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鬼ノ目 六節・旧国、溺るる虚像  作者: 三Ⅲ三Ⅲ三
中篇・菊花開、霽月の徒路(全50話)
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三十七話 茶室

 言い訳なんてものは始めてしまえばキリがない。

 しどろもどろになりつつも、それでも違んだ、そうじゃないんだ、と(なか)自棄(やけ)になって(わめ)き立てる。そんな態度が余計に、既に締まりきった首を更に締めているのぐらい分かり、たとえ寝起きであろうとも頭の隅の方では理解するぐらい出来た。

 ただ、「なんで」「どうして」といった最早(もはや)お得意の言葉を並べるてしまうのだけは、これまでとは違うんだと自分に強く言い聞かせグッと、(こら)えてみせて。

 しかし――、

「も……、もぅ勘弁(かんべん)……してぇ」

 次第に積み重なっていくソレがなんであるかも分からぬまま、弥代は(こうべ)

「おはようございます弥代様ッ! 既に御目覚めとお聞きし、不祥ながらこの稲葉隆棋(いなばたかよし)、本日も弥代様の身の回りのお世話をさせていただきた――

「次から次へ……、なんなんだよ本当にぃい……」

 弥代は、畳に泣き(くず)れ、涙せずにはいられなかった。

 どうしてこんなことになったのか。思い出せる範疇(はんちゅう)で弥代はどうにかこうにか振り返ってみることに、畳を濡らしながらも状況を一人整理する事を(つと)めてみた。それは今々自分が置かれている状況から少しでも抜け出したい――打開したいというい一心(いっしん)から来る切実すぎるもので、

「弥代……、」

 縋る心許(こころもと)ない呼び掛けから弥代は今は意識を(そら)さざるをえなかった。






 ()ず最初に弥代が目を覚ました時、どういうわけか弥代の傍には背を(ただ)した状態の春原がいた、弥代はあまり長く維持するのが得意ではない姿勢で。

 しかしどういうわけか春原()は、寝ぼけ(まなこ)で擦ったところで(たい)して開くことのない(まぶた)の間からでも(うす)ら分かる程度には、ふるふると小刻みに体を震わせており。八月も暮れの朝方は時折急激に冷え込むことがあるものだから、布団に入っている様には見えないものだから、肌寒さに()えかねて震えているのだろうぐらいに弥代は一旦は捉えてみたのだが、寝起きの頭なりに今一度よくよく考えてみると、何故自分が寝ていたすぐ(かたわ)らにお前がいるんだよ、という考えが弥代には浮かび上がり。

 それと同時に弥代は目覚めて早々、珍しく体を起こしてみせ、そうして、

『なんで()んの、お前?』

 そんな言葉を投げ掛けたそうだ。

「――それで、次は何があったのです?」

「いや……えっと、だからその、ね?」

 (うなが)されるまま、弥代の思考は次に進んだ。



『なんで()んの、お前?』

 そんな弥代の問い掛けに、春原はこれでもかと言うぐらい分かりやすく、弥代が欲しかった答えを、順を追って答えてくれた。

 どうやら昨晩は自分が彼を部屋に、何やら話がしたい、()きたい事があるからと誘い、そうして長い(あいだ)ふたりきりで話をしたそう、だ。そこに至るまでの経緯も含め、昨夜の相良の酷い酔っ払い方であったりにも触れられた為、自分が彼を部屋に誘った、という覚えはなかったものの、想像したくはないが出来てしまい妙に合点(がてん)がいってしまった。が、それだけでは彼がどうして目覚めた弥代のすぐ(かたわ)らにいたのかまでは分からず、それについて再度(たず)ねてみてやっと、

「……やっと?」

「お、俺が……その、」

 弥代が春原の裾を掴んでいることを指摘された。

「……どういう状況ですか、それは?」

「俺が聞きたいよそんなの……ッ」

 持っていた椀からポチャン、小さな音が耳に届く。

 出来ることなら声を掛けてやった方がいいのだろうが昨晩のことがあり、正直なところあまり喋るという行為そのものが相良は気が進まなかった。とはいえこのまま落ち着きを取り戻さぬまま弥代が椀の中味をぶち撒けてしまうような事だけは未然(みぜん)(ふせ)がねばならず、コホンと一つ咳払いを相良は(はさ)んでみせた。

