第47話:お茶会の戦果と、甘いご褒美
「……っ、ふあ……、ノクス、様……」
ようやく耳や首筋、胸元から唇を離したノクス様は、名残惜しそうに、けれど満足げに私の体を抱きすくめた。
触れられていた場所がじんわりと熱い。衣服に隠れる位置とはいえ、間違いなく真っ赤な痕が残ってしまっているはずだ。私の様子を覗き込む彼の瞳には、まだ蕩けるような残熱が揺らめいている。
「少し、悪戯が過ぎたな。……だが、そなたが愛らしく誘ったのが悪い」
低くかすれた声で、私の乱れた髪を指先で優しく整えてくれる。
今日のお茶会のために美しく結い上げられていた髪の乱れなど、今の私には微塵も頭になかった。ただ、こうして彼に独占されているという事実だけで幸せだった。
「……ノクス様の意地悪。これ以上夢中にさせられてしまったら、私、どうにかなってしまいそうですわ」
上気した頬を緩め、彼のシャツの襟元をきゅっと握る。
ノクス様は深く息を吐きながら甘く微笑むと、私の額にそっと自身の額を押し当てた。
「このまま私のことしか考えられなくしてしまいたいが、今は、ここまでにしておこう……。それで、茶会では、他にどのような話をしたのだ? 面倒な乱入者がいたと言っていたが」
「!ええ、そうなのです。聞いてくださいまし」
私は気を取り直して今日あった出来事を身振り手振りを交えて報告し始めた。
エレオノーラ様が淹れてくれた薔薇の紅茶の素晴らしさから始まり、招待もされていないのに乱入してきたリリスという妹と、その婚約者カシアンの呆れた行動のことまで。
「姉の婚約者を奪っておきながら、被害者のふりをしてお茶会を台無しにしようとするなんて、本当に悪趣味ですわ。マナー違反ですし。だから私、『出ていきなさい』とハッキリ申し上げてやりましたの」
「……ローゼンベルク公爵家の次女、か」
「でも、そのおかげでエレオノーラ様や周りの令嬢たちとも、すっかり打ち解けられましたわ。それに皆様、今日のドレスの差し色をとても褒めてくださって、最後には『またお会いしたい』と約束までしてくださったの」
「そうか。王都の令嬢たちと上手くやれたのなら、何よりだ。そなたのその真っ直ぐな強さは、社交界の新しい光になるのだろうな」
ノクス様は私の頬を撫で、柔らかく微笑んだ。
その温かい手のおかげで、お茶会で使った緊張の残りが、完全に溶けてなくなっていくのが分かった。
そうして他愛のない報告を続けているうちに、馬車の速度が徐々に落ち、やがて静かに停止した。
窓の外を見れば、夕刻の美しい光に照らされた皇宮の馬車寄せに到着している。
「――陛下、ロクサーナ様。皇宮へ到着いたしました」
御者の声が響き、二人の甘い時間が終わりを告げる。
ノクス様は最後にもう一度、乱れた私の髪を優しく指先で整えてくれた。
「もっとこうしていたいが……まだ片付けなければならない執務が残っている」
「ええ、分かっておりますわ。お迎えに来てくださっただけで、私はとっても幸せです」
私が馬車の座席に座り直し、名残惜しそうに彼のシャツから手を離そうとすると、ノクス様はその私の手を引き留めるようにギュッと握り直した。
「執務が終わり次第……私の香りが消えないうちに、またすぐに会いにいく」
「まあ……ふふ、お待ちしておりますわ」
馬車の扉が開かれ、ノクス様が先に降りて私に手を差し伸べる。
その手を借りて地面に降り立つと、私の手の甲にそっと深い口づけを落とした。
「では、また後で」
「ええ、また後で」
私たちは視線で最後の甘い合図を交わし、それぞれの護衛を連れて歩き出した。
私は今夜の愛しい人との逢瀬を思い、早くも胸を躍らせるのだった。




