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「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


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第42話:白磁の招待状と、完璧な令嬢

ロクサーナ視点です。

「――ふーん。カロルス侯爵家、当主交代ねえ……」


 晩餐会から1週間ほど経った日の昼下がり。私は温かいお茶を飲みながら、テーブルに広げた新聞の端に載っている小さな記事を眺めていた。


 晩餐会で私に突っかかってきたカロルス侯爵が急な流行り病で亡くなり、弟が急遽家督を継いだらしい。あまりにもスムーズな新体制への移行に、世間は疑問に思いつつも納得しているようだった。


「流行り病、か。……あんなに元気そうだったのに、お気の毒にね……」

 

 そんなことを考えていると、筆頭侍女のヴェラが、銀のトレイに乗せられた一通の書状を差し出してきた。

 純白の厚紙にローゼンベルク家の紋章である美しい薔薇の封蝋。いかにも高貴な招待状だ。


「ロクサーナ様、ローゼンベルク公爵令嬢、エレオノーラ様よりお茶会のご招待状が届きました」

「わあ……ついに来たのね」


 エレオノーラ・ローゼンベルク。

 帝国の文官トップである公爵家の長女であり、あの晩餐会で私とお茶会の約束をした、誰もが羨む完璧な令嬢だ。


 ラベンダーシルバーの美しい髪に、光を浴びてきらめくミントグリーンの瞳を持つ彼女は、白や銀を美とするこの帝国において、絶世の美貌を持つ。


「二週間後、公爵邸の庭園にて……。ねえヴェラ、こういうお茶会って、刺繍を見せ合ったりするのかしら? 私、刺繍は苦手なんだけれど……」

「ロクサーナ様、淑女同士の一般的なお茶会は、最新の流行や政治のパワーバランスを暗に探り合う『戦場』でございます。刺繍を見せ合うような微笑ましいものではございません。ですが、ロクサーナ様は普段通りに接していらっしゃれば、それだけでよろしいかと」


 ヴェラは頼もしく微笑み、もう一人の護衛侍女であるニナも、「私もお側で護衛します!」と目を輝かせている。


「そうね。実際の戦場のように剣を交えるわけじゃないんだから、なんとかなるわよね!」


 そして迎えた、お茶会当日。

 ノクス様が手配してくれた皇室の馬車が到着したのは、帝都の一等地にあるローゼンベルク公爵邸だった。

 馬車の扉が開かれ、外へ一歩踏み出した瞬間、私はその圧倒的な美しさに小さく息を呑んだ。


 視界に飛び込んできたのは、見渡す限りに咲き誇る、手入れの行き届いた白薔薇の庭園。

 その中央に設えられた豪奢なガゼボ(東屋)には、すでに華やかなドレスを纏った数人の令嬢たちが集まっていた。いずれもローゼンベルク公爵家と同じ派閥に属する、エレオノーラと親しい高位貴族の令嬢たちのようだ。


 ーーそしてその中心に、彼女は座っていた。


 豊かな髪を結い上げ、淡いドレスを身に纏ったエレオノーラは、まるで絵画から抜け出してきたかのように優雅にお茶を口に運んでいる。


 私が近づくと、集まっていた令嬢たちの視線が一斉にこちらに注がれた。その視線には怯えや蔑みはなく、あの皇帝陛下の心を射止めた辺境伯令嬢をひと目見ようという、好奇心と興味の混ざった視線だ。


 こちらに気づいた彼女が、椅子から立ち上がり微笑みを浮かべた。


「ようこそおいでくださいました、ロクサーナ様。お待ちしておりましたわ」


 その鈴の鳴るような美しい声に、声まで美しいのね、と呑気なことを考える。


「お招きいただきありがとうございます、エレオノーラ様」


 私はそっと背筋を伸ばし、彼女の正面の席へと進んだ。

 ノクス様の婚約者となってから、初めてのお茶会。――そして、この美しい庭園の静寂を破るように、乱入者が突撃してくるまで、あと数分のことだった。


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