↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/100

第40話:幸運の女神と、欲張りな女神

ロクサーナ視点です。

 一日が終わり、夜の(とばり)が皇宮を包み込む頃。

 私は自室でノクス様と二人、静かに夕食の席に着いていた。

 昨夜の張り詰めた晩餐会とは違い、好物が並ぶ食卓は、どこか家庭的でホッとする温かさに満ちている。


 けれど、隣に座るノクス様は、先ほどからどこか様子が違っていた。時折何かを思い出すようにふっと視線を和ませ、どこか上の空なのだ。


「――ノクス様? スープが冷めてしまいますわよ」

「ああ……すまない、ロキシー。少し、考え事をしていてな」


 私がクスッと笑いながら声をかけると、ノクス様はハッとしたようにスプーンを動かした。


(ふふ、分かりやすい方。……きっと、エルヴィス殿下とお会いになったのね)


 確信を抱きながら、私はそっとワイングラスに口をつけた。

 すると、ノクス様は一度スプーンを置くと、意を決したように私を見つめてきた。


「今日、エルヴィスに会った」

「あら、まあ」

「エルヴィスが……私に頭を下げたのだ。昨夜の非礼を謝罪したい、と。だから周囲の供を下がらせて、二人きりで話をした」


 ノクス様の声は、どこかまだ信じられないといった様子だった。

 私は何も言わず、ただ優しく先を促すように微笑みかける。


「エルヴィスは、私が周囲から虐げられる中で、自分が側にいれば私を傷つけてしまうからと、敢えて距離を置いていたのだと……。ずっと私の幸せを願っていたと言っていた」


 語られたその内容に、私は胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。

 エルヴィス殿下、ちゃんと伝えたのね。


「本当に、不器用なご兄弟ですこと」

「……全くだ。あいつはロキシーに諭されたと白状していたぞ。手厳しい義姉上だ、と溢していた」

「まあ、私はただ本当のことを申し上げただけですわ。……ノクス様、嬉しそうですのね」


 そう指摘すると、ノクス様は一瞬目を見張り、それからふっと表情を緩ませた。

 漆黒の瞳に灯る光は、兄弟の絆の温もりに触れた、一人の不器用な男性のものだった。


「嬉しい、か。……長年、エルヴィスには嫌われていると思い込んでいた。孤独だと思っていた私のすぐ隣に、あんなにも真っ直ぐ私を気にかけてくれる者がいたのだと知って……視界が開けたような心地がする。すべてはロキシー、そなたのおかげだ」


 ノクス様は私の手をそっと包み込み、慈しむように指先を絡めた。


「私はそなたに、喜ばせてもらってばかりだな」


 ポツリと漏らされたそのセリフには、深い感謝と、途方もないほどの愛が込められていた。

 甘えるように私の手元を見つめる彼があまりにも愛らしくて、私は胸がいっぱいになりながら、空いているもう片方の手を彼の頬へと添えた。


「ノクス様、それは違いますわ」

「……?」

「私はただ、大好きな人が幸せそうに笑うお顔が見たいだけ。ノクス様がそうして穏やかに微笑んでくださることが、私にとって何よりの喜びであり、ご褒美なのですから」


 そう伝えると、ノクス様は眩しいものを見るように私を見つめた。


「……そなたは、幸運をもたらす女神のようだな。……私だけの女神だ」


 絡められた指先にギュッと力がこもり、彼の瞳に私だけが映り込む。甘く独占欲の滲むその声に溶かされてしまいそうだった。


「ふふっ、女神は欲張りなんです。これからもその素敵な笑顔を、たくさん見せてくださいね? 私のノクス様」


 彼にしか見せない表現で甘く微笑んでみせると、ノクス様は目元を緩ませ「そなたの前でなら、いくらでも」と囁くように微笑んだ。


 幸せな空気の中で、私たちは残りの夕食を楽しんだ。

 冷え切っていた兄弟の絆を取り戻し、愛する人の心を救えたことに――私は、この上なく満足したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。