第7話:お兄様の忠告と、想定外の邪魔者
四日目の密会を終えた翌日の昼。
私はタウンハウスの居間で、お兄様が優雅に(脳筋のくせに!)紅茶を飲んでいるところへ、さりげなく隣に座った。
昨夜を思い出して、一人でニヤニヤしてしまうのを必死に堪える。
――妻になりたいのは、あなただけ。
そう告げた私に、ルシウス様は愛おしげな声で「ロクサーナ」と名前を呼んでくれたのだ。
(あんな風に名前を呼ばれるなんて……ルシウス様も、私と同じ気持ちだと思っても良いのではないかしら)
胸の奥がじんわりと甘い熱で満たされていく。
だが、そんな私の浮かれた様子を察したのか、お兄様がカップを置いて、鋭く目を細めた。
「ロキシー。お前、ここのところ毎晩、夜会の途中で姿を消しているだろう。料理長からも、お前が毎晩のように『夜食用に』と、やたらとガッツリした肉料理を注文しては、どこかへ持ち去っていると報告を受けているぞ」
「っ……! そ、それは、その……ちょっと夜風に当たりながらお腹を満たそうかと……!」
「……まあいい。お前が夜会に退屈するのは分かる。だが、一週間の夜会も残すところあと三日だ。今夜の五日目の夜会は、ヴァルハイト辺境伯家を味方に引き入れたい貴族どもが、お前に声をかけようと待ち構えているぞ」
お兄様はそう言うと、私の頭を少し乱暴に、けれど心配そうにクシャクシャと撫でた。
「帝都の男どもは、見た目だけは綺麗だが、裏で何を考えているか分からん狸ばかりだ。実家の権力目当ての変な男に、コロッと引っかかるんじゃないぞ」
「……善処しますわ」
私は冷や汗を流しながら頷いた。
ーーー
そして迎えた、五日目の夜会。
お兄様の予言は、最悪な形で的中してしまった。
私が会場の端へ移動しようとした瞬間、きらびやかで淡い色の礼服を着た男たちが、次々と私の前に立ち塞がったのだ。
「やあ、ヴァルハイトのご令嬢。今日も一段と美しいですね。よろしければ、私と一曲踊っていただけませんか?」
「レディ、北の辺境のお話をぜひお聞かせ願いたい。我が侯爵家は、あなた方のような逞しい一族に大変興味がありまして……」
(あああ、もう! 邪魔ですわ、どいてちょうだい……っ!)
世界の美醜の基準からすれば、金の瞳を持っていても平凡な茶髪の私は「まあまあ」の評価のはずなのに、ヴァルハイト辺境伯家の力と権力を目当てにした男たちが、群がってくる。
周囲に人がいる手前、全員を力づくで殴り飛ばして突破するわけにもいかない。
「申し訳ありません、少々気分が優れませんので……!」
当たり障りのない言い訳で、しつこい貴族の男たちをどうにかこうにか撒いたときには、すでに時計の針は、いつもルシウス様と待ち合わせている時間を大きく過ぎていた。
「大変、もうこんな時間……!」
私は桃色のドレスの裾を大きくたくし上げると、淑女が見たら失神するような速度で、夜の庭園へと全速力で駆け出したのだった。
言い寄っている男たちは美形の部類です。