「続き、を。」

「ぁ…………、はい。」

 箸をお盆の上に戻す、その一連を目で追う。

 それなりに(さま)になりつつある、板に付きつつある作法に(うつ)る。動きはまだ見様見真似のぎこちない部分が目立ちはするが、それでも胡座(あぐら)()いたり、迷い箸や箸先を口に(ふく)んでみせたりといった品性のない(たたず)まいが目に余っていた頃よりは十分すぎるぐらいマシになりつつ、改善に向かいつつあるのは紛れもない事実、目に見える成長ではあった。

 ただ聞き入れるだけに(とど)めず、そこから覚えたものを身に付け、自分のものにしようとする姿勢はこれまでの来歴であったりを踏まえてしまえば称賛に値しないわけがないのだが、直近の自身に対する態度であったりを思い返せばこの場で軽率に評価するのは控えておいて間違いはない、良くない傾向だ。

 甘やかしすぎた、というわけでは断じてない。それなりに(きび)しく、知らぬことを教えてほしいと強請られた時に限り、可能な限り言葉を()くし、時間を()き向き合う姿勢を、見せる態度に見合った姿勢を此方(こちら)も見せたに相良は過ぎなかったわけだが、如何(いかん)せん()が悪過ぎ――弥代(相手)が思っていたよりも無垢(むく)過ぎた。

 到底それは……、それは長いこと遠目ではありながらも弥代の事を見続けてきた相良からしても全く、(いや)、ある程度はその可能性も加味していた、これぽっちもしていなかったなんて事は一切無かった、のだが、あまりにも度を、()えていた。

 手のひらをくるりひっくり返すなんて可愛いものじゃない。頭と足をそのままそっくり、天地でもひっくり返ったのかと思わずにはいられない程までに弥代の態度はあの日、あの晩以降変わった。

 これまでは……そう、昨晩酒に呑まれた際に西条(さいじょう)家の前当主を前にベラベラと(まく)し立てた中に含まれていた通り、これまでの弥代は相良とのやり取りの中で一度も相良の名前を口にしない、なんて事は珍しくなかったわけだ。

 口が悪く、それを取り(つくろ)おうなどという考えがあるわけがない。弁がそれほど立たないというのが分かった上で、気に食わない、自分が納得がいかないというだけで噛み付いてくる(さま)が、その無知さと考えなしの勢い任せの態度がひどく愚かしく見えていたのだ。

 だったというのに、それが本当に、どうしてこんな風になってしまったのだろう、とこの頃はその代わりように頭を悩ませる、頭の隅で常に気にするようになってしまった。

『相良さん!』

 ころりころり、と(はず)むのは体ばかりでなく、声色(こわいろ)もまた、あまりにも顕著(けんちょ)すぎて困った。

 伏せ気味であった、目つきの悪い釣り上がった(まなじり)も一体何処へやら。大半を(おお)い隠すのに一役買っていた(まぶた)が大きく開き、長年()の目を浴びることがなかった反動、というのは多少表現に誤りがあるだろうが、が、そう思わずには()られない(ほど)、陽が(のぼ)ればそれで揚々(ようよう)と、青々と輝いてみせる草花のように活き活き……、と。

『相良さんッ‼︎』

(こっ、子どもかッ‼︎)

 ――子ども、である。

 それは紛れもなく、なんなら見た目相応な、相良が本来であれば弥代に見ていた子どもらしい態度、そのもので――、確かに。

 確かに相良は、弥代に対し道を、弥代がこれまで向き合えずにいた個々に向き合えるように、そうなれるまで付き合うと、知らぬことがあれば、それを知りたいと望むのなら自身の知る限りを教えてやってもいいと、そう、伝えたつもりではあったが、(いや)、こうはなるまいといった方向に嫌になるぐらい進みつつあるのが今まさに、といった状況である。全くもって()(がた)い。

「――そんでね、絹さんと…………えっと、名前何だったかな、つ……ゆりさん、って人に散々さ揶揄(からか)われたんだよ。で、そしたらちょっとして一昨日の……なんてったっけ、たかいし? ……が、朝っぱらから来やがってさ、」

