#13.
切り落とされた首が床を転がった。
プリシラを侮ったエルフリーデの敗北だ。しかし、自身の敗北を認められないというように、床を転がる頭部が悲鳴混じりの叫びを上げた。
『あり得ない。どうして当然のように受け入れるのだ? なぜ貴様が彼の正体を知っているのだ!!!』
エルフリーデが悲鳴を上げるたび、彼女の顔がピキピキとひび割れた。剥がれ落ちた皮膚が、埃の積もった床に白くこぼれ落ちる。
一歩、二歩。
「なぜ知っているのかって? 当然でしょう」
エルフリーデに歩み寄ったプリシラが、冷徹に言葉を継いだ。
「いくら優れた魔法使いでも、両腕と舌を切り落とされ、最低限の人道的処遇すら受けられない状況で、三年以上も生き延びることはできないわ」
リベリアで再会した瞬間から、不自然だと思っていた部分だった。
彼がどれほどの大魔法使いであれ、両腕と舌を失い、まともな魔法も行使できない状態で三年も生き長らえるのは道理に合わなかった。
そして、回復力もまた人間にしては異常に高かった。プリシラの回復スキルは大したものではない。それなのに、彼はわずか一日で床を払い、立ち上がった。そんな姿を見て、誰が人間だと思うだろうか?
決定的に確信したのは、ケルピーに出会った時だった。人間が持ち得るはずのない、圧倒的でありながら清涼な魔力。数年間、戦場で嫌というほど向き合ってきた魔力と、鳥肌が立つほど似通っていた。
分かっていた。最初から。
だが、それが何の問題だというのか。
「私にとってリュエンはリュエンよ。彼がどのような存在であるかは重要ではないわ」
静かに告げられた、偽りのない彼女の言葉に、リュエンの視線がプリシラに向けられた。
振り返ってみれば、プリシラはいつだって一貫してリュエンに接していた。
彼女にとってリュエン・シェイルグは、どこにでもいる平凡な一人であり、彼女が助けるべき対象に過ぎない。
その事実に、数えきれないほどの感情が渦巻いた。
私はこれほど無能なのに。
何もできない怪物に過ぎないというのに。
それでも彼女は大丈夫だと言う。
構わないのだと。
私はただの私なのだと……
私のすべてを肯定してくれる。
なびく黒い髪が、いつまでも視界に残った。溢れ出す感情に、名前をつけることができなかった。
リュエンのすべてを肯定するプリシラの答えに、エルフリーデの神経質な笑い声が続いた。
『ハハハ、アハハハ!!! 本気でそう思っているのか? 彼の正体が重要ではないと? ええ、愚かにもそう考えていた時期が私にもあったわ』
ひび割れた顔が、頭を失った胴体が、徐々に形を失い始めていた。最後の一撃を加える価値さえないほど、エルフリーデの体は虚しく崩れ落ちていく。
死が目前に迫っているというのに、エルフリーデは笑みを崩さなかった。
まるで、何かを待ち構えてでもいるかのように。
『それが単なるキメラであったなら、私も貴様のようにしたでしょう! 愛を与え、慈しんだでしょうね。けれど、それは違うのよ、プリシラ・ライデン。それは包み込もうとして包み込めるものではないの』
教え諭すような彼女の物言いが癪に障る。確実にとどめを刺すためにエルフリーデの手を待っていたプリシラだったが、堪えきれずに彼女の眉間に剣を突き立てた。再び神経質な悲鳴が周囲に響き渡った。
「それがどうしたのよ。包み込もうがどうしようが私の勝手だわ。あなたごときの指図は受けない」
『貴様は必ず後悔するわ。私と同じようになって初めて、間違った選択だったと後悔するのよ』
「その後悔さえも、私の選択だわ。私が選んだ道を進むのに、あなたの感想も忠告も許可も必要ない」
