↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「黒」が醜悪とされる世界で、怪物と恐れられた皇帝の孤独な夜を、押し強めな辺境伯令嬢が丸ごと愛して夜明けに変えるまで  作者: みこち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/100

第10話:皇帝の謀略と、閉じゆく檻

ノクス視点です。

 六日目の逢瀬を終えた翌朝。

 シルヴェスタ帝国の皇城、その最奥にある皇帝の執務室で、私は一人、机の上の書類を見つめていた。だが、私の意識はとうに目の前の文字を滑り落ち、庭園の闇へと囚われていた。


(……生きた心地がしなかった)


 思い出すだけで、奥歯が軋む。

 五日目の夜、大広間のバルコニーから見下ろしたとき、白や淡い青色の礼服を纏った男どもが、私のロクサーナを囲んでいた。あの金の瞳が、一瞬でも他の男に向けられたと思うだけで、胸の奥から悍ましい衝動がせり上がってきた。


 もし彼女が来なかったら、あのままあの男たちの手を取って踊っていたら――。


 だが、彼女は息を切らせ、髪を振り乱して私の元へ駆けてきてくれた。

『ルシウス様に早く会いたくて、走ってきたのですから』

 そう言って、手ぶらで来たことを申し訳なさそうに眉を下げた彼女を抱きしめた時、腕の中に収まるその温かさに、脳が痺れるほどの幸福を感じた。


 ロクサーナ。私の色を全肯定し、その身ごと飛び込んできてくれた、唯一の光。


「……もう、北へ返すわけがないだろう」


 小さく呟き、私は手元のベルを鳴らした。すぐさま入室してきた側近に、命を下す。


「ヴァルハイト辺境伯家の嫡男、ガレス・ヴァルハイトをここに呼べ。公式の謁見ではない。私的な呼び出しだ」

「御意にございます」


 ーーー


 数刻後。皇帝専用の応接室に現れたガレス・ヴァルハイトは、流石に北の修羅場をくぐってきた男だけあって、私の『黒』の威圧感を前にしても、不敵な笑みを崩さなかった。


 ……いや、よく見るとその額にはうっすらと冷や汗が浮かび、視線が泳いでいるように見える。昨夜の庭園で、私たちが抱き合っているのを物陰から見ていたのだから、当然と言えば当然か。気配を消したつもりだろうが、私の耳は欺けない。


「お初にお目にかかります、皇帝陛下。辺境の一族に、一体どのような御用でしょうか?」

「ガレス・ヴァルハイト、単刀直入に言う。……今回の夜会が終わった後も、そなたの妹、ロクサーナをこの帝都に留め置きたい」


 私の言葉に、ガレスの目が一瞬で据わった。野生の獣のような鋭い視線が私を値踏みする。


「……それは、我がヴァルハイトの武力を人質として帝都に縛り付けたい、という政治的な意味でしょうか。それとも――」

「政治などではない。私が、一人の男として、彼女を望んでいる」


 ガレスは驚いたふうを装っているが、昨夜の私の「本気」を聞いているはずだ。普通の貴族なら恐れつつも、出世のチャンスと喜ぶところだろうが、この男は違った。


「陛下。我が妹ロキシーは、帝都の淑女のようなお上品な真似はできません。肉を愛し、剣を愛するじゃじゃ馬です。陛下のような高貴な方に、大人の遊び相手として消費されては堪りませんな」


 ガレスの言葉には、明確な拒絶と、妹を守ろうとする強い意志が籠もっていた。なるほど、妹想いの良い兄だ。だが、私はふっと、冷ややかに唇の端を上げる


「遊びなどではない。彼女を私の、唯一の『正妃』として迎えるつもりだ。ヴァルハイト辺境伯家には、すでに帝都の特等地に新たな領地と、彼女のための宮殿を用意する旨の親書を送った。辺境伯領の冬の備えの支援も、これまでより増やそう。……これでも、不満か?」

「っ……!」


 ガレスが初めて息を呑み、絶句した。

 あまりにも破格の条件。断ればヴァルハイト家が王敵とみなされかねない、皇帝としての絶対的な『外堀埋め』。


(……ロクシー、お前、とんでもない男を捕まえてくれたな……!?)


 これほど冷酷で、女に興味のなかったはずの皇帝を、ここまで狂わせた妹の恐ろしさ(?)に、ガレスは内心で盛大に頭を抱えていた。


「……随分と、本気のようですね」

「言ったはずだ。一人の男として望んでいる、と。そなたたちに拒否権は無い」


 私は口元に笑みを浮かべ、ガレスを睨み据えた。

 今夜は、一週間続いた夜会の『最終日』。


 ロクサーナ。何も知らずに今夜も庭園へやってくる愛しい人。

 そなたが望んだ通り、そなたを私のものにする。もう、私の檻から逃げることは許さないーー。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。