「これより名を(あらた)稲葉(いなば)“たかいし”と名乗りましょうか? して、“たかいし”の“いし”はどの様な字になりますでしょうか弥代様!」

「ぇ、……あっ、い、いきなり話に入り込んでくんなよお前。いま俺は相良さんと話してんだろう。ち、近ぇんだよ、なぁ?」

「も、申し訳ございません弥代様っ、名を与えられたと勘違いしてしまい舞い上がってしまいまし――

「お前はさぁあっ‼︎」

「…………。」

 ズズッ、と普段なら立てることもない音を立てて、相良は汁物を啜った。

 ズキズキとした、頭痛はまだまだ(おさま)りそうにない。






 菊花開(きくのはなひらく)霽月(せいげつ)徒路(かちじ) 十二話






 つまるところ、昨晩の弥代は自分が気付かぬ()に酔っていたわけだ。

 西条家の敷地に踏み入って直ぐ、草履(ぞうり)を脱いで(ほど)なく、熱い湯の支度も出来ていると言われ食い()よりも湯に()かることを弥代は優先した。逆上(のぼ)せあがることなく一日歩き(とお)した、酷使した((いや)、言うほど酷使していないのは分かっていたが)体を(ほぐ)し終えて、それから訪れた、屋敷の女中に案内された広間で夕餉を前に(くつろ)ぎ、恐らくは最初に口をつけたそれが酒であったのだろう。

 ()きっ(ぱら)に酒はあまり良くないとはよく耳にするのと、湯上がりという組み合わせが悪かったのかもしれない。どちらか片方であったのならもっとマシな、起きた事をあまり覚えてない、なんてひどい酔い方はせずとも済んだのではないか、と思う。多分。

 (いや)、酒に手を伸ばせば醜態を(さら)してしまうと分かった上で酒に手を出した自身がそれをとやかく言う資格はないことぐらい百も承知なのだが。それはさておきと言うやつだ。決して自分の行いを棚に上げているわけではない。断じてない。

 そこで一旦、相良は思考を区切ることとした。

 昨晩の(うち)、酒を口にする以前の西条家(この)屋敷の軽い造りであったりを屋敷の主人が()ずから案内をしてくれ、その際に主人の部屋が位置すると説明を受けた、中庭を抜けた先に位置する、一見(いっけん)すると()じんまりとした茶室のように見受けられる外観との距離が(せば)まってきたからだ。

 主人の賓客(ひんきゃく)よりも(こうべ)を高くすることはなく、低く(たも)ったまま案内をする屋敷の女中はどの者も(ひと)しく教育が行き届いているのだろう。雇っている人数もそれほど多いといった印象はない。この手の者は幾ら人手があった方が手が回るといっても限度がある。少なく()らぬよりは多いに越した事はないが、多過ぎても教育が行き届かず、それが(ほころ)びを生みかねない、予期せぬ、把握しきれぬが為に不祥事が起きてしまうなんてのは珍しい話ではない筈だ。

「こちらになります。」

 灯篭(とうろう)蹲踞(そんきょ)と始まり、手水鉢(ちょうずばち)に飛び石、苔といった要素が調和してみせる屋敷の中庭は、その四方を囲むように壁が存在するのを忘れてしまいそうになるほど、奥行きと余白を感じさせる、腕のある庭師が小忠実(こまめ)に手入れをしている、腕を奮っている姿が自然と浮かぶ程の仕上がりを見せていた。茶室に設けられた小窓から覗く中庭の様子は、それだけで見応えがあるものだろう。

 榊扇の里を統治する扇堂家の、大山の斜面帯に建てられた屋敷の至るところには、四季を彩る花々が忠実(まめ)に植えられていたのをふと思い出すも、それは純粋に屋敷の主人の趣向によるものであろう。小忠実(こまめ)な手入れも重要ではあるが、庭を整えるのが仕事とはいえども職人にも休みというものは適度に、(いや)、庭師に限った話ではなく、皆平等に当然の事ながら必要である。

