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「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


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第16話:白亜の鳥籠と、最強の味方たち

ロクサーナ視点です。

 馬車が止まったのは、皇城の中心にそびえ立つ本宮の立派な馬車寄せだった。

 ノクス様に手を取られて馬車を降りた私は、そのまま吸い込まれるようにきらびやかで広大な皇宮の中へと連れられた。


 案内されたのは本宮の最上階で最奥、皇帝のプライベートエリア。

 重厚な扉を開くと、そこは帝都の最高級ホテルのスイートルームすら霞むほど広々とした贅を尽くした客室だった。そして部屋の窓からは美しい庭園が見え、一歩廊下へ出れば、真向かいにはノクス様の部屋に繋がる扉がそびえ立っている。


 一見すると、未来の正妃にふさわしい最高級の歓迎だけれど、部屋の隅々には目に見えるほど濃密な防御結界の魔力がじりじりと漂っていた。

 ノクス様が「気に入ってくれるといいのだが」と優しく髪を撫でてくれる。


「とても素敵ですわ、ノクス様。私には贅沢すぎるくらいです」

「そなたが気に入ったなら良かった。……おい、お前たち。前に出ろ」


 ノクス様が声を響かせると、部屋の奥で直立不動で待機していた二人の女性が、一斉に美しい一礼をした。これから私専属で仕えてくれるという侍女たちだ。


「お初にお目にかかります、ロクサーナ様! 本日よりお側仕えを仰せつかりました、ニナにございます! 精一杯お仕えいたします!」


 元気よく声を弾ませたのは、まろやかなミルクティーベージュの髪をお団子にまとめ、若葉色の瞳丸い瞳が愛らしい、純粋そうな少女、ニナ。

 そしてその隣で、頼もしい笑みを浮かべたのは、艶やかなアッシュブルーの真っ直ぐなロングヘアを低い位置で一つに束ね、琥珀色の瞳を持つスタイルの良いクールな雰囲気のお姉様だ。


「同じく、筆頭侍女兼護衛を拝命いたしました、ヴェラにございます。ロクサーナ様、お見知り置きを」


 二人の目を見た瞬間、私はおや、と胸を行き交う空気が変わるのを感じた。

 皇宮の他の場所ですれ違った使用人たちは、ノクス様の後ろを歩く私を、「忌まわしい黒の皇帝に目をつけられてしまった可哀想な生贄の娘」を見るような、同情と憐れみの目で見ていたのだ。

 この国の最高権力者とはいえ、『黒の皇帝』は恐れられ、敬遠されている。そんな彼の婚約者に好んで付きたがる侍女など、普通はいるはずがない。


 けれど、この二人の瞳には、そんな陰湿な憐れみは1ミリもなかった。

 それどころか、ヴェラの手のひらには剣ダコがあり、ニナのスカートの裾からはチラリと投擲用のナイフのホルダーが見えている。


(なるほど。ただの侍女じゃない。護衛も兼ねた、めちゃくちゃタフな実力派(武闘派)だわ!)


「ロキシー。この二人は皇宮の暗部でも鍛え上げられた精鋭だ。そなたに群がる有象無象から、その身を完全に守るために配した。もし少しでも使えないと思ったら、すぐに別の者を――」

「いいえ、ノクス様! とっても素敵な二人ですわ。私、この二人が気に入りました!」


 私が二人の前に進み出て、ヴァルハイトの女としての不敵な笑みを浮かべると、ニナは「おぉ……!」と目を輝かせ、ヴェラは嬉しそうに口元を綻ばせた。


 誰もが嫌がる『黒の皇帝』の婚約者の世話係。けれど、戦闘能力も高い彼女たちにとっては、この最高難度の極秘任務に大抜擢されたことは、むしろ至高の名誉であり、やる気に満ち溢れているのだ。

 その気概、同じく脳筋……ゲホン、武闘派のヴァルハイトの血が流れる私には痛いほどよく分かる。


「ノクス様はお仕事がおありでしょう? 荷解きなら、このニナたちとやりますわ。女同士、早くお話ししてみたいですし」

「だが、ロキシー……」

「大丈夫ですわ。それとも、私のことが信じられなくて?」


 私が少し拗ねたように見上げると、ノクス様は「信じてないわけではないが……」と言葉を濁らせ、私の首筋に唇を落とした。


「ただ……そなたに私以外の人間とあまり親しくしてほしくないだけだ」

「ふふ、ノクス様ったら。大丈夫ですわ、私の一番特別な人は、ノクス様だけですもの。だから安心して、お仕事にいってらっしゃいませ?」

「……分かった。夕食の時間には必ず戻る。二人とも、ロクサーナに万一のことがあれば、分かっているな」

「「はっ! 」」


 ニナとヴェラがキリッと声を揃える。ノクス様は最後まで名残惜しそうに私を見つめながら、ようやく数人の護衛を連れて、本宮の執務室へと戻っていった。


 バタン、と重厚な扉が閉まり、静まり返る最高級の客室。

 残されたのは、私と、二人の頼もしい侍女達。


「ロクサーナ様! 陛下があんなにデレデレ……いえ、優しく微笑まれている姿、生まれて初めて拝見いたしました! 素晴らしい剛胆さです!」

「ふふ、ニナの言う通りですね。これほど頼もしいお方とは。これからお仕えするのが楽しみです、ロクサーナ様」


 一歩前に出て、今度は親愛の込もった笑みを浮かべる二人に、私は深く頷いた。


(よし。まだまだ不安でいっぱいだけれど……この二人となら、乗り越えていけそうだわ!)


 私はドレスの裾をきゅっと掴むと、心強い味方たちと共に、新生活への最初の一歩を踏み出すのだった。


・防御結界の魔力の役割について:

ロクサーナが部屋の結界(扉や窓)を通過して外に出た瞬間、ノクスが常に身につけている魔導リングが「熱」や「振動」で彼に知らせます。

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