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「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


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第20話:溶け合う熱と、初めての涙

19話のノクス視点です。

「そなたの口に合ったのなら良かった。帝都で最高と言われる肉を、今朝一番に仕入れさせて、私の専属料理人に焼かせたんだ」


 私のすぐ隣の席で、ステーキを美味しそうに頬張るロキシーを、私はただ見つめていた。

 この広いダイニングテーブルに、わざわざ椅子を並べて隣同士で座るなど、マナー的にはあり得ないことだ。だが、二人きりということもあり、一秒でも長く、一ミリでも近くに彼女を感じていたくて隣に座った私を、彼女は嫌がるどころか嬉しそうに受け入れてくれている。


 彼女があまりにも美味しそうに食べるため、自分の分のステーキも次々と彼女の皿へと移してしまった。私が一生、彼女に美味い肉を運び、こうして隣で健やかに食べさせてやりたい。


 そんな至福の時間の中、ロキシーがふと、私の張った防御結界について尋ねてきた。


(やはり気づくか)


 彼女の安全を完璧に保障するため、そして彼女がこの部屋を出たことや、現在地が全て私の指輪に通知される最高傑作の結界だ。

 それを説明すると、ロキシーはナイフとフォークを置いて私を真っ直ぐに見つめてきた。


「私のことをそこまで大切に想って、素敵な結界まで作ってくださってありがとうございます!私、嬉しくてノクス様のことがもっともっと大好きになってしまいましたわ!」


 ――?


 突き出されたフォークの先の肉を見る。いや、肉ではない。

 私は今、なんと耳にした?


「ロキシー、いま……」

「え…?」

「初めて、そなたの口から直接『好き』だと……漸く言ってくれたな……」


 胸が、恐ろしいほどの熱量で満たされていく。

 私は『黒』として生まれ、怪物と恐れられ、誰かから向けられる好意など知らずに生きてきた。そんな私の人生に、初めて、こんなにも温かく嬉しい言葉がもたらされたのだ。


「あ、あら……? 私、言葉にしてお伝えしたのは、もしかして初めてでしたかしら……?」

「初めてだ。……誰かに『好き』と言ってもらえることが、これほどまでに胸を温かく満たし、救われるものなのだと初めて知った。……私の人生で最初のその言葉をくれたのが、そなたで本当に良かった」


 気づけば、瞳から涙が一筋、頬を伝ってこぼれ落ちていた。ただ彼女の私は生まれて初めて知った愛の温かさに、壊れてしまいそうなほど激しく感動していた。


「これからは、何度だってお伝えしますわ ……ずっとお側にいるのですから。……ノクス様は?」

「私、か?」

「そうですわ。ノクス様の……その、私への気持ちも、改めて言葉で聞きたいですわ」


 顔を真っ赤にして上目遣いで覗き込んでくる最愛の令嬢。

 隣り合う彼女の体温を感じながら、私はその深い黄金の瞳を見つめ返した。


「言葉などでは足りないが、何度でも言おう。ロキシー、私はそなたを狂おしいほど、愛している。この命も、魂も、全てそなたのものだ」

「……っ!」


 私の告白に、今度はロキシーが顔から火が出そうなほど照れ出してしまう。

 ふと、彼女は食べかけのステーキを見て、小さく吹き出した。初めての告白がお肉を前にして、ムードも何も無いと笑っているのだろう。


 だが、あの不器用な庭園での出会いから始まった私たちだ。これほど愛おしく、私たちらしい告白の場が他にあるだろうか。


 はにかむような極上の笑顔を私に向け、ロキシーは私の心をさらに激しく撃ち抜く言葉を紡いだ。


「……ふふ、そこまで言ってくださるなら、もう絶対に手放してあげませんわ!私が一生、誰よりも大切に愛して差し上げます。ですからノクス様も、私のことをもっともっと、たくさん愛してくださいね?」

「っ、ああ……!」


 その瞬間、理性が焼き切れるかと思った。

 もっとたくさん愛して。そのあまりにも可愛すぎるおねだりに、狂おしいほどの感情が芽生える。


「そなたの望む以上の愛を全て捧げよう。……ロキシー、愛している」


 私は彼女の小さな手をそっと包み込み、その白い指先に、世界で最も価値ある宝物を扱うように唇を落とした。

 そのまま、指先から滑らせるようにして、お互いの指を深く絡ませ合う。


 繋いだ手のひらから、彼女の温もりがじんわりと伝わってくる。その熱はまるで、私と彼女の境界線を溶かしてしまうかのように優しく、心地よく行き交っていた。


 この愛おしい少女を、私は生涯をかけて、世界で一番幸せな妃にすると誓おう。繋いだ手の熱を愛おしみながら、私はロキシーの微笑みに、この上ない幸福を噛み締めるのだった。


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