 庭分野に至ってはそれほど知識があるわけではない、良し悪しが分かるわけでもない相良ではあるものの、それでも江戸五木(えどごぼく)に数えられる、木斛(もっこく)赤松(あかまつ)糸檜葉(いとひば)(かや)犬槇(いぬまき)のような造園木(ぞうえんもく)の方がはるかに手入れが楽であることぐらいは分かり、それを考えると扇堂家の屋敷の庭の手入れというものは本当に――、

屋敷内(あれら)全ての手入れをせねばならぬ庭師というものは、余程(よっぽど)お給金が高いのでしょうね。)

 屋敷の広さ(かんが)みても、西条家の屋敷が五、六個はなくては埋めきるには難しいぐらいの大きさを、記憶が間違ってなければしていた。ここまで思い出したものだが思わず(かぶり)を振るう。知らぬが(ほとけ)などと、この場に仏を持ち出すのはどうにも場違い、失礼に値する気がしなくもないが少しばかり相良は目を(つむ)ってみせた。

 そして、女中が身を引いた先にある、手水鉢(ちょうずばち)から柄杓(ひしゃく)(もち)いて水を(すく)い、それで手指を(きよ)めた。

「失礼します。」

 声を掛ける。茶室の主人――もとい主催者(亭主)(ことわ)りを入れずに中に踏み入るような事をしてはならない。

「お待ち、しておりました。」

 低い入り口に合わせ体を(かが)め、招かれるがまま中へと入れば、比較的直ぐに亭主(ていしゅ)であり、この西条家の屋敷の主人でもある西条銀嶺その人、と。赤く色づく紅葉(もみじ)とは別の秋を(いろど)る、山城国(やましろのくに)以外では滅多に目にすることが本来ないとされる、“黄”色い瞳を持つ老夫と静かに目が合った。

「長旅のお疲れもまだ残っておられたでしょう(なか)、この様な老耄(おいぼれ)の我が儘で急にお呼び立てをしてしまったにも関わらず、お越しくださった事に対し感謝いたします。ようこそおいで(くだ)さいました。

 さぁ、どうぞ。堅苦しいのはお辛いでしょう、足は崩し、ごゆるりと(くつろ)いでいただきたく。」

「御気遣い、ありがたく頂戴(ちょうだい)いたします。では御言葉に――御好意に甘えさせていただこう、かと。」

 持ちかけらえる提案に、後ろに視線を送ると自然と自分と似た“赤”を持つ瞳と視線がかち合う。今しがた亭主と目が合った瞬間と同じ要領であったものだから十中八九、どうせ相良(此方)が振り返るのを待ってでもいたのやもしれぬ。それ以上触れてやろうという気は、(しばら)く湧き出てくることはないことだろう。距離を(はか)り間違えてしまわぬよう様子を見ねばなるまい。

 相良は一歩、遠退くこととした。



 茶の作法などとというものは、(まね)かれたこともない、呼ばれ慣れない者が知る(よし)がない世界だ。

 幼少の頃、旧知(きゅうち)の相手から祖父に声が掛かり、といった事は決して少なくはなかったが、相良自身が一緒に招かれるという事は(ほと)んどなかった。茶室というものは子どもがそう易々(やすやす)と踏み入っていい世界ではない、等と聞かされて育ったからだ。

 しかし祖父亡き後、祖父の方々の知人の元を転々とする(うち)に、機会はそれほど多くはなかったがそれでも、

(付け焼き刃にも満たぬ程度に期待など、するだけ無駄などという事ぐらい分かっていますとも)

 ほんの少し、思考が卑屈に(かたむ)いてしまう。いくら知識を、人より多くを知っていたとしても、生まれというものは生きている限りどうしたって付き纏うものだ。

 生まれからして真っ当な、育ちの良い者を前にすれば骨身に長年染みついた、所作というものに意識せずとも自然と現れるものであり、生家(せいか)すら持たぬ自身は意識しなくては振る舞うことの出来ぬ、どうしたって縁遠い習性(モノ)だ。

 つい先日、弥代に教えてやった、襤褸(ぼろ)が出るという言葉が(まさ)しく自分には似つかわしいことぐらい、相良は嫌というほど分かっている。

 が、知らぬ、無知を装える(ほど)、自分は器用ではない。それこそすっかり骨身に染みついた虚言(きょげん)が、勢いを全く殺しきれず、どろり(くち)を突いて出てきてしまうそうにな、

