら残したくはない。
彼女が歩む花道に一粒の塵すら落とさぬよう、不安の種も、不快な雑音も、すべてこの手で綺麗に摘み取っておかなければーー。
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