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鬼ノ目 六節・旧国、溺るる虚像  作者: 三Ⅲ三Ⅲ三
中篇・菊花開、霽月の徒路(全50話)
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六十三話 初物

 望んでいやしない、目の逸らしようなんて本当はありはしない。逃げ道があるわけもない奥へと、一方的に置いていかれる熱なんてものはただただ気持ち悪いだけだ。

 なにを勘違いしたのか押し付けられる、身勝手に密着してくる不快さを、どうせ相手が理解することはないだろうと分かっていながらも。抵抗なんてするだけ意味のない、奪われる立場を余計に(きょう)()なものにさせてしまうだけだと知っていても、ついつい節々(ふしぶし)に現れてしまう。

 反射的に動いてしまうものを、無意識なものまで(おさ)え込める筈がない。抑えが()くわけがない。

 乱雑にばかり(あつか)われて、息を吸う自由さえろくに与えられない。そんな事をしてくる相手というものは決まって、満足そうな表情を浮かべる。

 それが意味する(ところ)を、どうしたって弥代は理解出来ない。そんなものを理解出来るようになんて、それだけは絶対にしたくなかった。






 この場において、やはり先の男だけが異質だ。妙に落ちつている、先程離れていった男とは違い、自分にまるで興味のないような反応を(しめ)す。

 しかし、男の言動はどうにも、どれも場を仕切るものが大半だ。

 声を一つ張り上げようものなら、それに返事がしっかりと(かえ)ってくる。立場が偉いのは明白。そんな相手に対し、我慢ならず足が出てしまったのはあまりにも良くなかっただろう、と。そんな事を頭の隅で考えながらも、弥代は息を(ととの)える。

 今も()だ、自分の上に馬乗りになる男の顔を大人しく見上げる。地についた途端に足がふらつきはしたものの、立つことすら(まま)らなかったのはそうなのだが、足そのものを持ち上げようとする事は(かな)うのだ。

 慣れさえすれば、立てずともそれぐらいが出来るのだと(はな)から分かっていれば頃合いを()(はか)らい、根気(づよ)()うなりをして此処から脱することだって出来るのではないか、を考える。

 そう、だ。今はどういうわけか立つ事が叶わなかったが、なにかしら、そういった変なモノ、毒なりを意識のない内に飲まされて、それで思い通りに動くことが出来ないというのなら時間が経ちさえすれば幾らかマシになり、それで元通りになるのではないか、などと希望を(いだ)く。

 大袈裟な抵抗を見せようものなら、それこそそれは相手を喜ばせる、調子()かせるだけに過ぎない。悟られないように今はどうにか、どうにか大人しくやり過ごすのが、その時が訪れるまで従順そうな芝居(フリ)をするのが賢いだろう、と静かに、眈々(たんたん)と息を潜める事を心掛ける。心掛けたいの、だが――

「俺と一緒にいた……ふ、二人はどこにやりやがったんんだ、よ?」

 いざ口を突いて出てきた言葉は、とてもじゃないが震えていた。これぽっちも隠しきれていない、滲み出るものに気付けない者は余程の馬鹿だと、その様に思えてしまう程。(はっ)した弥代自身がハッキリと気付けてしまうのだから今更、(つくろ)いようがある(わけ)がなかった。(さと)そうな、この場を()り仕切る立場にいるであろう落ちついた男がそれに気付かない筈がない。

「なんだ、テメェの事で手一杯かと思ったら随分と……、やっぱ余裕があんじゃねぇか嬢ちゃん?」

 傾く火皿(ひざら)の奥に灯る熱を見る。この状況で(けむり)などを()かす男の方がずっと余裕そうに見えるのはいっそ厭味の様に弥代の目には(うつ)った。

「餓鬼のくせして働ける頭は持って居やがるじゃねぇか」と、口にする。その意図が一瞬、弥代は理解出来なかったが、しかし直後、それどころではなくなってしまう。

 やはり満足に立てることは叶わない足を、そうだと分かっていても腹周りに力が籠り、無意識の内にジタバタとしてしまう。(わき)にいた男達に取り押さえられるのはあっという()の事だった。

「な……にッ、しやが、ン……ァアッ、」

「売りモンの状態を知らずになんて礼儀の()ぇこと出来るわけねぇだろう?」

 馬乗りになられた直後に雑に股へと触れられた時よりもハッキリと、指が這わされる感覚に体全部が丸ごと跳ね上がった。

 跨られている為に、胴より先が今どうなっているかが弥代には分からなかった。しかし、男の声が少しばかし遠くなる。顔に関しては見覚えのない、恐らくは後になって男と一緒に()でもしたのだろう別の男によって押さえつけられる。

「いやぁよ、あんな大の大人二人なんかと堂々と一緒に居やがる、大人を馬鹿にした口振りが矢鱈と目立ってたモンだからな、おめぇさん()の関係ってのがちょっとばかし気にはなってたんだぜ?

 おやっさんが欲しがるぐれぇ上等な身なりしてやがる、この“色”も含めりゃ東国(とうごく)の……、なんてのはまぁ頷けるには頷けるけどな、おめえさん等ぐれぇ歳が離れてそうな連中の、しかも神使だなんだと嬢ちゃんを前に出しやがったあの……あぁ、ほら、口の(うるせ)ぇおっさんの方。

 どっからどう見ても立場が変だろうよ。だからよ、ここ数日見てて小姓かなにかだとオレぁ見立ててたんだけどなぁ。趣味の悪ぃ男色かと思ってやがったんだがな、まさか蓋を開けてみりゃ男ですらなく女で、更には初物(はつもの)と来やがった。

 ほんと魂消(たまげ)させられたわ、そうだって分かってりゃ値が釣り上がるからもっと丁重にもてなしてやったって言うのによぉ……?」

※性暴力描写が含まれるため、全文の公開は控えております。

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