「――相良、殿。」



『相良さんは本当に色んな事をよくご存知なんですねぇ。』

 山城国(やましろのくに)に立ち寄ったことがないわけではないが、彼ほど分かりやすい抑揚混じりの口調を耳にしたことはあまりなかった。

 けれどもそれは自然と、(いな)、いっそ不自然なぐらい耳に馴染(なじ)んでみせ、聞き慣れているというわけでもないのに彼が何と言っているのか、その意味を汲み取ることが出来た。

 世にも珍しい、生まれつき“色”を(ゆう)していたわけではないにも関わらず“色”をその身に宿(やど)してみせた、白髪(はくはつ)に黄色い瞳をする彼は、藤原和馬と言った。

 境遇までが同じ、というわけではないが、藤原和馬()と同じように、持って生まれた“色”とは違う“色”を訳あって(ゆう)する相手に相良は覚えがあっただからそれに対し特別触れようといった行為をした事はないのだが、それでもどうしても、(みずか)ら望んだ結果“色”を、本来背負わずとも()いものを背負う道を選んだ彼を、頭の隅で気に掛けることは少なくはなく。

 相良が言葉を掛ける事を躊躇するのに対し、彼は物怖(ものお)じすることなく真っ直ぐ、素直な心根(こころね)より発せられる言葉を、自身の気持ちに嘘など()くことなく紡いでみせるもの、で。正直な話、それほど相良は彼と言葉を()わすのが得意では、なかった。

 ふと、今この場に()もしない彼の事を思い出し、彼の事を心の奥底、本心ではもう随分と長いこと、あまり得意ではないと感じていたのを思い出し――触れてしまったのは紛れもなく、今まさに対面する、昨晩より世話になっているこの屋敷の主人であり、茶室の亭主である西条銀嶺その人の、その眼差しが藤原和馬()のそれをあまりにも強く彷彿(ほうふつ)させる、そういったモノであった、からだ。 山城国以外では滅多に目にすることが本来ないとされる“黄”色い、瞳。その数は元々それほど多くはないとされる“色持(いろも)ち”の中でも特に(ゆう)す者の数が限られており、確か山城国で(まつ)られるという現人神(あらひとがみ)の髪の色、が――

「気に、なられますか?」

「……ぇ、」

 後手(ごて)に回った挙句、言葉をまともに(つむ)げないのは本当に珍しいことだ。

 (かげ)ることを知らぬ、駿河の地より引き取った“色持(いろも)ち”の少女もまた、“黄”色い瞳をしていた。

 駿河――あるいは駿河近郊の生まれではないか、とは思うのだが、それにしては南に生まれ(いず)る“色持(いろも)ち”に見られるとされる“赤”に、山城国で見られる“黄”色などという、“色持(いろも)ち”の中でも(るい)を見ない組み合わせをしていた。

 今、自分が向き合う相手は、自ら(ごう)を背負う覚悟を決め、茨の道を選んだ白髪の彼でなければ、人の手によって顕現してみせた【神】を母とし、その寵愛(ちょうあい)一身(いっしん)(たまわ)った赤髪の少女、でもない。

 それは、何とも言い()れぬ、これまで味わった事のない感覚、だ。

 【人】、であろう。

 【人】、であるという事は疑いようの、他の者と違い、()ることが叶う、特別な(さい)を持つ相良であるからこそ断言が出来る、紛れもない事実であるはず、だが――、

「どうかされましたか?」

 人が纏う【気】に違いはないというのに、その在り方(佇まい)はあまりにも相良のよく知、った……

『――志朗(しろう)、』











 ()れというものはどの種も、(いづ)れは()されるものである、それを(わたくし)は悪いなどと考えているわけではなく、ただ何故(なぜ)何故(なにゆえ)に知恵を集める事が出来るというのに、手を取り合う事が出来ぬというわけではないというのに、()えず(あらそ)いを、人が人を苦しめる世が生まれてしまうのか、と。

 それが(いた)く……信じられぬ、と。

 その(よう)に考えてしまう、皆に溶け込むことが出来ぬ自分自身が恐ろしく仕方がないのです。

 どうか……、どうか、(わたくし)を御導きいただけませんでしょうか、時雨(しぐれ)様。

 

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