第13話:お迎えは、あまりにも突然に
「ふふ、ふふふふふ……♪」
大夜会が明けた翌朝。私は滞在しているタウンハウスの自室で、鏡に向かって髪を梳かしながら、思い出し笑いを堪えきれずにいた。
指先でそっと自分の唇に触れる。まだそこに、昨夜ルシウス様と交わした、あの熱くて深い口づけの余韻が残っているような気がしたのだ。
『明日、必ずそなたを迎えに行く』
彼はそう言ってくれた。
一体どんな風に迎えにきてくれるのかしら。お兄様にはまだ何も話していないけれど、ルシウス様となら、どんな困難だって乗り越えられる気がする。ヴァルハイトの女が一度決めた恋だ、もし家族に反対されても力ずくで押し通してみせるわ!
そんな風に一人で拳を握りしめて気合いを入れていると、バーーーン!!と、淑女の部屋の扉とは思えない凄まじい勢いでドアが開け放たれた。
「ロ、ロキシーーーーッ!! 大変だ、今すぐ着替えろ!!」
飛び込んできたお兄様は、顔面を真っ青に硬直させていた。あの戦場でも不敵に笑うお兄様が、見たこともないほどの冷や汗を流している。
「まあ、お兄様。朝からはしたないですわよ。そんなに慌ててどうしたのです?」
「はしたないとか言ってる場合か!! 門だ! 今、うちのタウンハウスの正門に、皇宮の近衛騎士団が押し寄せてきている!!」
「え……?」
「しかも、皇帝陛下御本人が、直々に我が家に足を踏み入れようとしておいでだ!!」
「皇帝陛下が、どうして……?」
私は目を丸くした。
政治には疎い私でも、あの冷酷無比と恐れられる皇帝の名前くらいは知っている。けれど、なぜそんな雲の上の存在が辺境伯のタウンハウスにわざわざやってくるのだろう。
(……昨日、陛下から直々に「お前の妹を正妃にする、拒否権は無い」って脅されて覚悟はしてたが、まさか夜会が明けた翌朝一番に、皇帝御本人が自ら拉致るような勢いで迎えにくるなんて普通思うか!?)
お兄様は口には出さず、震えながら心の中で盛大に頭を抱えていた。
「ロキシー、とにかく今すぐ下りるぞ! 陛下をお待たせするわけにはいかない!」
恐怖を通り越して半ば引き攣った笑いを浮かべるお兄様に引っ張られ、私は完全に思考がフリーズしたまま、けれど胸の中にざわざわと広がる「まさか」という予感を抱えて、一階へと階段を下りていった。