『……プリシラ・ライデン。殺してやる。貴様を殺してやるわ!!!』
「お説教ごっこはもうおしまい? リュエンが怯えていたからどれほどのものかと思えば、結局リュエン限定の威勢だったわけ?」
プリシラが片方の口角を吊り上げ、嘲笑を浮かべた。剣を突き立てられたエルフリーデの顔が歪む。その瞬間、プリシラの周囲に数億匹もの真っ黒な羽虫が飛び出した。
魔力を帯びた羽虫たちは、この上なく貪欲に襲いかかってきた。剣を持ち上げたプリシラは、沈着に剣を振るった。
プリシラの剣には守護と浄化が付与されている。聖剣と呼ぶに相応しいその剣に、たかが魔力の残滓しきりが耐えられるはずもなかった。
剣撃が炸裂すると、瞬く間に羽虫たちは消滅した。
抗う術さえない圧倒的な武力の前で、エルフリーデが再び神経質な悲鳴を上げた。
悲鳴を上げることしかできない愚かな者。ここまでくると、彼女が不憫にさえ思えてきた。
『なぜ、なぜ私ではなく貴様なのだ! 彼は私のものだった。なぜ私から奪う? 貴様ごときが、なぜ私のものを持ち去るのだ!!!』
「リュエンは誰のものでもない。そもそも、あなたに生命を支配する権利などない」
『いいえ!! すべては私のものよ。リュエンも、ガエルも、この世にあるすべてが! すべて私の物であるべきだった、あるべきだったのよ!!!』
「一体誰が決めたのよ。あなたのものだと」
『すべてはそう定められているのだ!! この地に生きるすべての生命は、骨の一片、血の一滴、魂の一掴みまでもが私のもの。ガエルズケンティアは私のために造られた楽園であり、この世界は私の玩具なのよ。それが不変の法則……』
「黙って聞いていれば、本当に聞いていられないわね。そんな下らない妄想のために戦争を巻き起こし、ガエルの住民たちを地獄に閉じ込めたというの?」
プリシラの冷ややかな声に、色あせた謁見の間が凍りついた。胴体だけとなったエルフリーデに近づいたプリシラが、彼女の体に剣を向けながら言った。
「すべての生命には、死の後に安息を得る権利があるわ。その権利さえ蹂躙した貴様を、私は許さない」
『許さないだと? フッ、アハハ! 貴様しきりが許さないからといって、どうしようというのだ?』
「どうするのかって? それは……」
口角を上げたプリシラが剣を下ろした。そして、軽く手を伸ばした。虚空を撫でるように、彼女が手を振るった。
[能力弱体化:スキル弱体化、防御弱体化、魔法弱体化、攻撃弱体化、精神力弱体化、体力弱体化、適応度弱体化。弱体化数値:最大。]
エルフリーデの魔法が弱まると、虚像に過ぎなかった王城が徐々に消え始めた。
崩落や融解ではない、完全なる消去。
「あなたが壊したすべてを元に戻してあげるわ。囚われた魂たちを浄化して、あなたの痕跡なんて一片も残らないようにしてあげる」
『神の領域に手が届くとでも思っているのか? 貴様ごときが?』
「今の私には、それができるのよ」
崩れゆく謁見の間を見守っていたエルフリーデが、呪詛の言葉を吐いた。しかしプリシラは、その言葉を聞き流した。聞く価値などないからだ。
「死はあなたにも平等に訪れるでしょう。私に、生かして苦しめるような趣味がないことを感謝しなさい」
『いいえ、私は死なない。これで終わると思うなよ、プリシラ・ライデン。私は……』
「聞く時間さえ惜しいわ。安っぽい悪役のようなセリフね。さあ、脇役は退場する時間よ」
言い終えたプリシラが、あらゆる付与を終えた剣を振り上げ、最後にエルフリーデの体を切り裂いた。
けたたましい悲鳴と共に、彼女の体は塩の柱となって崩れ去った。それと同時に、暗い空が青い光に染まっていった。
長い夜が明け、朝が来ようとしていた。




