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「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


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第27話:建国記念晩餐会と、未来の皇妃

 シルヴェスタ帝国・建国記念晩餐会。

 会場となる大広間には、色とりどりの華やかな礼服に身を包んだ帝国中の高位貴族や、他国の使節たちがひしめき合っている。彼らの関心は、建国記念の祝祭そのものよりも、本日ノクス様が発表する「未来の皇妃」


 ――つまり、私に向けられていた。


「おい、あのヴァルハイト辺境伯の令嬢を本当に婚約者に迎えるらしいぞ」

「『黒の皇帝』に婚約者か。一体どんな弱みを握られてるんだろうな、可哀想に……」


 大扉の向こうで待機する私の耳にも、中から漏れ聞こえる貴族たちの無遠慮な囁き声が届いている。

 彼らはノクス様の『黒』を恐れながらも、新しくやってくる私を「辺境育ちの野蛮な娘」「どうせ怪物に怯えて泣いている哀れな飾り」だと、値踏みする気満々で待っているのだ。


(ふん、言っててちょうだい。その浅はかな予想、早々にブチ壊してあげますわ)


 私はフッと笑みを浮かべ、隣に立つノクス様の逞しい腕にそっと手を添えた。ノクス様は私を見つめ、慈しむような深い漆黒の瞳で優しく微笑んでくれた。


「皇帝陛下、ならびに、ヴァルハイト辺境伯令嬢ロクサーナ様、ご入場です」


 鳴り響くファンファーレとともに、大広間の重厚な双開きの扉が厳かに開け放たれた。

 一歩、彼が会場へ足を踏み入れるだけで、数百人の貴族たちで埋め尽くされ、あれほど騒がしかった会場が、まるで氷水を打ったかのように一瞬で静まり返った。


「……ひっ、」


 最前列にいた高位貴族の令嬢たちが、目に見えて顔から血の気を失わせていく。

 ノクス様の纏う『黒』は、存在すること自体が醜悪の象徴とされている。それを至近距離で目撃した恐怖と、嫌悪感――それに真っ正面から当てられた繊細な令嬢の一人が、


「あ……、う、嘘……」


 喉の奥で掠れた悲鳴を上げたかと思うと、そのまま白目を剥いて卒倒した。それを見て誰もが、やはり皇帝は醜い怪物だと、蔑みと恐怖を孕んだ視線を一斉に彼へと向けた。

 ノクス様の綺麗な漆黒の瞳が、ほんの少しだけ、いつもの孤独な色を帯びて翳りかけた――その、刹那。


 私は彼の腕にそっと添えた手を、きゅっと、愛おしそうに抱きしめた。


「大丈夫ですわ、ノクス様」


 私が小さく囁きながら、一歩前へ出る。その瞬間、どんよりとした空気に支配されていた大広間に、目の覚めるような『朱赤』が解き放たれた。


 私が身に纏っていたのは、目の覚めるほど鮮やかで情熱的な朱赤のシルク。シルクの上には繊細な漆黒のレースを贅沢に重ね、耳元や胸元を飾るのは黒ダイヤモンドのアクセサリー。繊細な気品を放ちながらも、世界の常識を真っ向から挑発するような、圧倒的な存在感を放つドレス。


 何より、私の瞳には彼らが期待していたような「恐怖」や「気後れ」など微塵もない。

 群がる魑魅魎魎たちをむしろ見下ろすように、私は凛とした美しい笑みを浮かべ、堂々と歩みを進めていくのだった。


 ノクス様は私の小さな手をエスコートしながら、大広間の最上段、玉座の前へと私を並び立たせた。

 静まり返る会場を見下ろし、ノクス様が皇帝としての威厳を込めて、朗々と声を響かせる。


「皆の者、よく聞いてほしい。本日、この建国記念の佳き日に、私から重大な発表がある」


 ノクス様は私の肩にそっと大きな手を置いた。その体温が、ドレス越しに心地よく伝わってくる。


「私の隣に立つ女性、ロクサーナ・ヴァルハイトを、私の唯一の婚約者、そしてシルヴェスタ帝国の未来の皇妃として、ここに正式に宣言する」


 ドッと地鳴りのようなどよめきが広がる中、貴族たちの視線が私へと集中する。中には、私の辺境育ちという立場を突いて、さっそく言葉の罠を仕掛けようと目を光らせる狡猾な狸どもの姿もあった。


「――ノクス様」


 私はノクス様の耳元に顔を近づけ、他には聞こえない小さな声で囁いた。


「社交界の狸たちが、挨拶したそうにこちらを見ているわ。……私、派手に暴れてきてもよろしくて?」


 私の問いかけに、ノクス様は驚くこともなく私を見つめ返した。


「ああ。そなたの好きなようにするといい、ロキシー。私のすべてを懸けて、そなたの後ろ盾になろう」


 ――そなたの好きなように。

 その甘い声に背中を押され、私の胸の奥でヴァルハイトの熱い血が騒ぐ。


「ええ、お任せあれ」


 社交界の魑魅魍魎たちを相手に、私――ロクサーナ・ヴァルハイトの華麗なる表舞台での進撃が、今ここに幕を開けたのだった。


・朱赤にした理由:

① ヴァルハイトの象徴

ロクサーナの故郷であるヴァルハイト辺境伯領は、魔獣と戦うド根性の土地です。

泥に塗れても力強く燃え続ける「炎」や「昇る太陽」を連想させる色なので、彼女の持つ圧倒的な生命力と野性的な美しさが引き立つため。


② 夜明けの光

タイトルにあるような「朝焼け・夜明けの太陽の色」を連想させる色のため。


③コントラスト

深紅やワインレッドのような「暗い赤」に黒いレースを重ねると、色が同化して黒が目立たなくなってしまいますが、鮮やかでパキッとした朱赤の上に漆黒のレースを重ねると、黒の繊細な模様がくっきりと浮かび上がり、戦闘服(ドレス)に相応しい圧倒的な存在感が出せるため。


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