第44話:直球は、すべての盾を貫く
「まあ……! ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ロクサーナ様。私、ローゼンベルク公爵家次女のリリスと申します。お初にお目にかかりますわ」
リリスは一瞬で表情を切り替えると、話しかけてもいないのに、いかにも庇護欲をそそる仕草で私にカーテシーを捧げた。その態度の急変ぶりは、私がノクス様の婚約者――つまり『未来の皇妃』であることを意識してのものなのだろう。
「お茶会を邪魔するつもりはなかったのです。ただ、お姉様にご挨拶をと思っただけなのに……でも、お姉様ったらお会いした瞬間からあんなに怖いお顔で私を睨んで……。いつも私に冷たくなさるんです。カシアン様に選ばれたのが私だったから、やはりまだ未練がおありなのかしら……」
リリスは、弱々しい声で語り出した。
カシアンという男性は擁護するような目をリリスに向け、庇うように彼女の隣に佇んでいる。
――なるほどね。なんとなく察しましたわ。
このリリスという少女は、可哀想な自分をアピールすることで、私の同情を買おうとしているのだろう。このお茶会の場で姉を悪者に仕立て上げようとしている、といったところだろうか。その透けて見えるような下心が、私には酷く浅はかに思えた。
だが、何よりも――。
(……だから、何?)
私は、最初から最後まで冷めきった目でその茶番を見ていた。
王都の社交界の、ドロドロとした噂を一切知らない私には、彼女が何を喚いているのかが全く理解できなかった。
「……ええと。リリス様でしたかしら」
私が声をかけると、リリスは「はいっ」と嬉しそうに顔を上げた。
「お話は分かりましたけれど……。正直に申し上げて、私はあなた方の事情には全く興味がありませんわ。それに、なぜその男性があなたを選んだからといって、エレオノーラ様があなたに冷たくなるのですか?」
「え……?それは……カシアン様は、元々はお姉様の婚約者だったからですわ。でも、カシアン様が愛してくださったのは私でしたの。だからお姉様は私を妬んで、いつも意地悪を……」
リリスは、まるで自分が被害者であるかのように、その事実を口にした。
――けれど、それを聞いた私は、心底耳を疑った。
「……まあ、リリス様。ご自分の姉から婚約者を奪ったということですの?でしたら、よくそんなに恥ずかしげもなく、エレオノーラ様の主催するお茶会に挨拶などできましたわね」
「っ!?」
直球で言い放たれた言葉に、リリスだけでなく、隣のカシア
ンまでもが息を呑んだ。
「お二人とも立派な身分をお持ちのようですけれど……されていることは、それこそ意地悪で、悪趣味ではなくて? 傷つけたはずのエレオノーラ様の気持ちを少しでも考えたことがあるのなら、慎ましく過ごされるべきだと思いますわ」
「な、何をおっしゃるのですか……! 私たちは真実の愛で結ばれたのですわ! 」
「だとしても、姉の婚約者、婚約者の妹、と知りながらお互い惹かれ合ったのですから、愛を貫き結ばれるのであれば、エレオノーラ様や周囲からの批判は覚悟の上であるべきですわ」
「……っ」
カシアンは、図星を突かれたように顔を真っ青に染めている。
「そして、そんなことよりも一番の問題は、あなた方が招待されてもいないのに、このお茶会に無許可で立ち入ったことです。マナー違反ですし、邪魔ですので今すぐ二人とも、このガゼボから出ていきなさいませ」
私の冷徹な声が、ガゼボの中に響き渡る。
その言葉にリリスは屈辱で唇を震わせ、顔を俯かせた。
「……っ、行きましょう、カシアン様!」
これ以上この場に留まっても惨めな思いをするだけだと察したのだろう。リリスはカシアンの袖を強く引いて、足早に立ち去っていった。
エレオノーラ様は驚いたように、けれど熱い光を宿した瞳で私を見つめていたーー。




