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鬼ノ目 六節・旧国、溺るる虚像  作者: 三Ⅲ三Ⅲ三
中篇・菊花開、霽月の徒路(全50話)
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六十四話 弱者


 最初は、最後の最後まで自分がなにをされているのさえも、それが何であるかすらも弥代は理解出来ぬ儘、気が付いた時には全部終わっていた。

 急に強く降り出した雨から逃れるためだけに入った、人が暮らしているようには到底思えない古びた家屋の中でそれは起きた。

 誰もいないと思った、雨で濡れてしまった服をそのまま着ていては余計に体が冷えることを知っていたから、乾くのに時間が掛かってしまうから待つまではせずとも、せめて雨が()むまでの(あいだ)だけは脱いで過ごす事とした。

 そうして外から激しく打ちつけるような雨音しか聞こえなくなった頃、やっと寝入れたと思った直後だった。

 先刻の自分と同じように雨宿り目当てか、慌てた様子で空き家に潜り込んできた男二人に気が付いた時には取り押さえられていた。

 “色持(いろも)ち”の子どもが、それも娘がこんな場所で一人なにをしているんだ、と()かれたのに対し、当時はまだそれほど、“色持(いろも)ち”と呼ばれる存在がどれほどまでに非道(ひど)い扱いを受けるのかを弥代は分かりきっていなかったから、老夫婦と共に暮らしていたあの集落から離れて、季節が巡りきる前であったものだから、馬鹿正直に、素直に答えてしまった。

 抵抗をしなかったわけじゃない。

 でもそれ以上に、純粋に、大の大人を二人相手に、一度取られた上を取り返すのがあまりにも難しかった。




(中略)


 この世がどういうものかを分かってき始めた、自分がどれほど弱い立場であるのかを弥代が理解出来始めた頃、この手の事を強いてくる、無理強いをしてくる連中に言葉なんてのは通じないだろうと分かってはいたのだが、この男になら通じるんじゃないか?と思える相手に出会えたもので、去り際にちょっとだけ声を掛けてみた事があった。

 弱い立場であるのかを理解出来始めた、といってもそれはこれまでの事を踏まえ、自分がされてきたのに対し、そう口々にする連中の言葉が一様(いちよう)に同じであったからでしかなく。本当にそうなのか、という確信がどうしてもなかった。

 直接手を出されたわけじゃない、自分の趣味ではないだとかなんとか。そんな事を言って、身内が弥代に手を出してくるのを傍から見るばかりの、見張りを引き受けていただけの男だ。

『まぁ、そうだなぁ。

 “色持(いろも)ち”の……それも嬢ちゃんぐらいの子どもが一人、っていう丁度いいモンが上手いこと合わさっちまってるからだろうな。』

 運が()かったな、とだけ言い残し、それ以上なにもせずに去っていく。

 仕方がないだけじゃなく、運までないからこんな目に遭うのか、と諦めがついた。

 そうか、これはそういうモノなんだ、と弥代は自分に言い聞かせることに成功した。






 菊花開(きくのはなひらく)霽月(せいげつ)徒路(かちじ) 三十九話


※性暴力描写が含まれるため、全文の公開は控えております。

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