第21話:新しい朝と、作戦会議
ロクサーナ視点です。
お互いの想いを言葉にして通じ合わせた翌日、眩しい朝の光で目を覚まし、ノクス様が用意してくれた天蓋付きベッドから起き上がる。
昨夜の甘すぎるディナーと指先の熱を思い出して一瞬だけ頬が熱くなったけれど、すぐに両手でパンッと顔を叩いて気合を入れた。
「よし! やるわよ!」
あの不器用で愛おしい彼を世界一幸せな男にするために、まずはこの皇宮に、ノクス様の味方を増やしていくのだ。
「ロクサーナ様、お目覚めですか? 朝食とお着替えの準備が整っております」
絶妙なタイミングで扉をノックして入ってきたのは、ニナとヴェラだ。
朝食をテラスに用意してもらい、私はドレスの着替えを終えると、早速二人を自分のテーブルの前に呼び寄せた。
「ニナ、ヴェラ。ちょっと私と作戦会議をしてくれないかしら?」
「作戦会議、ですか?」
ニナが不思議そうに首を傾げる。私は至って真面目な顔で、二人に尋ねた。
「ええ。急なことだったとはいえ、私はノクス様の正式な婚約者として、彼のために全力で動くつもりよ。だからまずは、現状のノクス様の評価と皇宮事情を、包み隠さず私に教えてほしいの」
私の言葉に、二人は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。貴族令嬢なら、皇帝の悪評を耳にするだけで怯えて逃げ出すか、関わらないように耳を閉ざすのが普通だからだろう。
けれど、流石は私が選んだタフな二人だ。ヴェラがすぐに表情を引き締め、一歩前へ出た。
「かしこまりました。……厳しい現実となりますが、よろしいですか?」
「望むところよ。現実を知らなければ、対策も練られないもの」
「では、私から。……現在、帝国の貴族たち、そして皇宮に仕える使用人たちの間でも、陛下は完全に『血も涙もない、恐怖の象徴』として遠巻きにされています」
ヴェラは淡々と、けれど正確に現状を口にした。
「この世界で最も醜悪とされる黒髪黒目に加え、歴史上誰も制御できなかった『闇の魔石』――それを呼吸をするように完璧に扱い、軍隊を一人で壊滅させるほどの力を引き出してしまう異次元の潜在能力。そして、先代の陛下をその圧倒的な実力で廃位させたお姿から、誰もが『怪物』だと恐れているのです。
また、重税や圧政で民たちの生活を苦しめていた先代の陛下を廃位させたことや、その後の迅速な税制改革と、民の生活を第一に考えた良政で、名君として民からは感謝されつつも、同時に畏怖の対象。
皇宮内でも、必要最低限の業務以外で陛下に近づこうとする者は、宰相や騎士団長、そして私の父やニナの父のような一部の硬骨漢を除いて、誰一人としておりません」
「なるほどね。みんな、ノクス様の優しさを知らないから勝手に怯えているわけね」
「……それと、ロクサーナ様。皇宮内の人間関係で、最も気をつけねばならないのが、陛下の実の弟君である、皇弟エルヴィス殿下の存在です」
「ノクス様の弟君? 確か、噂ではお二人はあまり仲が良くないと聞いたけれど……」
私が小首を傾げると、ヴェラは神妙な面持ちで頷いた。
「はい。周囲からは完全に『不仲』と、いつ皇位を巡って血の雨が降ってもおかしくないと噂されています。お二人が顔を合わせると、一言も口を利かない空気が流れるため、使用人たちも戦々恐々としているのです」
「いいわ、皇弟殿下のことも頭に入れておくとして……私は婚約者として、まず何から始めるべきだと思う?」
そう聞くと、ヴェラがふっと知的な笑みを浮かべた。
「皇宮の人間を味方にするなら、まずは『衣食住』を司る、実務のトップたちを落とすべきかと」
「実務のトップ?」
「はい。皇宮の使用人たちを統括する『総侍従長』、そして宮廷の全ての料理を仕切る『料理長』です。彼らは伝統を重んじる気難しい老人たちですが、彼らが『ロクサーナ様こそが皇宮の新たな主であり、陛下との懸け橋だ』と認めれば、下々の使用人たちの態度も一気に変わります」
総侍従長に、料理長ね。
私はニヤリと、獲物を見つけた狩人のような不敵な笑みを浮かべた。
「いいわね、燃えてきたわ。伝統と格式でガチガチの頑固おじさまたちね? よし、まずは手始めに、その料理長の厨房へ挨拶がてら突撃してみようかしら!」
「ちゅ、厨房へ突撃ですか!?」
ニナが目を丸くして叫ぶ。高貴な令嬢が厨房に足を踏み入れるなど前代未聞だからだ。けれど、私の心は早くもワクワクと踊っていた。
(お肉の焼き方一つとっても、ノクス様がどれだけ私のために心を砕いてくれたか、私が一番よく知っているもの。ノクス様の素晴らしいところを、まずはその料理長から叩き込んで、皇宮中に味方を増やしてあげるんだから!)
私は頼もしい二人の侍女を従え、厨房に向かって軽快に歩き出す。
ーー待ってなさい、料理長!




