↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/100

第54話:純真と、手繰り寄せる鎖

前半ノクス視点、後半ロクサーナ視点です。

 しばらくして、私の胸の中で寝息を立て始めたロキシーの頭へ、そっと唇を落とす。

 そのまま起こさないよう、静かに彼女の身体をベッドへ下ろした。


「……今日は疲れただろう。ゆっくり休むといい」


 本当は、このまま二人で過ごしていたいが、今日の出来事できっと疲弊しているはずだ。名残惜しさを押し殺して彼女を侍女に託すと、私は踵を返し執務室へと向かった。


 執務室の重厚な扉が閉まると同時に、室内の空気は氷点下へと変わる。私はすぐに騎士団長ガヴェインを呼び出させた。


「今日の訓練場での事故だが、木刀の強度管理、および救護体制に明らかな不備があるな」


 デスクの前に直立不動で控えるガヴェインを、私は正面から見据えた。


「今回の事故は予期せぬ不運だったかもしれないが、今後は木刀の扱い方について、若い騎士への指導と教育を徹底せよ。それと、現在の救護体制はどうなっている?」


 詰問するような低い声に、ガヴェインは緊張した面持ちで口を開く。


「はっ。基本的には各部隊の衛生兵が応急処置を担当し、重傷の場合は宮廷医師へ救護を要請する手はずとなっております。昨日は訓練が重なり、衛生兵の配置が手薄になっておりました……」

「言語道断だな。救護班の医師が即座に駆けつけられぬ体制など、あってはならない。一から体制を見直せ」


 私は淡々と、けれど拒絶を許さないトーンで細かい指示を告げた。


「今後は訓練場に救護班の医師を常駐させろ。必要であれば、宮廷医師団から人員を割き、必要な医療器具や予算も手配しよう。……これならば言い訳はできまい?」

「はっ……! 寛大なる御配慮、感謝いたします、陛下」


 ガヴェインは額に冷や汗を流し、深く頭を下げた。


「未来の皇妃が自ら手を下さねばならないような状況は、万に一つも作ってはならない。……徹底せよ」


 有無を言わせない眼差しで釘を刺し、ガヴェインを下がらせる。

 私は己の指に嵌められた指輪へと視線を落とし、即座に席を立つと、指輪の魔力を辿り、彼女のいる場所へと向かった。


ーーー


 目を覚ますと、そこにはノクス様はおらず、私は私室のベットの上に横たわっていた。一時間ほどの仮眠をとっていたらしい。火照っていた身体もすっかり落ち着き、頭の中が少しずつ冷静になっていく。

 静まり返った室内で、私は自分の無茶な行動を振り返っていた。


 (やってしまったわ……)


 尋常ではないほど取り乱してしまったことを反省しながら、同時にノクス様から向けられた深い想いに、心が満たされていくのを感じた。

 以前の私なら、彼の重すぎる愛に純粋に喜びながらも「仕方ないですわね」と、どこか一歩引いて彼を甘やかしていただろう。けれど今は、その歪な想いがないと安心出来なくなっている自分がいる。

 その重すぎる愛に安らぎを感じてしまう私は、もう後戻り出来ないほどに、ノクス様に囚われているのだろう。

 ーーまるで、互いを縛り合う鎖を、私自身も強く握りしめているかのように。


 「……ですが、流石にこのまま何もしないわけにはいきませんわ」


 自分が応急手当てをした青年のその後を確かめ、容態が安定しているのを見届けるところまでが、私の責任だ。私は身なりを整え、ヴェラとニナと一緒に宮殿の救護棟へと足を運んだ。


 夕暮れの静かな病室の扉を開けると、そこには足に包帯を巻き、ベッドに横たわっている若き騎士の姿があった。彼は私の気配に気づくと、ハッと目を見開いた。


「ロ、ロクサーナ様……っ!?」


 青年は驚き、傷を痛めながらも起き上がろうとする。私は慌ててそれを手で制した。


「動いては駄目ですわ、傷が開きます。……顔色は良さそうで、安心しましたわ」

「ロクサーナ様、昨日は不甲斐ない私をお救いいただき、本当にありがとうございました……! 医師からも、あなた様の迅速な手当てがなければ危なかったと聞きました。この命、あなた様に捧げる覚悟で、今後は――」

「――その忠誠は、彼女ではなく我が帝国に示せ」


 青年の熱烈な言葉を切り裂くように、背後から地を這うような低い声が割り込んだ。


「っ……、陛下……!」


 青年が息を呑むと同時に、完璧なタイミングで現れたノクス様が、拒絶を許さない強い力で、私の細い腰をぐっと引き寄せた。私が誰のものなのかを誇示するかのように。


「ロクサーナが救ったのは、未来ある『帝国の騎士』であって、お前個人ではない。命を捧げるというのなら、訓練に励み、戦場でその忠誠を示せ」

「はっ……! 心得ました……!」


 皇帝の纏う圧倒的な威圧感と、射殺さんばかりの冷たい視線に射すくめられ、若い騎士は真っ青になって頭を下げた。


 ノクス様の腕の強さに、湧き上がる感情を自覚した私は、彼にぴったりと身を委ね、小さく微笑むのだった。


 ーーきっと、来てくれると分かっていたから


補足:

ノクスは、指輪(魔導リング)を通してロクサーナが部屋を出たことや、居場所がわかります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。