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「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


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第92話:完璧な計画と、破滅へのカウントダウン

リリス視点です。

「リ、リリス、本当に大丈夫なのか……?隣国の聖女様だぞ……。もし私たちの関与がバレたりしたら、侯爵家は……っ」


 豪奢な応接セットのソファで、カシアン様は青ざめた顔で紅茶のカップをカタカタと震わせていた。

 仕立ての良い上着を着てはいるものの、どこか自信なさげに視線を泳がせるその姿は、相変わらず頼りなく、情けない。


(……相変わらずのお人好しで気弱なカシアン様。本当に扱いやすくて助かっちゃうわ)


 私は可憐にカシアン様の隣へ座り、彼の腕にしがみついて胸を押し当てた。上目遣いで不安そうに瞳を潤ませると、彼はビクッと肩を跳ねさせる。


「まあ、カシアン様ったら。私を信じてくださらないの?あの純粋な聖女様は、私が教えて差し上げた内容を、簡単に呑み込んでくれましたわ。ふふ、陛下に認められたい一心で、とっても必死なんですもの」

「でも……結界の魔石に手を加えるなんて……」

「大丈夫ですわ、カシアン様。結界の破損には、ならず者を雇って既に始末しましたわ。それに、聖女様には『結界を補完し、修復をお助けしてほしい』と伝えてありますの。まさかそれが聖女様やあの女を誘き寄せるための罠とも知らずに。今頃聖女様は、陛下の危機を救ったヒロインになったつもりでいるんじゃないかしら」


 甘い声で囁きながら、彼の手に私の手を重ねる。

 聖女に授けたのは、結界修復のお守りなどではない。


 皇帝を目の敵にしている侯爵に手配させた、他国からの輸入品であるペンダントだ。それには、暴走した魔力の余波で魔物を引き寄せる仕掛けが施されている。


「帝都内や聖女様に被害が出てくれれば、陛下の威信は地に落ちるはず……そんな時にカシアン様が我が家の兵を率いて事態を収拾すれば『帝国の窮地を救った英雄』になれるのよ?そうすれば、あのお姉様だって、もう二度とあなたを見下したりできませんわ」

「エレオノーラ嬢が……?」

「ええ!……私を選んでくださった頼もしいカシアン様が、帝国の英雄になるんですの」


 私が甘く持ち上げると、カシアン様は「そうだな……私だって、やればできるんだ……」と、自分に言い聞かせるように頷いた。


(本当に簡単な男。優秀なお姉様に劣等感を抱いていたからこそ、私の甘言に簡単に乗って、侯爵家の裏組織を使って仕掛けを手配してくれた……)


 すべては順調だった。

 皇帝から愛されるあの女を消し、失意の皇帝を失脚させればいい。カシアン様を擁立して私がその傍らに立てば、私の望む輝かしい未来ーーこの帝国の頂きに立つことも夢じゃないわ。


(ふふ、数日後には、あの女の惨めな死体が届くはず……)


 私たちが勝利の予感に浸っていた、その時だった。 


 ーーバンッ!!


 静寂を破り、応接室の扉が勢いよく開け放たれた。青ざめた顔の執事が、膝をガクガクと震わせながら滑り込んでくる。 


「か、カシアン様!リリス様!た、大変です……っ!」

「!?な、何事だ!ノックもなしに……っ」


 突然の事態に、カシアン様は悲鳴のような声を上げて跳ね起き、手にしていたカップを床に落とした。陶器が割れる甲高い音が響く。


「近衛騎士団です!騎士団長と……王弟殿下のエルヴィス卿率いる騎士団が、当邸を完全に囲んでおります……っ!」

「何だって……!?なぜ騎士団が我が家を……っ!?」


 カシアン様は腰を抜かさんばかりにガタガタと震え、私の腕にしがみついてきた。


「リ、リリス!どういうことだ!?失敗しないと言ったじゃないか!私、私は関係ないぞ、全部お前が……っ!」

「落ち着いてくださいませ、カシアン様!そんなはず……見つかれば自分も罰は免れないはずの聖女様が口を割るはずがありませんわ!」


 取り乱すカシアン様を突き飛ばそうとした、まさにその時ーー。


 屋敷のあちこちから、騎士たちの重厚な鉄靴の音がなだれ込んでくる響きが聞こえ始めた。邸内を包む怒号と緊張感。


(嘘……嘘よ……っ!!私の完璧な計画が……どうして……!?)


 窓の外を見下ろせば、白銀の甲冑を纏った騎士たちが立ち並んでいた。その先頭には、冷酷な眼光で応接室の窓を見上げる騎士団長と、殿下の姿。


 私の破滅へ向けたカウントダウンが、静かに刻まれ始めていた。


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